◇3 俺は変態ではありません
今回は前回と打って変わってボケボケ回。
更新遅れてごめんなさい!m(_ _;)m
世の中には、どうしても耐えられない事がある。
同時に、耐えねばならない事もある。
俺にとってそれは、一度に押し寄せた。
自分の中の中での葛藤。
しかしここで負ければ、もっと大きな痛みが俺に与えられる。
自分を守るための、最低限な防衛反応。
それくらいはこんな状況下でも持ち合わせていた。
いや、だがしかし。
少しくらい鬱憤を晴らさせて貰おう。
いや、だって、だって、だって…
だって!
何で俺が……!
「女子の前でエロ本を立ち読まなきゃならんのだあああああああああああああああああああ!」
安西先生…女子の視線が…痛いです…(号泣
@~@~@~@~@~…
平原での戦いが終了するのは、兵を納得させる時間を含め8月27日午後1時くらいだった。
ジオレン国に帰ってきたのが2時半。
とりあえず王女権限で、ロールル姫にコラー兵が寝泊りできる場所を用意させ、いろんな生活手続きをまとめて済ませた。
今日はもう遅いので解散! と姫が近所迷惑も考えず叫んだのが3時くらい。
んでその後すぐ、姫と俺、そしてハゲは竜王の元へと向かった。
「………なるほど……事情は分かった」
ロルガ・ブルワ・ゼクログ。
イカツイ風貌。
真紅の眼球。
光沢が煌びやかな鱗。
立派な髭。
大きさは…そうだな、8メートルくらいか。
それは、竜王を名乗るのに相応しい風貌をしていた。
俺達は彼の膝元に立っていた。
姫が話し出す。
「彼らの処遇は、とりあえず『観察処分』という体で、我が部隊の指揮下に入れたいのですが」
「構わん。彼らには働く場所も、住まう場所も必要であろう」
竜王は短い腕で髭を引っ張りながら話を聞いていた。
「と、その前に……スタビライザー、君には、いろいろ聞かねばならん。
勿論話を聞かせてくれるな?」
「無論です陛下。
といっても、自分が知っている事は末端の末端程度。
どこまで陛下のお力添えが出来るのか少々不安ですが…」
「問題ない。話してくれ」
「はっ」
肩膝を付き深く頭を下げるコラー連邦軍大佐。
さて、用事が済んだので俺達はこれで…。
「じゃあ、ジジイ。俺達はそろそろいいか?」
「良いぞ。言葉遣い直せばな」
「じゃあ俺達帰りまするでござる」
テキトーにあしらっておく。
俺は頭の後ろで手を組みながら何も無い真っ白な部屋から出る事にする。
「伯父様? 小難しい話をする前に宜しいですか?」
「? どうしたルル」
「私ロールル・フレグシア第二皇女から、一つ報告しておかなければならない事が…」
「話してみろ」
「そのーですねー」
やたら上機嫌な声が背後から聞こえていた。
…っていうか眠い。さっさと風呂入って寝たい。
「そこの馬鹿が、スタビライザーさん含む179名を無差別に殺そうとしていた件について、ですね」
!?
俺は超高速で振り向く。
見えるのは嬉々と話をするアホ姫と、酷く冷たい眼をした竜の王。
オッサンは少し離れた所で竜王の側近2人と少し堅い表情で話をしていた。
……えー、っと?
「…ほぉ。興味深い話だな」
「ですよね? で、具体的には…」
「ちょ、姫テメー! 言わないって約束だったろ!?」
姫が話そうとしているのは俺が怒りのあまり、オッサンと地上でくたばっていたオッサンの部下を殺そうとした事だろう。
それについて、姫は俺を怒った。
それで終わり…な筈だった。
なのに、お前…!
「あたし、そんな事一度も言った覚え無いケド?」
「おまっ!」
「それにチクるチクらないは私の勝手でしょ? 『チクる』の意味、知ってる?」
「………………」
言葉がー出ないんだけどー。
そしてジロリと竜王の眼が俺を睨む。めちゃ怖い…((( ゜д゜ ))
「貴様のその衝動は、まだコントロールできんのか…」
「…うっせ。今修行中だよ」
「問答無用。修行など自分で加減できる物に意味など無い」
そして竜王は手に羊皮紙と万年筆を取り出す。
サラサラ〜っと書いて、それを俺に投げる。
「そこに書かれている事柄が、今回の貴様の罰だ。次はそれじゃ済まないと思えよ」
「あん? ……!? こ、これは…!?」
@〜@〜@〜@〜@〜…
「ほー…」
「…………笑いたきゃ笑えよ…」
「ギャハハハハハ!」
「容赦無えなッ!」
話は戻ってコンビニ。
突然現れたのはファームだった。
長い茶髪を二つに結わえたツインテールに勝気な顔。
服装も性格もボーイッシュな彼女の名は、ファーム・リリア・グレルビ。
暴食、乱暴、豪快…と並べればキャラが分かるスゲェ単純な奴。
俺と同じ、2-4組の悪友。
ぶっちゃけ、基本ウザい。
「だって、あっはっはっは。ここ、女子寮の前のコンビニなんだぜ~! あっはっはっは!
