一
「わあっ、きれい!」
王都は一面の銀世界でした。ちいさなチサトは、目をかがやかせてその光景に見入っていました。
「ねえ、パパ、みてみて!すごいよ!周り全部雪だよ!すっごいよ」
こうふんした表情でふり返って、うしろの方で馬から荷物をおろしているチサトのパパに、話しかけます。
「……ああ、うん。……そうだね」
パパは、荷物をおろすうちにずり落ちてしまっためがねをかけ直しながら、少し戸惑ったようにチサトの声にこたえました。
「王都の地理的にみて、もうとっくに春だと思ったんだが。……ほんとうに、みごとなまでに、雪だね」
「そうなんだ?じゃあ、この景色が見れたの、とっても運がよかったんだね!」
いいながら、チサトの目はきらめく雪景色に釘づけです。目のまえの通りは、馬車の通るまんなかだけが雪かきがされ、ぬれたレンガ色の石畳と、両側の歩道にふわりとつもる白い雪の対比が、うつくしくまっすぐに続いています。道の両側には、雪にいろどられた砂糖菓子のような家々が並び、その道の先に、同じように雪化粧を施した王宮の御殿が、けれども家々とは異なり、厳かな静けさをたたえて、たたずんでいるのでした。
「本当にきれい。ねえ、見て。あっちの方に塔みたいなのもあるよ」
はしゃぐチサトにパパはあいまいにうなずきながら、かんがえこむような表情でじっと雪景色を見つめています。しばらくそうした後、考えても仕方ないというふうに頭をふり、えりもとから時計を出して時間を確認すると、跳びはねながら雪に足あとをつけているチサトに声をかけました。
「チサト、せっかく楽しそうなのにごめんなんだけど、そろそろ行かないといけないよ。2時からパパの知り合いと会う約束をしているんだ。ああ、……いや」
うながしかけ、パパは何か思いついたようすでことばを止めました。
「どっちにしろパパが知り合いと会っているあいだ、チサトはお城の庭で待っているだけだもんな。チサトがその方がいいなら、ここで景色を見ているかい?終わったらむかえにくるから」
「いいよ、何いってるの。ちゃんとお城までついていくよ。道にまよって帰れなくなってしまうかもしれないし……パパがね」
チサトは振り返ってパパのとなりまで戻ると、さっきまで雪にはしゃいでいたのがなかったかのように、すました顔でパパのせなかを押してあるきだしました。