『私の名前』
『私の名前』
私は昔から自分の名前にコンプレックスがあった
親は『人との絆をたくさん紡げるような人間になって欲しい』と一生懸命考えてこの『紡』という名を付けてくれたのだろうが、人間関係が見事なまでに希薄な私は名前負けって言葉がぴったり
「女友達?」気の合う子が数人居れば十分
「男友達?」そんなの作る必要さえ感じない
「彼氏?」・・・それっ!!それが今回聞いてもらいたい事なんだ
私には4歳上の幼なじみがいて、彼とは小さい頃から兄妹同然に育てられてきた
名前を『悠貴』と言い、こんな人間として終わっている私にさえ常に優しく接してくれる大好きな『お兄ちゃん』・・・だと思っていた
でも最近、彼が同じ学校の女の子と一緒にいる姿を見たとき胸の奥の方に何か引っ掛かって・・・
その引っ掛かりが日に日に大きくなって・・・
どうしようも無いくらいに苦しくなって・・・
そこまで苦しんでやっと、彼に向けていた自分の気持ちが兄に対してのモノでは無く、いわゆる『恋心』だと気付かされた
ここまでにならなきゃ気付かないなんて、本当に人間として終わっているよね・・・
彼が私に向けてくれているのは妹に対しての愛情なのは分かっていたが、どうしてもそれを確かめたくて私はある作戦を結構した
学校が長期休みに入ったその日
「お邪魔しまーす」
いつもの様に家人の了解も得ずに彼の家に入る
「悠ちゃん、悠ちゃんってばー」
いつもの様に彼の名前を連呼しつつ階段を上がる、いつもなら彼が不在でも構わないが今回だけは玄関で彼の靴を確認済み
「ねー、悠ちゃんってばー聞いてよー」
いつものようにノックもせず彼の部屋のドアを開ける
「お前、いい加減ノックくらいは覚えろ」
いつのように悠ちゃんからの返し、これは何年も前から変わらないやりとりで、私はすごく心地よかった
「ねーねーっ、聞いてってば」
「何だ?またおばさんの愚痴か?」
「それも聞いて欲しいけど、今日は違うの」
「じゃあ何を聞かせたいんだ?」
本当は心臓が破裂するんじゃないかってくらいに心拍数は上がっていたが、彼にそれを気取られないように精一杯平静を装って
「ついに私にも好きな人ができましたー!!」
精一杯明るく言ってみた
悠ちゃんは「はぁ?」と一言発したが、すぐに
「それ本当か?紡に好きな人って?」
「・・・うん、まぁ・・・」
「そうかそうか、紡に好きな人がねぇ、兄ちゃん嬉しいわ・・・」
その後も悠ちゃんは嬉しそうに色々話していたけど、私は喜ばれたことがショックでほとんど彼の話を覚えていない
「・・・・・・で、今日はその報告にきたのか?」
ここで私は『最後の賭け』に出ることにした
「それもあるけど、私その人に告白ってやつをしようと思ってて、だけど初めてだしどうして良いか分からなくて・・・」
「うーん、俺も中学の時に一度しか経験ないからあんまり上手いアドバイスはできないけど、紡が頑張るってんなら精一杯協力するよ」
「じゃあ、告白の練習台になってよ」
「・・・おぉ、俺でよければ喜んで!!」
それから小一時間ほど彼を相手にあれやこれやと練習?を重ね、部屋を後にした
『最後の賭け』それは当然彼への告白、今のように兄妹みたいに居心地のよい関係が続くのも悪くはない、だけど悠ちゃんを他の女の子に取られるくらいなら今の関係が壊れるのは覚悟の上で、せめて自分の気持ちだけは伝えておきたかった
それからは、ほぼ毎日のように顔を出していた悠ちゃんの部屋へも一切行かず、自分なりの告白を必死で考えた
決戦の日を目指して
悠ちゃんの部屋での練習から2週間後、いよいよ決戦の日を迎えた
それは悠ちゃんの誕生日、『プレゼントはワ・タ・シ』なんてセリフを中一女子が吐けるはずもなく、至って普通のプレゼントを準備し、でもちょっとだけオシャレをして悠ちゃんの部屋に向かった
このくらいはいいよね、なんたって『決戦』だもの
