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6・アイルビーバック

3/30投下分です。サブタイ、アイシャルリターンでもよかった。


 剃刀(カミソリ)仮面ニマイバーは、この世に蔓延る悪を削ぎ落とす、正義の改造超人である!



電刃(でんじん)シェイバー! お前の思想は間違っている!』


『何をほざくかニマイバー。人間は時間に縛られる生き物だ。我々さえいればそれだけで事が済む。それの何が悪い!?』


『だからこそ人々にはゆとりが必要なんだ! 潤いを与え、滑りを加え、時間をかけて削ぎ落とす。そうしなければ根の深い悪は削ぎ落とせないんだ!』


『ふっ、やはり貴様とは相容(あいい)れられぬか……来い! 貴様の技など全て返り討ちにしてくれる!』


『うおおおおお! クアトロレイザーキィィィック!!』


『ロータリーシェイビングバリアー!!』



 ドガアアアアアアン!



 ヤマト四季園地で僕と握手!


 そんなキャッチコピーのヒーローショーは今日も賑わっている。裏方もそんなエンターテイメントを支える縁の下の力持ちだ。

 休日の午前と午後、二回行われているショーだが、その合間合間にもやることはたくさんある。

 そんな中のひとつが洗濯だ。秋めいてきた今の時期でも、日中に着ぐるみを着てアクションをこなせばスタントマンは汗だくになる。体を冷やさないように、ショーが終わればすぐに着替える必要があるのだ。


 乾燥機と一体型の洗濯機から、乾燥まで終わったことを知らせるブザーが鳴る。スタッフの一人である女性が近づきふたを開け、中の洗濯物を取り出していく。



「……あら? 何かしら、これ」



 白いブリーフのようなものが洗濯物の中に混ざっていた。しかしながら、洗う前の洗濯物にこんなものを入れた覚えがない。それに今日の男性陣の下着はトランクスしかなかったはずだ。そもそもこれはブリーフなのだろうか。

 女性がよくよく見てみれば、それはもこもことした厚みがあり、これはまるで――



「おむつ?」



 その瞬間、そのおむつと思われる物体が動き出した。ウエスト開口部のベルトからは針金のようなものが出ている。脚の本数は足りないがその見た目はアメンボのようであり、はたまた蜘蛛のような不気味さも醸し出されている。


 そんなものを目の前で見せつけられた女性スタッフはといえば。



「きゃああああああああああ!!」



 当然悲鳴をあげた。虫嫌いも合わされば相当な恐怖と思われる。


 悲鳴を聞きつけた他のスタッフも集まってくる頃にはそのおむつと思われる物体は消えていた。きっと白いタオルを迷いこんだ猫あたりが被っていたんだろう、といった説により女性スタッフの勘違いというところに収まった。


 もちろんそれは勘違いでもなんでもなく、純然たる事実でしかなく、そのおむつの様な物体ことムツノカミは園内を移動していた。


 




 益戸栄治郎は光学機械のスペシャリストでもある。


 実の娘からの物理攻撃により意識を落としていた栄治郎だったが、お昼頃には復活していた。

 (あご)をさすりつつパソコンのマウスを操作し、目の前のモニタに地図を展開させている。その地図には赤い点と青い点が一つずつ表示されていた。



「ふむ……今のところはプログラム通りの動きをしているな。信号が二つに別れたことから、装着者判別のためのベルト分離機能も見事に働いている。さすが俺だ」



 栄治郎が行っているのは、綾を利用したモニタリングだ。こんなこともあろうかと、の精神で付属させていたGPS機能により、綾(青い点)とムツノカミ(赤い点)の行動を観察しているのだ。

 しかし、綾から離れたムツノカミの居場所がわかるのは理解できるが、何も履いてない状態の綾までもがなぜ表示されているのか。

 そのからくりは、先程栄治郎が呟いていた「ベルト分離機能」だ。

 ムツノカミのウエスト開口部にあるベルト部分は二重構造になっており、ムツノカミの個体ごとに異なる周波数を発するベルトが仕込まれている。

 このベルトを装着者の腰に残すことにより、洗浄作業終了後にもまた帰ってくることが可能なのだ。



「洗浄作業中は装着者の下半身が裸になってしまうのは盲点だった。二組セットにして交代出来るように改良せねば。

 しかし綾のやつ、ヤマト四季園地に行っていたとはな。俺が立体ホログラフ装置で協力したところだし、言ってくれればチケット用意してやったのに」



 意外にもこの男、顔は広い。ヤマト四季園地の企画担当の一人が栄治郎の知り合いで、『こういう立体投影できる機械つくれないか?』と話を持ちかけてきたので、一ヶ月ほどで片手間にプログラムと試作品のミニチュアを作り上げた。今から五年前の話だが、納品の際と企画が通ったときとで安くない報酬を頂いている。

