お断りされても諦めない
「は? 嫌だよ」
物事を円満に進めるには賄賂も大切だとお父さんに聞いたので、ちゃんとお茶菓子は持っていったけど断られてしまった。
ちゃんと真面目に頭を下げたけど、何が駄目だったのだろう。
この魔法使いさんは、私の街に魔物退治にやってきたうちの一人。
近年人の住まう地に降りてきている魔物をやっつける為に来たそうで、何でもすごーく強いらしい。
この人はきっと凄い魔法使いで、その魔法使いの弟子にしてもらったらきっと私も立派な魔法使いになれる筈!
と思ってお願いしに来たのだけど……駄目だった。
「……何で?」
「逆に何で俺が弟子を持たなきゃいけないんだよ、それも見ず知らずのがきんちょとか」
「子供じゃないです! もう十二歳です!」
「がきじゃねーか」
此処は譲れない、と主張すると、尚の事呆れた顔をする魔法使いさん。
魔法使いさんはとっても綺麗な顔立ちをしているけど、私に向ける紫の瞳はとても冷たい。……ちょっと怖いけど、引き下がる訳にはいかない。
「ご迷惑なのは承知してます、けど、魔法使いになりたいんです!」
「迷惑って分かってるなら帰れ」
「そこを何とか!」
「まーまー、オスカーもそう邪険に扱わないの。まだまだ可愛い盛りの女の子じゃないか」
不機嫌そうな魔法使いさんを宥めるように割って入ってくれたのは、金髪の男の人。……魔法使いさんはオスカーって名前なんだ、ちゃんと覚えなきゃ。
魔法使いさん改めオスカーさんは、金髪の人の笑顔にフン、と機嫌悪そうに鼻を鳴らしている。間違いなく私のせいで不機嫌なんだろう。
「……イェルク、お前犯罪者になるなよ」
「やだな、そんな事はしないよ。僕は愛でて楽しみたいし」
……どうしてだろう、優しいお兄さんっぽそうだし気の良さそうな人に見えるのに、近づいちゃいけない気がしてきた。これが第六感というものなのかな。
さっ、と然り気無くオスカーさんの方に回ってイェルクと呼ばれたお兄さんをオスカーさんでガードすると、イェルクさんはちょっぴりショックを受けた顔。
オスカーさんはうざったそうに私を見たものの、イェルクさんに「ほれみろ」と揶揄するように言葉を投げている。
「えーと、お嬢ちゃん怖がらなくて良いよ? お名前は?」
「知らない人に名乗っちゃいけないって」
「ええー」
「名乗りもしないで弟子入りしたいとか言い出したのかお前は」
「ソフィ=ブルックナーです! お師匠様!」
「師匠になった覚えはない!」
「良いじゃん弟子にしちゃえば。男だらけの僕らの潤いになるよ?」
「お前はどっちの味方なんだ!」
「そりゃあ可愛い子の味方に決まっ」
「お前に聞いた俺が馬鹿だった。……兎に角、俺は弟子を持つつもりなんてない」
イェルクさんは、私の弟子入りに賛成みたいだけど、肝心の本人が嫌がってるのでお話が進まない。
……突然押し掛けて迷惑なのは、分かってるけど。でも、そんなに頑なに拒まなくたって、少しくらい話を聞いてくれたって良いのに。
「大体、見知らぬ魔法使いに弟子にしろって押し掛けてくるなよ」
「でもでも、魔法使いになりたいんです」
「んー、感じた所、かなり魔力はあるし弟子にするには充分だと思うけどなあ」
「ほんとですか?」
「おいこら、希望を持たせようとすんな」
魔法を使うには魔力が必要、というのは魔法使いにとっての常識、らしい。私も多分あるんじゃないかなあ、と思ってたけどやっぱりあったらしい、良かった。
余計な事を、とイェルクさんを睨んでるオスカーさんだけど、当の本人はどこ吹く風。……私もこれくらいに打たれ強く、そして根気強く粘ろう。
私の瞳に光が宿った事に気付いたオスカーが舌打ちをしていたけど、へこたれない。交渉は押したり引いたりも大切だし、根気と情熱も大切。あと、メリットを明確に相手に提示する事も大切、だそうで。
……オスカーさんが私を弟子にしてくれて、何か得があるか。
「俺は弟子にするつもりはない。俺に何にも得がないし手間ばかりかかるだろ」
「ええと、お料理とか身の回りの事をするのは得意です! あと、えっと……」
「それだけだろ。別に自分でそれくらい出来る。お前は俺にとって利益にもならん」
「う……」
……そう言われると、そうなのだけど。
どう追い縋れば良いだろうか。私が、オスカーさんに提示出来る、メリット。
「……私、自分しかあげられるものがありません。だから、私のこれからをあげます、じゃあ駄目ですか?」
私としては大真面目な提案だったけど、オスカーさんは吹き出した。
「軽々しくそういう事をいうな」
「でも、私オスカーさんに得になる事なんてないですし……あっ、雑用枠でどうですか!」
「要らん!」
何故か慌てた様子で首を振ったオスカーさんに、私はやっぱりこれじゃあ駄目かと肩を落とすしかない。
……最初から弟子にしてもらえる、とは思ってなかったけど、こうもすげなく断られると辛い。嫌悪されてる、とかではないのが不幸中の幸いだけど……。
「……ごめんなさい、迷惑でしたよね。分かりました。今日は諦めます!」
「そこはもう諦めたじゃないのか!?」
「いやですねオスカーさん、一度じゃ諦めませんよ」
「いつも諦めてくれ!」
引き攣った顔を見せるオスカーさんに、私はにっこりと微笑む。
ごめんなさい、私諦めは悪いし、この機械を逃すとそうそう魔法使いさんには出会えないので。
「なるべく早く折れて下さい」
「それ俺に面と向かって良く言えるな……!」
イェルクさんは賛成派みたいなのでイェルクさんを味方につけて押すしかないよね。
明日は何持っていこうかな? 後でこっそりイェルクさんにオスカーさんの好きなものを聞いてみよう。