いつもはチャイムも鳴らさず開ける玄関もちゃんとチャイムを押しておばさんが出てくるまで待ったし、いつもは全力で駆け上がる階段も踏みしめるように一段一段上った
悠ちゃんの部屋のドアも生まれて初めてノックしたよ、どんだけなんだ私の緊張度合
階段を上る音の違いと部屋をノックしたことからおばさんと間違われて「母ちゃん、何?」と聞かれたのは今でも記憶に残っている
ノックしてドアを開けたのが私だったので悠ちゃんはファーストびっくり、普段穿かないスカート穿いてたのを見てセカンドびっくり、今まで見せたことのないようなしおらしさで「お誕生日おめでとう」とプレゼントわたしたのでサードびっくり、開いた口が塞がらない人を初めて見た瞬間だった
まずはいつものように下らない世間話、ふと会話が途切れたところで悠ちゃんが
「そういえばお前、告白ってどうなったんだ?」
内心『キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!』と思ったね、これ以上のチャンスは望めないとも、だから思い切って、自分の精一杯の気持ちを自分の言葉で伝えようと
「悠貴さん、私の名前の由来を知ってますよね?」
「悠貴さん?へっ!?」
「私の親は、私が人との絆を紡げるようにとこの名前を送ってくれました。でも私は人付き合いが苦手であまり多くの人とは絆を紡げていません。でも今日、私が一番大切に想える相手と妹としてではない絆を紡げたらと思って今ココにいます・・・・・・うんっ!! 私は貴方の事が大好きです!!もちろん兄としてではなく、一人の男性として貴方の事が大好きです!! 私を悠貴さんの彼女にしてもらえませんか?」
緊張でガタガタ震えながら泣いている私、すると悠ちゃんが「ふぅ」と一つ溜息をついた
次の瞬間、私は抱きしめられて口唇を奪われた
『えっ!?何?』混乱する私
「お前なぁ、これだけ一緒に居て俺の気持ちを全然分かってないんだな・・・ってこれは俺も一緒か」
「何がー?(大泣)」
「こないだお前に『好きな人ができた』って言われたとき、本当は嬉しさなんてこれっぽっちも無かったんだぞ、紡を誰かに取られたって思って。こんなことなら俺の気持ちを早く紡に伝えていればって。」
「だから何がー(超泣)」
「あーもう、本当に鈍い女だな!! 俺もお前の事が好きだって言ってるんだよ!!」
「嘘だぁー(激泣)」
「嘘じゃねぇって、そりゃお前が小さい頃は本当の妹みたいに思ってたけど、今は一人の女としか見れねぇって、それをお前に隠しとかないと今みたいな関係が壊れそうで怖いってのに、お前全然遠慮せずにくっついてくるし・・・色々と必死だったんだからな!!」
「本当に?本当?」
「あぁ・・・嘘はつかねぇ」
その後、悠ちゃんは『証拠を見せる』と意気込んで私の家に突撃し、台所にいたお母さんに「紡と付き合う事になった」と宣言
お母さんは驚きもせず「やぁっと、あんたらくっついたか」と笑っていた
悠ちゃんはお父さんにも同様の報告をすると言って、お父さんが会社から帰るのを待っていた
お父さんの帰宅と同時に玄関までダッシュする悠ちゃんには少し笑えたが、「紡と付き合う事を許して下さい」と頭を下げる悠ちゃんは少し男らしかった
お父さんの返事はお母さんより更にあっさりしたもので「えっ!?お前らまだそういう関係じゃなかったの?悠ちゃんが頭下げるから子供でもできちゃったのかと思って焦っちゃったよぉ」って父さん・・・
長々と話してしまいましたが、これが今から7年前の出来事
悠ちゃんのサポートもあり、私の引っ込み思案な性格もかなり改善されて中学、高校ではたくさんの友達に恵まれた
その中には異性の友達もいるがこれを悠ちゃんに言っちゃうとヤキモチを妬くのでナイショ・・・でも明日でバレちゃうかなぁ、招待客の中には仲の良かった異性の友人も呼んじゃったんだよねぇ
まぁ、多くの友達との『絆を紡ぐ』きっかけを作ってきれたのは貴方なんだから五月蠅く言わないでよねダ・ン・ナ・サ・マ