 その金がムツノカミの開発費用に使われているのは、綾にとっては皮肉になるのだろうか。

 ちなみに栄治郎はヤマト四季園地が完成したときに、永年優待パスポートを貰っている。今の今まで忘れていたが。



「あとはオートで記録をしておくとして、あいつが帰ってくる前に離脱しておかないとな……殺されかねん……あー、ここのパスをやれば機嫌良くなるか……?」



 栄治郎でも、娘の怒りには勝てないのだ。転んでもただでは起きない性格ゆえに、ついでとばかりに娘をモニターがわりにしているが、自分に非があることは理解している。

 徹夜の疲労と肉体的ダメージにより若干まだふらふらする頭を掻きつつ、どうすれば綾の怒りを静めらるか文字通り必死に悩むのであった。






 益戸綾のスカートの中は現在ノーパンである。


 確かにおむつを履いていたということがばれる心配はなくなったが、かわりに見えてはいけないものが見えてしまう危険が出てきてしまっていた。



(やばすぎるやばすぎるやばすぎる……替えの下着なんて持ってきてないわよ! こんなこと想定してなかったもん! あーもう! 下がスースーして落ち着かない!!)



 コースターに乗る前はなんとも思わなかったのに、意識してしまってからは違和感しか感じない。むしろなぜ気付かなかったのかが不思議で仕方がない。

 こんなにも緊張をしたことは初めての経験かもしれない。どんな試合でだってここまで気を張ったことはない。なにせ少しの風でもスカートが捲れてしまえばとんでもないことになってしまうのだ。一瞬たりとも油断はできない。



「それじゃあ次はどこに行きましょうか」


「そ、そうね。それより薫くんは大丈夫? いきなり連続でこなすのも大変だし、少しくらい休んでもいいのよ?」



 むしろ休んでほしい。少しでも時間稼ぎをしなければ、と目論(もくろ)む綾だったが。



「気を使ってくれてありがとうございます。でもこれくらいでへこたれるわけにはいきません。それに時間は有限ですから」


「あ、はは、そう、そうね……」


「では、この『自由落下傘』に行きましょうか。高いところからの景色も興味ありますし」



 『自由落下傘』とは、要はフリーフォールのことである。80メートルの高さまで上がったあと急降下するだけのアトラクションだが、ヤマト四季園地の場合は景色を楽しんでもらうために最上部で2分ほど待機状態になるのだ。それはそれで恐怖を煽るはめになるのだが。




 さて、時間は少し経ち、二人はすでに遥か上空にいた。



「ふあ……上から見たら、紅葉がまたすごいですね。本当にホログラフなのかわからなくなります」


「そ、そうね……真っ赤だわ……」



 綾の顔も紅葉に負けず劣らず真っ赤である。U字型の安全バーが肩から胸元へ、T字型のバーが股から腰にかけてしっかり締まっているので、安全面に関しては何も問題がない。問題なのは綾のスカートの中身だけだ。



(うん、大丈夫。安全バーのお陰でスカートがめくれる心配もなさそう。ううう……スカートの裏地が直接肌に……変な感じ……)



 普段は下着で包まれている部分に、いつもとは違う感触が襲う。たかが下着一枚、されど下着一枚。無くなってから初めて気付く下着の偉大さを感じる綾であった。

 しかし、そんな時間は長く続かない。無情にも時は過ぎ、綾たちが座る台座はいきなりの落下を始める。



「ぅわああああっ!」



 合図も無しの急落下に驚いたのか、隣から薫の声が聞こえてくる。



「…………ぴゃああああああああああ!?」



 そして、一呼吸後から可愛らしい悲鳴も続いた。裏声のため隣の薫は気付いてはいないが、声の主は綾である。

 別に落下の恐怖に声をあげているわけではなく、驚きが理由でもない。あえて言うなら、戸惑いだ。



(かっ、風が、風があああああああ! 入ってくる、当たるうううううう?!)



