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紅葉

作者: salesian
掲載日:2013/04/10

>-紅葉-

>

> 今俺、マジ人生かったるいっす。

> 毎朝寝坊して、学校に遅刻して、授業は聞かないで、遊んでばかりいて、女と遊びほうけて、親や先生に叱られて。

> 嘘。親はいない。親は離婚して、しばらくおふくろと暮らしてたけど、交通事故でぽっくり死んだ。親戚が引き取ってくれるって言ってくれたけど、なんか気まずいし、断った。それに、なんか1人暮らしって、カッコイイし。高校のお金と生活費は払ってくれている。

> 将来に、夢や希望なんてモンはない。今の高校も、もういつ退学させられるか分かんないし。うん、ハッキリ言って、今の俺には存在価値なんてなくね?

> 要するに、俺は日常に刺激を求めてるワケだ。もう1度言うけど。

> マジ、人生かったるい。うん。

>

>

>

> 目覚まし時計が鳴っている。今気付いた。9時56分。寝坊。やっぱ1人暮らしは不便だ。誰も起こしてくんない。どうせ起こされても起きないだろうけど。行くか。ちゃっちゃと制服に着替えて、家を出た。

> 空は青く澄んでいた。日差しも暖かい。鳥の鳴き声があちこちから聞こえる。赤く染まった紅葉の葉が、ひらひらと舞っている。こういうときだけ、少しだけ生きてる感を感じる。やっぱり自然は友達、的な。道にコカ・コーラの空き缶が落ちていた。俺は拾って、ゴミ箱に捨てようと思ったけど、近くにゴミ箱がないから、鞄に入れた。うひょー、俺、偉い。みんなに、俺は不良だと言われるけど、俺にだって良いトコあんだぞ。コルァ。

>

> 俺は、ひらひらと舞う紅葉の葉を、ぼーっと見ていた。風に吹かれて、ゆらゆらと揺れながら、静かに落ちていく。木に付いている葉がざわめく。辺りにざわざわと紅葉の葉が舞い上がった。鳥の鳴き声が近づいてくる―。

>

>

>

> 「紅葉がきれいですね」

>不意に後ろからおばさんに声をかけられた。

>「あ、ああそうですね」

>俺は慌てて返事をした。

> ―あれ。これは俺の声じゃねえ。なんだ、このしわがれたジジくさい声。ってゆうか、なんだこの車椅子。なんだこの水色の病人が着る様な服。

> そのとき、脇腹がズキッと痛んで、思わず「うっ」と声を漏らした。

>「大丈夫ですか!?」

>後ろから、車椅子に手を掛けていたおばさんが背中をさすってくれた。

>「あ…大丈夫、です」

>「そろそろ病室に戻りますか、先生」

>「あ…はい」

>ここは病院の中庭だった。それにしても、先生、って、ホント、俺、どーしちゃったワケ…?

> 病室の表札を見ると、名前が『坂本勇馬』になっていた―っていうか、え、俺じゃん。なにこれ、ちょっと、マジ意味不なんですけど。

>「中庭散歩してみて、どうでした?」

>病室で待っていたおじさんが言った。

>「あ、ああ紅葉が、きれいだったよ」

>「そうですか、良かったですね」

>はあ。他にも病室に、おじさんやおばさんが、たくさん来ていた。お見舞いだろうか。

>「先生、あと余命2ヶ月、頑張りましょう!」

>おじさんが言った。

>「あ、はい!」

>―って、え?余命2ヶ月だぁ!?ジョーダンじゃねえ。ってか、そういうのって、頑張りましょうとか言うか?普通。

>「あ、あの、頑張りましょうとか、普通言うかなあ」

>俺が聞くと、

>「これ、先生が言い始めたんじゃないっすか。宣告されて病室に戻ってくるなり、余命2ヶ月、頑張ろう!…って」

>とそのおじさんが答え、みんなが笑った。俺はそういうキャラなのか。まあ、俺なら言い兼ねないな。っていうか、この体が俺なら、俺はタイムスリップしたワケ?マジSFじゃん。あと、先生って、なんのだよ。

>「あの、俺は、先生って、なんの先生やってたんだっけ…かいな?」

>「なんだよ先生、忘れちゃったんすか?先生、高校で学年主任やりながら日本史ずっと教えてくれてたじゃないっすか。特に坂本龍馬の話になると、もうスイッチ入っちゃって、1時間しゃべり通しだったときだってあったじゃないっすか。しかもすっげー熱血教師で、俺がめっちゃ問題起こしたときだって、先生のお陰で退学しないで済んだんじゃないっすか」

