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地獄の沙汰も僕次第  作者: 古泉ささみ
6/10

ジェネレーションギャップ?

 自動車に着くまでの間、瀬名杏奈から怒涛の質問を食らってしまった。次から次へとよく口が回るものだと感心するくらいだ。きっと彼女の舌は非常に発達しているんだろう。僕としてはゆっくりというかまったりというか、自然に目をやりながら歩こうと考えていたのだが、地獄はどんな所なのか、地獄の種類はどのくらいあるのか、どんな仕事があってどんな鬼がいるのか、などなど。このゆるふわがーるちゃんは、十和と違って地獄に関する知識はあまりないのに関心はあるようなので、質問が尽きない。

 何度目か忘れた質問に答えたところで、白いコンパクトカーがようやく見えてきた。

 瀬名杏奈は運転席へ、僕は後部座席に乗るよう言われ、助手席の後ろへ座った。もちろんドアの開閉は慎重に。車の中も、変わった芳香剤の香りで満ちていた。なんでこうも匂いをつけたがるのだろう。不思議だ。


「勇儀さんってぇ車には驚かないんですねー。凄くないですか、これ、だってアクセルペダル踏むだけで勝手に走ってくれるんですよ。感動モノじゃないですか?」


「詳しい原理は知らないけど、車を見るのは初めてじゃないし乗るのも初めてじゃないから」


「はぇ~なぁるほどねぇ」


 エンジンを掛けた瀬名杏奈はそう尋ね、僕はそれに適当に答える。

 たぶんこいつはちょっと勘違いしている。たしかに人間からすると地獄というのは死んだ時に初めていく世界だ。死んで初めて地獄という存在を認識する。生存中に地獄の情報を得る事はできない。しかし、我々地獄側からすると、現世の状況は知りたい時に知る事ができる。現世で例えるなら、そう、海外の近況や情勢を報道するニュース番組をテレビで観るとか、スポーツ新聞のように、特定の記事――現世に関する記事だけを集めた新聞紙を定期購読したりとか。割りと手段はある。ただ、相互的なものではなく、地獄側の一方的なものではあるが。ちなみに、現世に興味を持つ鬼はそう多くはなかったりする。

 情報の一方的な取得により、こういう構図ができあがる。人間の瀬名杏奈は地獄を知らないが、地獄の僕は現世をある程度知っている、という構図が。

 舗装のされていない砂利道を走り出し、エンジンの振動と、小石が弾き飛びボディに当たる音をバックグラウンドミュージックに、瀬名杏奈が機関銃如き趣味全開トークを再開する前に僕は先手を打つことにした。どうせ話すなら有益な情報が欲しい。


「これから監察する人物については資料を確認済みだけど、今の時代で必要な情報がわからないんだ」


 わからない事がわからない。

 街中では服を着る、なんて常識中の常識はわかっているつもりだ。だが、どんな服装なら目立たずに済むのか。いわゆる流行というやつとか。なるべくこの世界の現状の知識を手に入れたい。


「大まかでいいから教えてくれないかな? あと、情報の調達方法も教えてほしい」


「いえっさ! へへへ……こんな事もあろうかと、事前準備してきてるんですよぉ」


 そう言って瀬名杏奈は助手席からこちらに手の平と同じくらいの板を投げてきた。


「ほい、どーぞ」


 見慣れぬ物体を受け取る。液晶画面? だろうか。テレビのモニターを小さくしたような感じだ。厚さ一センチにも満たない側面にボタンらしき出っ張りが幾つかあるだけで、用途がさっぱり思いつかない。これは一体……?


「……これは?」


「それスマホって言うんですよぉ。知ってました?」


 すまほ? やばいわからない……。


「あれ? スマホ知りません?」


 バックミラー越しに視線が交差。

 僕のわかりませんという返答を察知し、瀬名杏奈は左手人差し指を頬に当て、うーんと唸る。僕が理解できるような説明を考えてくれているのだろうか。それにしてもこいつあざとい。だが、その演技臭にも慣れてきた自分がいる。


「んじゃーケータイってわかりますぅ? 携帯電話です、ぽちぽちするやつ」


「けーたいでんわ……それならわかる。ケータイ、これがケータイ?」


 携帯電話。遠く離れた場所にいる人ともこの電話を使えば会話ができるという人類が発明した画期的な連絡手段。そんな電話を持ち運び可能にした事で、利便性が格段に向上した優れ物だ。

 知っていたよ。覚えていたよ。使った事あるし。ただ、こんなのパッと見、携帯電話に見えないだろう。携帯電話って折り畳み式でもっとボタンとか沢山あったろ。


「なんでスマホなんだ?」


「正式名称はスマートフォンで、みんな略してスマホスマホ言ってますね。簡単に言うとぉ、ケータイの強化版、みたいな。ケータイよりかなり便利になった物だと思ってもらえればおっけーす」


