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ちょっとだけ譲歩してくれました

 毎日弟子入り志願をしに行くようになって、二週間は経った。

 相変わらず、オスカーさんは弟子入りを認めてくれない。オスカーさんの気遣いから認めてくれないのは分かっているから責められないけど。


 どうしたら、弟子にしてくれるか。

 早くしなきゃ、オスカーさん達は王都に帰ってしまう。


 本当は、ついていったら駄目だと分かってる。お父さんお母さんが心配するだろうし、オスカーさんだって忙しいから弟子に構ってられないのかもしれない。

 まだ子供で自活出来る訳じゃないからオスカーさんに頼ってしまう事になる。そうしたら、オスカーさんには負担ばかりかけて、オスカーさんに何ら得はない。


 八方塞がりだ、とオスカーさんの背中に凭れながら、小さく呟いて。


「お前は人にくっつくのが好きだよな」


 最早拒む事を諦めたらしいオスカーさんは、振り返らないまま呆れた声。

 人にくっつくんじゃなくてオスカーさんにくっつくのが好きなんですよ、とは声に出さず、ぐりぐりと額を押し付ける。


「妹が出来た気分だ」

「いっそ妹にして下さい。王都までついてくので」

「あのなあ」

「……だって、オスカーさん、帰っちゃう……」


 もう、魔物退治は終えている。

 領主の依頼は完遂したから後は帰還だけ、とイェルクさんに聞いた。……まだ残ってくれているのは、私を気遣っているからなのかな。


「もう少しだけ此処に居るから」

「でも帰っちゃいます」

「……そうだな」


 オスカーさんは、否定はしない。ただ滞在するだけで、どちらにせよ帰ってしまうのだ。

 ……大人だったら、ついていけたのにな。大人だったら、弟子にして貰えたかもしれないのにな。


「オスカーさん、弟子にして下さい」

「……駄目だ」

「何でもしますから」

「駄目だ」

「……どうしたら、弟子にしてくれますか?」

「大人になるまで待てたら、かな」

「三年も待てません!」


 声を荒げると、呼応するかのように窓ガラスがピシリと音を立てる。

 オスカーさんがびくりと体を揺らしたけれど、私は構わずにオスカーさんの背中にしがみつく。

 そんなに待てたなら最初から待ってる。待てない。色褪せない内に、私はこの思いを叶えたいのだ。


「テオは約束を取り付けた、弟子にしてもらえた。テオだって、子供なのに」


 テオは、どういう方法でお願いしたのか分からないけど、あっという間にイェルクさんの弟子にしてもらった。多分、稽古をつけて貰った時に何かあったんだろう。

 テオは、両親も説得してイェルクさんについていく。……羨ましくて、仕方ない。私は、オスカーさんに拒まれ続けているのに。


「それはイェルクの判断だろ。大体、あいつは男で」

「……男だったら、弟子にしてくれたんですか。なら今すぐ髪を切り飛ばして男の子っぽく」

「止めろ」


 丁度テーブルの上に鋏があったから手を伸ばすと、オスカーさんに腕を掴まれた。

 そのまま、オスカーさんは私と向きあって、溜め息。


「お前な。髪を切った所で男にはなれないだろ」

「知ってます、そんな事。でも、」

「折角綺麗な髪してるんだから、勿体ない事するな」


 する、と頬にかかった髪を一房掬っては弄るオスカーさん。

 ……からかわれるばかりだったこの髪をよく言ってくれるのは、嬉しい。周りからは、白髪に見える、とか言われるし。白銀なんて聞こえは良いけれど、色素が抜けた髪だもの。


「……オスカーさんがそう言うなら」

「そうしてくれ」

「でも、じゃあどうしたら弟子にしてくれるんですか。もう、時間ないのに」


 もうすぐ、オスカーさんは帰ってしまう。

 そうしたら、イェルクさんも帰ってしまうし、テオはついていってしまう。私だけ、取り残されてしまう。私だけ、ひとりぼっち。


「オスカーさんも、イェルクさんも、テオも、居なくなっちゃう。……置いてかないでよ……」


 ぐず、と鼻を啜ると、オスカーさんは眉根を下げて、困ったような表情に。


「……親を説得出来たら、考えなくもない」

「え、」

「まあまだ成人もしてない女の子を見ず知らずの男に預けさせてくれる親は居ないと思っ」

「じゃあ頑張って説得して来ます! 全力で説得します、何がなんでも説得します! 私頑張ります! 言質は取りましたからね!」


 オスカーさんの台詞を遮って食い気味に返事をしてしまって、オスカーさんは目を丸くしていたけど、私はそれどころではなかった。

 オスカーさんが、譲歩してくれた。まだ考えなくもない、という段階だけど、許しを出してくれた!


 瞳を輝かせた私に最初は呆気に取られていたオスカーさんだったけど、やがて苦笑いを浮かべて「お前も物好きだな」とだけ呟く。

 嫌そうにはしていないのが、私には堪らなく嬉しかった。


「ありがとうございます、オスカーさん!」

「まだ決まった訳じゃないから気が早い、うわっ!?」


 感極まってオスカーさんに抱き付くと、オスカーさんはすっとんきょうな声を上げて固まった。

 そういえばオスカーさんは女の子に免疫がないんだった。けど私が弟子になったらそんな事言ってられないので、この際慣れてもらおう。決して、からかい目的で抱き付いている訳ではない。


 今回ばかりは私を引き剥がすに剥がせなかったらしく、ただ肩を掴んで顔を逸らすオスカーさん。

 ……こんな可愛いもとい照れ屋さんなオスカーさんが見納めにならないようにする為にも、お父さん達を説得しなきゃ。

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