始まりはちょっとした奇跡から
私ことソフィ=ブルックナーは、小さい頃から自分に不可思議な力がある事を自覚していた。
初めて自分にその力があると感じたのは、五歳の頃。
商家の娘に生まれた私は、近所に住んでいた仲の良い男の子と遊んでいた。その子はテオという名前で、一歳歳上の彼は私に優しくしてくれた。ちょっと意地悪だったけど、でも泣いていたらいつも駆け付けてくれる、心優しい子だった。
ある日テオと遊んでいると、被っている帽子が風に飛ばされた。お気に入りのそれは木に引っ掛かったものの、子供ではとても取れないであろう高さに掛かっていた。
私が気に入っていた帽子が飛ばされて泣いてしまった私を見かねて、テオは帽子を取ってやると豪語して、木に登り始めた。危ないよ、という私の制止も聞かず、身軽な身のこなしであっという間に帽子まで辿り着いた。
けれど、帽子を掴んだ瞬間にバランスを崩して、その体を宙に放ってしまったのだ。
子供心でも、落ちたらただでは済まないと分かる高さ。
私は落下した後の事を想像して思わず悲鳴を上げて、落ちちゃいや! と強く望んだ。
思わず瞳を固く閉じてしまったけど、嫌な音も、テオの苦痛の声も聞こえなかった。
恐る恐る視界を閉ざした広げると、テオはふわふわと私の目の前に浮かんでいた。これには私もテオも驚いて「わー!」とか「きゃー!」とか大慌て。
騒いでいたらお母さん達がやって来たのだけど、その頃には地面に降りていて私達の見た光景は寝惚けていたんじゃないか、という事にされてしまった。
けど、テオは葉っぱのついた帽子を抱えていて、私はとても夢だとは思えなかった。
大人には信じて貰えなかったけれど、私達はこれが本当にあった事だと知っている。だから、二人だけの秘密にする事にした。
その後も不思議な事は起こった。
テオのおうちにお泊まりした時にランプの灯が消えてしまって泣いた時、不思議な光が漂って私の不安を拭ってくれた事。
雨ばかりで退屈だったから雨が止めば良いのにと願ったら雨が屋敷の周りだけ止んだ事(これは流石に家族も驚いていた)。
蕾のまま中々咲かない花の咲く姿が見たいと望んだら、目の前で開花した事。
他にも沢山あるけれど、とかく私の周りでは不思議な事に満ち溢れている。
私も原因が良く分からないままというのは変な気分だったので、沢山本を読んで、そしてこの不思議な力に見当を付けた。
この力は、どうやら魔法というみたい。
お伽噺に出てくるような、色々な現象を引き起こす、不思議な力。魔法が使える人は限られているみたいで、だからこそお父さんやお母さんも私の不思議な力に気付かなかったのだろう。
名前が分かると、俄然憧れが湧いてくる。
私も魔法使いになれるのだろうか。この力を使いこなせるようになるのだろうか。
この力を上手く使いこなす為には、人に教わるのが良いと本に書いて。
――一人前の魔法使いは、弟子を持つ事が義務付けられている。弟子が一人前になるまで面倒を見て魔法使いを絶やさないようにする、と。
それならば、一人前の魔法使いを見付けて弟子にして貰えば良いのだ!
「私を弟子にして下さい!」
だから、私は街を訪れた魔法使いに、お茶菓子を持参して頭を下げに行った。