物語の続き
「やあ、ようこそ。」
先程聞いたような言葉だ。
喫茶店の中に入りカウンター席に着く。
店内にはマスターらしき年配の男性がカウンター越しに一人だ。
メニューを手にとる。
コーヒー豆のいい香りが鼻をくすぐる。
「コーヒーをひとつ。ブレンドで。」
マスターらしき男性の返事はなかったが何やら準備をしているので伝わったんであろう。私は確か鞄の中に入ってあった読みかけの小説を手にとる。
不思議な内容で主人公がずっと同じ場所から出てこれず繰り返すというものだ。
湯を注ぐ音がする。
先程まで香っていた香りとはまた違ういい香りが店内を包む。
小説もそろそろ終盤だ。
しかし主人公は未だ同じ物語の外に脱け出せずにいる。こうも続くと終わりが気になるものだ。
ふと気付くと机の上にコーヒーが置かれている。
物語に集中し気付かなかったようだ。
カップを手に取り一口、また一口と口にする。
格別に旨いというわけではないが家で飲むそれとは違うので旨いのだろう。
物語が進む。静かな時間が店内に流れる。
やがて小説を読み終わった私はカップに残っていた最後の一口を飲み干しお金を机の上に置く。
小説を鞄の中に入れて再び店を後にするためドアを開ける。
「やあ、ようこそ。」
先程聞いたような言葉だ。