「なるほど」


「もはや現代人には欠かせない物なんじゃないですかねぇ。実際、わたしもスマホないと仕事になんない時ありますし。あ、四六時中触ってないとやばくなっちゃう、スマホ中毒者なんて言葉もあるくらいなんですよー?」


 両手の中のスマホを見下ろす。これ、そんな中毒性のある物なのか……! 麻薬と思えばいいか。だとすると、定期的に摂取しなければ、苦痛を味わうレベルの中毒なのか? そもそも僕は無意識に素手でスマホに触れてしまったが大丈夫なのだろうか。いや待てよ、瀬名杏奈は素手で触れていたという事は少し触れただけなら問題ないのか……? 粉末状には見えないが、体内に入り込むとまずい類いなのか? あれ、でも瀬名杏奈は呼吸している。そもそもなぜ携帯電話で中毒症状が出てくるんだ。くそっ。わからない。中毒ってやばいでしょ。

 ぐわんぐわん揺れる車体の中、額と両脇と背中にうっすら熱を感じてきた。


「まぁ勇儀さんなら大丈夫でしょーけど」


 ん? 僕なら大丈夫なのか?


「僕は中毒者にならない、という事か?」


「えっ。逆にそんながっつり使います?」


「いいやっ、使わない!」


「どしたんすか勇儀さん、急にガッときましたよね今。どしたんすか」


「どうもしてない。問題ないよ」


「ですかぁ……いやビビりましたよ。勇儀さんってぇ、喋り方とか雰囲気とか大人しいタイプじゃないですか。そしたら急にガッてくるんですもんガッて」


「そうか?」


「です。ぱないっすなぁ」


 瀬名杏奈はけたけた笑う。

 笑う要素あったか? 現代の若い子の言う事はよくわからないな。こんな僕で上手く現世に溶け込めるのか少し心配になってきた。

 さて、話が脱線してしまったので軌道修正をする。

 このスマホでどうやって情報を手に入れるのだろう。電話をかけて知りたい事項に対して返答を都度貰うのだろうか。


「で、スマホはどう使うんだ?」


「ではー、まず右側面にボタンが上下に二つありますよね。上のボタンを押してみてください」


 右側面の上についているボタンを押す。

すると、先ほどまで真っ暗だった液晶画面が輝度を取り戻した。画面には様々なアイコンが整列しており、なんだかパソコンのデスクトップに似ているような気がする。アイコンが何を意味するのかほぼわからないが、電話、メール、時計、電卓、赤外線などなど理解できたものも幾つか発見した。


「ケータイはテンキーでカチカチしてましたけど、このスマホは画面を触って操作するんですよ。試しに画面の下に、電話の受話器みたいな四角い絵がありますよね? それを一回触ってみてください」


「こう、か?」


 人差し指でそっと優しく触ってみる。数字が出てきた。


「あとは掛けたい電話番号をタッチするだけです。あー、あと、わたしの電話番号が電話帳に登録してあるんで、わたしを探して電話掛けてみましょーか。ふふ、実践テストですねっ」


 いいだろう。やってやるさ。

 画面の隅に電話帳と書かれたスペースを発見した。そこをタッチしてみる。今度は数字のキーが半分近く表示されていた画面から、人の名前が並ぶ画面に変わった。指で触ると、上下に画面が移動した。下へ指をスッスッとしていくと、さ行に、瀬名杏奈という漢字を見つける。ポケットから受け取った名刺を取り出し、画面と見比べると、ぴったり漢字が一致した。つまり、これが瀬名杏奈の携帯電話だ。ふぁいなるあんさー。


「見つけた。瀬名杏奈」


「では、わたしをタッチしてください。……おお? なんかさっきのセリフえっちかったなぁうぇひひひひ」


 何言ってるんだこいつ。

 前に座ってハンドルを握っている人が、にやにや顔で変な声で笑っていて気持ち悪い。

 変人は気にせず、スマホの瀬名杏奈という文字をタッチする。


「色々出てきた」


「数字が十一個ありますよね」


「ああ」


 名刺に書かれている数字と同じだ。


「その右隣に受話器のマークありますよね。そこを押せば電話がわたしにかかりますのでやってみてください」


「わかった」


 言われた通りにタッチ。画面がまた変わり、呼び出し中、との事らしい。数秒後、前方から着信を告げるメロディーが流れ始めた。

 瀬名杏奈がポケットから、僕が今持っているスマホと似た物を取り出してこちらに向ける。画面には『赤木勇儀』と表示されていた。


「実践テストは無事、合格っとぉ。この調子なら余裕ですね勇儀さんっ」


「どうも」


「取扱説明書はあとで渡しますんで時間が空いた時にでも読んでみてください。さて、本題に入りましょ! わからない事、知りたい事があったらネットで――」

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