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短編

あや姫

作者: ariya

 少女に両親はいない。

 幼い頃に河原に捨てられていたからだ。親から醜い子と呼ばれていました。

 自分は醜いから捨てられたのだと少女は信じました。

 その少女を拾ったのはいじわる天女であった。

 いじわる天女は別に少女に同情したわけではない。

 丁度、新しい召使いが欲しかったのだ。

 いじわる天女は少女にあや姫という名を与えました。

 あや姫に衣織物の技術と裁縫を教えました。

 あや姫は一生懸命仕事をし毎日いじわる天女の為に着物を作っていました。

 あや姫は歳を重ねる毎に美しい着物を作れるようになりました。

 これにはいじわる天女は大喜びしました。

 それを着ていじわる天女はいつもお出かけをしていました。

 他の天女や天人たちはいじわる天女の着物を羨ましげに見つめていました。

 これにいじわる天女は鼻高々です。

 ある天女が言いました。


 その素晴らしい着物を作る少女を見てみたいわ。


 あの子はとても体が弱いの。外に出たらすぐに高い熱を出してしまうのよ。


 いじわる天女はいつもそう言ってあや姫を外に連れ出そうとしませんでした。

 今日もあや姫はいじわる天女の家で織物をしています。

 毎日、いじわる天女は召使いを連れ出かけますがあや姫を連れて行こうとしません。

 いつもお気に入りの牛飼いと従者と身の周りの世話をする侍女を連れ出かけます。

 いつもあや姫は一人でお家で衣を織っています。

 でも、あや姫は全く不平不満を言いませんでした。

 ここまで育ててくれたのはいじわる天女だからです。

 あや姫にとっていじわる天女は母親のような存在でした。

 だから彼女はいつもいじわる天女の役に立とうと彼女の着物を作るのです。

 ですが、今日はいつもと違います。

 体調が悪い為、今日はお部屋で休んでいる牛飼いがいます。

 いじわる天女はお気に入りの一人であった牛飼いを心配しました。

 あや姫に家に誰もいない間は食事の用意をしてあげるようにと命じました。

 あや姫は仕事の合間に牛飼いの部屋を訪ね牛飼いの看病をします。

 牛飼いはあや姫をじっと見つめて言いました。


 君はどうしていつも家にいるんだい?