>またもやあのおじさんが答えた。へえーっ、俺ってそんな人だったんだ…。

>「ホントに、先生のお陰で…先生の…」

>なんだなんだ、おじさん泣き出しちゃったよ、泣くなおじさん、いい歳して泣くな…。

> ―幸せだなあ。たくさんの生徒に愛されて…。

> ぽろぽろと涙が溢れてきた。

>「泣かないでくださいよ、先生」

>そのおじさんが言った。それは、こっちの台詞だってのに…。俺、もうこのままでいいわ…。なんだか瞼が重くなってきた。俺は目を閉じた。小さく声が聞こえる。

>

>―先生、寝ちゃったよ。

>

>―布団、ちゃんと掛けてやろうぜ。

>

>―じゃあね先生、また明日…。

>

>

> ―なんて、幸せなんだ…。

>

>

>

> 「おはようございます」

>看護婦さんの声で目が覚めた。

>「体温計りますね」

> あれから、俺はずっと眠っていたらしい。っていうか、俺は未だにおじいさんだった。

> 脇に体温計を挟もうとすると、右胸のしわしわな皮膚の中に、一筋の傷痕があった。うん、やっぱこれ俺の体だわ。

> おふくろが交通事故に遭ったとき、俺も一緒にいた。俺が問題をやらかして、学校で3者面談をした帰りだった。信号がチカチカしてたから、俺が「早く渡ろう」って言った。それでおふくろと走ってたら、トラックが走ってきて―。俺は重傷で、おふくろは死亡。右胸の傷痕はそのときの傷痕。うん、俺のせいだな。信号渡ろうとしたのは俺だし、おふくろが外に出た理由も問題起こした俺だし。けど、あれから俺は、信号がチカチカしてても渡らなくなった。それはいいことだ。

> 「おっ、起きてますね。こんちはあ」

>12時を回った頃に、昨日のあのおじさんが来た。っていうか、そういえば、仕事は?何コイツ、無職の男性的な感じ?

>「あのさ、あんた仕事はどうしたワケ?…かの?」

>「しばらく休暇っすよ。先生が逝くまでね」

>「そんな休んでいいの、かい?」

>「俺、こう見えて子会社の副社長なんすよ。まあ40にもなってまだ独身ですけどお…って、前言いませんでした?」

>「あ…思い出した、思い出した」

>おじさんはニシシと笑った。そっか、会社休んでまで来てくれるってすげえな。ほめてつかわすわ、マジで。けど独身か、うん、俺が死ぬまでに嫁さんのツラ拝ませてほしいね。そういえば。俺の嫁さんは?

>「おい、お…ワシの妻はどこだ?」

>おじさんはぷっと噴き出した。なんだ、何がおかしい。

>「なーに言ってんすか。先生も独身じゃないっすか。」

>え。

>

>―なーに言ってんすか。先生も独身じゃないっすか。

>

>―なーに言ってんすか。先生も独身じゃないっすか。

>

>―なーに言ってんすか。先生も独身じゃないっすか。

>

>耳に貼りついて取れない。え、何?え?

>

>―なーに言ってんすか。先生も独身じゃないっすか。

>

>マジ―?

> するとおじさんは言った。

>「けど先生言ってたじゃないっすか。妻なんていなくても、今が幸せならそれでいいんだよー!って」

>そうか。そーゆーモンなのか。言われてみれば、俺ならそう言い兼ねないね、うん。そうだ、妻なんていらねーよ!うおー…。そうはいかないね、うん。やっぱちょっと悲しいわな。

>「俺、今まで先生のその言葉を心に留めて独身やってきたんすから」

>そっか…。俺の言葉で生きてきた生徒がいるって、それって、やっぱ、嬉しくね?俺、このおじさん、超超超好きになったわ。うん、なんていうか、このおじさん、俺に似てる。やっぱ、俺の熱心な教育によって似てきちゃったのかな。

> うん、俺、そろそろ戻ってもいいかな…。

>

>

>

> それからも、おじさんは毎日お見舞いに来た。もちろん、他の人達もお見舞いに来た。

> おじさんは、いつもお昼頃に顔を出してきた。おじさんは、俺の話をよくしてくれた。俺の授業は熱は入っているけど、いまいち分かりにくかったこと。俺が怒って、黒板にひびを入れてしまったこと。俺が男子にはすごく厳しくて、女子にはデレデレに甘かったこと。俺は早弁した生徒のお弁当を取り上げて、目の前でうまそうに食べることをよくやっていたこと。俺は、それを聞くのが毎日の楽しみだった。けど、この話をあと何回聞けるのかを考えると、胸がしくしくと痛んだ。

