二
「つまらん、つまんない、たいくつだぽん。」
チサトは、王宮のわたり廊下で、中庭に向かって置かれたベンチにすわり、することもなく時間を持てあましていました。
向こうの方、中庭の花壇のあたりにも、植木の上に雪がこんもりとつもっているのを見て、そちらにあそびにいきたくてたまらないチサトですが、そういうわけにもいきません。今のチサトには、パパのにもつの番をするという、たいせつなお役目があるのです。廊下の向こうの部屋の中で、パパが昔の知り合いと話をしているので、チサトはここで荷物の番をしながら、パパが戻ってくるのを待っているのでした。
「つまんないなあ……。何かひまをつぶすものないかなあ。……ああ、そうだ!」
チサトは何か思い出したようすで手をうつと、パパのカバンのふたを開け、中に手を入れごそごそとかき回します。
ありました。王都にむかう途中、チサトといっしょによもうとパパが宿場町で購入した、子ども向けのいきもの図鑑です。
「あんまりおもしろそうじゃないんだよなあ、これ。せっかくパパが楽しそうに買ってたから言わなかったけど。……まあ、いいや。何もないよりはましだよね」
チサトはぶつぶつとぼやきながら、ページをめくります。開いたページには、きれいな色でいろどられたいきもののイラストがたくさん並んでいます。少しだけ楽しい気分になり、チサトはイラストを眺めながら、そのよこについているいきものの説明を順に読みあげていくことにしました。
「何なに……えーっと、なまえ、ミヤコクロリス。いい名前だね。その名の通り王都とその周辺にのみ生息する。秋に木の実をたくわえ、冬にはねむりにつく。つまり、冬眠だね……」
ところどころ、つっこみを入れながらよみあげていると、いっそうたのしい気分になりました。
「なまえ、ハルシラズ。その名のとおり、冬に活動し春にはねむりにつくため、春を知ることがないせいぶつである。かれらは……」
読みかけたところで、チサトは目の前がかげったことに気がつき、顔を上げました。
「あれ、パパ。お話おわったの?」
「お待たせ、チサト。まだ少しお話は残っているんだけどね。パパの知り合いの関係の方で、チサトに会いたいという人がいてね。少し、パパと一緒に来てもらってもいいかい?」
「もちろん!」
チサトは読みかけの図鑑を放りだすと、勇んだようすで、歩きだしたパパを追いかけました。