 スカートの端は風にはためいているが、捲れることはなかった。なかったが、横から隙間から風が侵入してくるのだ。スカートの中に。それが無防備で敏感な部分の肌を刺激する。渓谷コースターのときとは段違いの風圧でだ。

 綾は必死に手で隙間を塞ごうとしても焼け石に水だった。それに一番防ぎたかった部分は、安全バーにより手を入れられない。

『身を守ってくれる存在が邪魔をするなんて、この裏切り者!』などと綾は心の中で毒づくが、そのままなす術もなくただひたすらに未知の感触を我慢し続けるのであった。







「いやぁ、景色は良かったですけどやっぱり怖いですね。僕も思わず声を出しちゃったけど、綾さんの隣の人? の声も凄かったですね」


「そ、そうね。どこかのミュージシャンのような甲高い声だったような気がするわ……」



 目をそらしつつ綾が答える。

 自由落下傘をなんとかやり過ごした綾だったが、その精神は限りなくすり減っていた。そんな疲弊した気持ちを回復させるため、ひとまず園内の和風喫茶店で休んでいるところだ。


 トイレにも行きスカートの中も色々チェックしたが、とくに異常もなく一安心した綾。備え付けのトイレットペーパーを見て、『こいつを巻き付けて……』という考えも浮かんだようだが、破れたり(ほころ)んだりして紙が垂れてくるほうが危険だ、と思い止まった。


 現在は15時半を過ぎたところ。暗くなる前に帰るなら、アトラクションはあと一つ二つがいいところだろう。

 綾は疲労回復、そして今の自分にとって危険な乗り物の回避目的でこの喫茶店に来たが、薫は薫で別の目的があった。



(今日の日の入りが……夕焼けが綺麗に見えるのは大体30分前から……観覧車は一周で20分……頂点まで10分と考えて……待ち時間も考慮すると……)



 脳内で必死に観覧車の乗車タイミングを計算していた。

 お化け屋敷に入る前に綾が言っていた『観覧車はデートの最後がいい』という言葉を忠実に守ろうとしているその姿勢は多少なりとも好感が持てるが、いかんせんその裏にはあわよくば……という男性特有の(よこしま)な感情も少しはある。身なりは優男でも所詮は男なのであった。



(下手なところへ行くとタイミングが合わなくなる。となると、ある程度時間の調節がきくところがいい。ふむ……)



 薫は綾と次はどこがいいか会話をしつつ、園内の案内パンフレットを二人で眺めながらも同時に頭をフル回転させる。



「綾さん、この『矢切の渡し池』でボートに乗りませんか?」


 






 『矢切の渡し池』。名前はアレだが、別になんてことはない普通の池である。船着き場の桟橋には木で出来た……ように見えるボートが並んでいる。池の反対側にも同じような桟橋があり、そちらに渡ることもできるようだ。


 ボートは二種類ある。船を漕ぐオールが船の左右についている一般的なものと、船尾に一本だけついているものだ。後者は時代劇などでよく見るが、操作が意外と難しく玄人(くろうと)向きである。結構人気があるようで数が少ない。


 さて、結局二人は通常のボートを選び対面する形で乗り込むのだが、特に何のトラブルもなかったことをここに記しておく。


 風を遮るものがない池の上。薫と対面していて少しでもスカートが捲れたら見えてしまう状況。そんな何かが起こりそうなシチュエーションだが、30分ほど水面に映る紅葉を堪能して船着き場に戻った。

 綾にとってもこれは拍子抜けだった。今までが今までだったので、かなり警戒をしてスカートの守りを固めていたのだがこの結果である。緊張を軽く解き、薫に気付かれないように小さく溜め息を吐く。



(まあ、何も起こらなかったんだからそれでいいわよね。まだ油断はできないけど……)



 薫と手を繋ぎ、船着き場を後にする。池の近くにあった売店を通り過ぎつつ、ここぞとばかりに薫は口を開いた。



「綾さん、そろそろ夕方になりますし、次に行くところで最後になると思います」


「あ、もうそんな時間なんだ。……楽しい時間は過ぎるのが早いわね……」



 嘘ではない。『楽しい時間は』である。ただし、長く苦しい孤独な闘いの(とき)はまた別の話だ。



「それで、その、最後は約束通り観覧車に行きませんか? 今からなら丁度夕陽とか見れると思いますし……」



 二人の繋がれた手。薫のほうは少し力が入る。

 緊張しているのだろうことが綾にも分かる。手のひらも多少汗ばんでいるようだが、別に不快感はない。

 そして緊張しているということは、この提案は緊張するに値するということだ。それが何なのか、恋愛下手な綾でも想像するに(かた)くない。



「……うん、いいよ」



 頬を染めつつ、綾は小さく頷いた。























 人間、絶対に油断をしない、と思っているときほど、そのことに捕らわれて視野狭窄しやきょうさくに陥っているものである。


 あのとき、あそこで気付いていれば、と思ったときは大抵手遅れになっているものなのである。





ニマイバーは仮面ラ○ダードライブ、シェイバーは魔進チェ○サーなイメージ。


二枚刃なのに四枚刃蹴りを出しているのは中盤の強化のお約束的なあれ。


三条さん脚本のライダーは神。

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