> そして俺の容態は、少しずつ悪化していった。

>

>

>

> 今日も、おじさんはお昼頃に顔を出した。なんだかおじさんは、いつもと様子が違っていた。なんかそわそわしてて、落ち着きのない感じだった。

> 俺は、もう起き上がれなくて、しゃべることもほとんど出来ないほど病気が進行していた。

> もう、あれから2ヶ月経った。窓の外を見ると、既に木は葉を全て落としていた。

> そろそろかな。俺も死ぬのか。別に、怖くはない。来ると分かっていた日が来ただけだ。俺は死んだらどうなるんだろ。そこで人生終了?あの高校時代に戻るか?俺はどうしたい?どうしたいかっていえば…そりゃあ戻りたい、わな。

> まだお昼なのに、病室にぞろぞろと人が集まってきた。なんで?

>「先生、予定では今日が、あの、アレっすよね。だから、みんな今日は集まろう…って」

>おじさんは言った。なーるほど。

>「で、先生、あの、最後なんで、病院の先生にも特別に許可貰ったんで…」

>で?なんだ?

>「散歩行きましょう!」

>っていうか、まだ今日死ぬかも分かんねーのに、なんだってんだよ…。でもまあ、行ってやるよ、愛しき生徒達よ。

> 俺達はしばらく歩いた。一体どこに行こうってんだよ、と思いながら俺は車椅子に乗っていた。するとなんか、見慣れた光景だなって感じがしてきた。うん、そうだよ、やっぱり。ここ、俺がタイムスリップした場所だ―。辺りの景色は、多少変わっていたが、間違いない。相変わらず紅葉の木はそこに並んでいた。

>「ここ、先生のお気に入りの場所だったんすよね」

>おじさんは言った。

>「先生、言ってたじゃないっすか。ここで紅葉眺めたり、空見上げたり、鳥の鳴き声聞いたりすると、気持ちが和らぐよ…って」

>そうだよ。ここにいると、テンパった気持ちも、自然と落ち着くんだよ。俺は高校時代を思い出す。なんか、高校時代がものすごく遠い昔のことである様に感じた。

>「俺も」

>おじさんは言った。

>「俺も、この場所が大好きっす」

>だから、と続ける。だから、なんだよ。

>「結婚します!」

>は?マジ?おじさんは、お見舞いに来てくれていたおばさんの肩に手を掛けた。このおばさん、最初に俺の車椅子押してくれてた人だ。よく見ると、意外ときれいな人だった。とても幸せそうな顔だった。っていうか、なんだよ!何結婚しちゃってんだよ!地味に付き合ってたワケ!?このヤロ、俺置いて独身卒業かよ、マジふざけんなよ、オイ…。

> おめでとう―。

> 聞こえたかな。小さかったから、聞こえてねーだろうな。別にいいけど。

> そのとき、俺の膝に紅葉の葉がひらりと落ちてきた。あれ、と紅葉の木を見上げた。すると、葉を全部落としたはずの紅葉の木に、赤に染まった紅葉の葉が、びっしりと付いていた。そして風が吹くと、ひらひらと葉が舞った。びっくりして目を丸くして紅葉の葉を見つめていると、おじさんが俺の顔を覗き込んで、一瞬きょとんとした顔になったが、うんうんと頷いて、紅葉の木の方に振り返ると、

>「紅葉がきれいですね」

>と言った。これは幻覚なのかな


>~

>

>分かんないけど、すごいきれいだ。なんだか泣けてきた。

> そろそろだな―。生徒の諸君、もうお別れだ。俺、もし高校時代に戻ったら、もう1度諸君に会うために、頑張るから。まあ、応援宜しくって感じ。俺、自分の存在価値、見つけたよ。うん。

> 俺は、ひらひらと舞う紅葉の葉を、ぼーっと見ていた。風に吹かれて、ゆらゆらと揺れながら、静かに落ちていく。木に付いている葉がざわめく。辺りにざわざわと紅葉の葉が舞い上がった。鳥の鳴き声が近づいてくる―。

>

> ―俺って、マジ幸せなヤツだな。

>

>

>

> 気付くと、俺は鞄を持って、紅葉の木の前に立っていた。俺、なんか戻ってきた感じですね。

> 空は青く澄んでいた。日差しも暖かい。鳥の鳴き声があちこちから聞こえる。赤く染まった紅葉の葉が、ひらひらと舞っている。

> 俺は、うん、と頷いた。よし。

>「いっちょやりますかぁ~」

>俺はなんとなく声に出して言った。

>

>-END-


最後までお読みいただきありがとうございます。

今後『紅葉』をより良いものにしていくため皆様からのアドバイスを頂けたら幸いです。皆様からのコメントを心よりお待ち申し上げます。

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