そりゃ変な目で見られるお前を笑ってやりたくなるわ! あっはっはっは!
っていうか私がいる事でアンタのヘンタイっぽさが減少してんだから、寧ろ感謝して欲しいぜ。 あっはっはっは!」
「まるで語尾のように「あっはっはっは!」って言ってんじゃねぇよビッチ」
「こんな場所でエロ本読んでるごみ野郎に言われたくないわ!」
ドガンッ!
武術家である彼女の飛び膝蹴りが俺の後頭部直撃。
衝撃でエロ本の棚が散乱。
何事かと見に来る女子高生がこちらを見られ……目と目があった瞬間に睨まれ舌打ちをされる。
因みに女性店員は何故かレジの向こうで遊○王のパックを破り漁っている。
……。
俺が竜王に命じられた罰。
簡単に言えば、エロ本を5時間立ち読むこと。
具体的には、「ジオレン王国第一魔法高等学校の女子寮の前のファ○リー・マ○トにてエロ本5時間読んで、最も高い物を一冊女性店員レジで買ってそれを読みながら帰宅しろks」という事だ。
……どういう事だってばよ…。
ちなみに俺はコラー軍との戦いから帰って竜王に報告し終わってなお、自宅に帰れてません。
汗臭い上に泥まみれ。
そんな俺はエロ本読み出してやっと4時間。
時刻は8時。
精神崩壊寸前です。
「何でお前あの時でしゃばちゃったんだろうなー?
姫さんに任せときゃお前は今頃こんな目に遭わなかったのになー」
「って言いながら頭を踏むな!」
「調子乗んなきゃお前は『変態』ってレッテルを女子達に貼られなくて良かったのになー」
「うっせえブス…あぁ! ごめんごめんごめんなさいボクが悪かった悪意の塊だったのでどうかマウントポジションで顔面をぶん殴るのはやめtブフォォオ!」
「あ、私そろそろ帰んなきゃだわ。
はははw、菓子買いに来ただけなのにこんなバッカみてぇな事に遭遇できるなんて…私、運いいな!
じゃなー」
ふぁみふぁみふぁみ~まふぁみふぁみま~♪
ファームは足取り軽そうに店から出ていった。
「殴るだけ殴って帰るんじゃねえよ!
あぁ! ちょっと!
……くそ、いい時間稼ぎだったのに…防犯カメラのせいで俺は店から出れねぇし…」
「せん…ぱい・・・?」
「!!」
ウシロヲ、フリカエル。
そこにいたのは、手を口に当ててお上品に…というかベタに驚く少女。
あわ、あわわわわわ! と目を丸くしているのは、
貴族の少女、クリルア・ミサンガ。
「先輩が…先輩がえっちな本を…あわわわあああああああああ! お回りサーン!」
「ちょ、俺確かに17だけど警察はナシ!」
ガシッ!
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
大腰。
背中から店内に叩かれる俺。
そして焦るクリルア。
「あ、ごごごごめんなさいです!」
………。
クリルアが持っているのは『男性拒絶症』。
男が触れれば一瞬にして世界が反転する、地獄の症状。
銀髪小柄におとしやか、そんな誰もが可愛がる少女に触れよう野郎がいればすぐさま幻滅してしまう難儀な症状である。
「……クリルア…」
「は、はいぃぃ…」
「……何でこんな所に?」
「ひ、姫様がここに来れば先輩の努力が見れるって仰ってたんです…」
あ、あんのバカ姫があああああああああああああああああ!
起き上がる俺。ビクるクリルア。
「自分だけ高みの見物でえええええええそんなに俺を陥れたいのk………ッ!?」
ぬるっ………
背中を這いずり回る君の悪い感触に全身が震える。
回れ右してそこにいたのは、
「あぁ、アル、もうちょっと待ってくれよ。
もうすぐローション塗り終わるから…」
ゲイでした。
「死ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいッッッッ!」
脳天に踵落とし。
床に這いつくばるグレン・BH。
すごくどうでもいい話だが、いやはや本当にどうでもいいが、彼のファミリーネームは略した形でも愛称でもなく、実際に『BH』という家系なのである。
どの世代も恵まれた恋人と結婚し、そして優秀な子供を産むというジオレン国では有名な家柄。
しかしその異端児が目の前にいる。
このゲイだ。
「ひ、酷いじゃないか……愛人の頭になんて事を……」
「誰が誰の愛人なんだよッ!