 あや姫は応えました。


 私は醜いから外に出てはダメなのです。


 そんなことはないよ。


 いいえ。だって私は醜いから親から捨てられたのです。私を受け入れてくれたのは天女さまだけです。


 そんなことはない。だって君はこんなに美しくて気のきく子なんだから。


 あや姫は牛飼いにお礼を言いました。例えお世辞でも嬉しいと。

 それに牛飼いは不満そうに言いました。

 本当のことを言ったのに。

 次の日、牛飼いはすっかり元気になりました。牛飼いはお礼にあや姫の部屋を訪ねます。

 とてもぼろく薄暗い部屋で牛飼いははじめ驚きました。

 自分の部屋は天女ほどでなくてももう少しましな部屋で、日当たりも良いのです。


 私には丁度いいのです。


 あや姫は笑って縫物をしていました。

 その日から牛飼いは仕事の合間を縫いあや姫の部屋を訪ねるようになりました。

 時には歌を送り、四季折々の花を贈りました。

 あや姫はとても嬉しそうにしそれを大事にしました。

 それを重ねる毎に二人はいつしか恋仲になりました。

 家の誰もが二人を応援しました。ですが、唯一それを不服に思う者もいたのです。

 いじわる天女でした。

 まさか召使いに拾った程度の人間の娘に自分のお気に入りを奪われるとは思わなかったのです。

 いじわる天女は二人を引き離す為、あや姫を兄の家に預けてしまいました。

 その時いじわる天女は兄に言いました。

 この子はとても体が弱くて外に出たらすぐに熱を出してしまうの。

 勿論それは嘘です。しかし、あや姫はそれを言ってはいけないと強くいじわる天女に命じられていました。いじわる天女に言われてはあや姫はそれに従うしかありません。

 ですが信じた天女の兄はあや姫を不憫に思い、預かることを快く承諾しました。

 あや姫は天女の兄の家から出してもらえず、牛飼いは天女の兄の家に入ることを許されませんでした。

 その上、天女の家と兄の家の間には深い川が流れています。牛飼いはそれを渡ることができず、天女の兄の家に行くことはできずにいました。

 二人は諦め淡々と己の仕事をこなすことにしました。

 天女の兄はあや姫をたいそう気に入りました。

 教えればすぐにできるようになり、気がきくのです。それに彼女の作る着物は素晴らしいもので、天女の兄は自分の為に織ってくれた着物を気に入りました。

 でかければ天女たちのあこがれの的です。

 外にでかけている間、ふと天女の兄はある男に眼をやりました。

 いじわる天女のお伴をしている牛飼いです。

 彼はとても誠実で一生懸命働いていました。

 それに顔も良い為いじわる天女のお気に入りなのです。

 天女の兄は牛飼いに声をかけます。


 あの、あや姫はどうですか?


 あや姫はとても良い子だよ。よく働いて・・・


 そう天女の兄が言うと牛飼いはぽろぽろと涙を流しました。

 これに天女の兄は驚きました。

 訳を聞くと、二人は恋仲であることをはじめて知りました。

 天女の兄はこれに困ったように考えました。

 いじわる天女からあや姫を預かったとき、言われたことはこうでした。


 あや姫はとてもからだが弱く外に出てはすぐに熱を出してしまう。だから、外に出してはならないと。


 牛飼いからそれは嘘であることを天女の兄は知らされました。


 ああ、叶うことなら彼女に会いたい。


 そう言う牛飼いに天女の兄は言いました。


 会わせてあげよう。


 これに牛飼いは驚きました。

 天女の兄は牛飼いに今夜川岸で待つように言いました。

 牛飼いは言われた通り夜になると家を抜け出し川岸へ行きます。

 川の向こうには天女の兄の家があります。

 ですが、川は深くて牛飼いは渡ることができません。

 途方にくれる牛飼いはその場に座りこんでしまいます。

 あれは上の人間の戯れだったのだと残念に思いました。

 そんな時白いものが空から降ってきます。

 かわさぎです。

 かわさぎは何羽も川に下り、連なっていきます。

 次第にそれは白い美しい橋になりました。

 牛飼いは急いでその橋を渡りました。

 そして天女の兄の家を訪ねます。

 天女の兄に案内され牛飼いはあや姫の部屋を訪れました。

 突然の来訪者にあや姫は驚きました。そしてすぐに本物の牛飼いであることに気付くと涙を流しました。

 もう会えないと思っていたのです。

 二人はしっかりと抱き合い夜を過ごしました。

 いじわる天女は家に牛飼いがいないのに気が付き慌てだしました。

 今日はしらさぎが一年に一度だけ川に下り橋を作る日だったからです。

 だから、いじわる天女は牛飼いに夜は外に出ないように命じていたのです。

 慌てていじわる天女は兄の家を訪れました。

 迎えたのは兄でした。


 ひどいじゃないですか。牛飼いに橋のことを教えるなんて。


 ひどいのはお前の方だ。この兄に嘘をついたではないか。


 これにはいじわる天女はばつの悪い顔をしました。それに兄は言いました。


 二人の仲を認めれば大目にみよう。認めなければお前とは縁を切る。


 そう言われるといじわる天女は困ります。いじわる天女が天上で偉そうにできるのは兄の後ろ盾のおかげなのです。彼女の父母はもういなく後ろ盾になってくれる身うちは兄だけです。兄に勘当されたと知られれば天女たちに笑われます。それにはいじわる天女は我慢できませんでした。

 仕方なくいじわる天女は二人の仲を認めます。

 だけど、牛飼いを手放す気はありませんでした。今さらあや姫を自分の家に上げる気も起きません。

 これに兄は呆れたが、とりあえず二人の仲を許しただけよしとしました。


 こうしてあや姫と牛飼いは恋仲となりました。しかし、二人は年に一度だけしか会えなくなったのでした。それでもあや姫はその日を喜び、一生懸命着物を作りました。


 今日もあや姫は衣を織ります。

七夕の時期ではないけど、七夕をモチーフにした話を書いてみました。

よく見るテーマなので、被っている可能性が高いかもしれません。

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