っていうか嫁は誰だよ!」
「勿論僕さ!」
「それは予想外だった!」
コイツは何もかもを持っているのに、何もかもを捨ててしまう性癖を持っている、残念な男である。
「ハァ……。
つか何でお前ここに来たんだよ…?」
「姫様に言われて来たんだけど」
「あのバカh(ry」
あいつ、もうどうしようも無いな…。
泣きたくなったよ。
「クソ…、だけどお前らもお前らだぞ。
あんなバカの言う事にすぐに従っちゃうのは絶対ダメだ」
「でも、姫様のご命令ですし…」
「僕は別に行かなくてもいいって言われたって来たけどね」
「黙れ変態」
「ふん! エロ本片手にお友達と話す奴のが変態だい!」
「うわ反論できねえ!」
そんなこんなで、2人が帰った後もいろんな奴にからかわれて、時には侮蔑されて残りの1時間を過ごした。
「や、やっと9時…」
長かった。
非常に、長かった。
いろいろ愚痴を漏らしたいが、何より今俺は擦り傷多数、そして背中はずきずき言ってるし、おまけにローションでぬるぬるだし…で事を語ろうにも語れない。
いい加減家のベッドで寝たい。
俺は命令通り店で一番高いエロ本を買う。
………何でこのエロ本2万するんだ…?
背表紙のバーコードの上に記された価格に面食らう。
……。
いいや、もう。めんどくさい。
ツッコんでたら埒が明かん。
俺はレジのお姉さんに声をかける。
「すんませーん、これ下さい」
背中を向けて相変わらずカードゲームの袋をゴミ箱に捨ててる女性。
髪は黒、背中まで垂れ下がるのなら結構な長さか。
背は高いし、座っていても分かるくらいスタイルがいい。
美女と言えるレベルだ。
これで顔がすごくミステリアスなら文句ない。
「ふふふ…」
振り替えったその顔は想像通りの顔をしていた。
綺麗な顔立ち、小さく微笑む口元、妖艶な目の下のほくろ。
全てがパーフェクト。
パー……フェクト…。
………。
「あ、れ?」
「お疲れ様アル」
「な……!」
っていうか。
知り合いだった。
ジェシカ・ペルシャだった。
「ジェシカ!?」
「とても面白い物が見れて良かったわ。ありがとう」
………。
最早言葉が出ない。
色々何がなんだか分からなくてあれがこれでどれがそれでうわあああああああああああああああああ!
「さて、このエロ本を売るかどうかは私次第なんだけど…」
「!?」
こ、ここで問題発生だとぉ!?
俺は一刻も早く帰りたいシャワーを浴びたい寛ぎたい寝たいのに!
ここは土下座だ!(ヤケクソ)
「お願いします! ジェシカさん! 俺にエロ本を売ってください!」
「んー…ま、それは別にいいわよ」
「本当ですか!」
やった!
これで帰れる!
「ただ…」
「ただ……?」
不穏な空気。
……やばい。
「クリルにガチホモの触れ合いを見せちゃうなんて…どんなオシオキをしようかしら…?」
若干百合なジェシカ先輩は、そう言ってどこからか取り出した鞭を撓らせるのだった。
や、やめたげてよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!
俺の一日は、まだ終わりそうにありません。
@~@~@~@~@~…
「スタビライザーが、裏切ったか」
「ええ、偵察部分が戦いの一部始終を見ていたそうです」
何百階という、超高層タワー。
その鉄塔の中で一番広いエレベーター。
Vip用のそれに乗って小さくなっていく景色を見ているのはコラー連邦共和国のトップ。
エルキゼル・L・ノールド。
と、その秘書である。
「スタビライザーは我々の計画の一端をジオレン王国に喋ったでしょう」
「ヤツが知っている情報の量はそれこそ雀の涙だが……まぁ、足枷に意味がなくなったな。
ヤツの女房と子供の監視は外せ」
「牢には?」
「入れなくていい。放っておけ」
「かしこまりました」
秘書は手元の書類に丁寧な字で書き込んでいく。
ノールドはただ、景色を見ていた。
夜の街の光が、窓張りのエレベーターに注ぐ。
青、橙、黄…色取り取りのネオンと魔法の光が、そのままこの国の民の活気を表している。
この光を東の国に…竜王率いるジオレン国に潰させる訳にはいかない。
「絶対に勝たねばならない」
「はい」
「どんな犠牲を払おうともだ」
「………はい」
秘書は俯く。
鉄箱は、街並みに手を振るように光を遠ざけていく。
昇っているのに、堕ちているような気がした。
闇に。
「アルメルリ少佐」
「は、はい…」
「竜撲滅特殊部隊を、動かす準備を」
「! それは…!」
「どんな犠牲を払おうとも、だ…」
「………」
そうだ。
もう元には戻れない。
明るい場所になど帰れない。
東の英雄である光竜と憐竜のように、国全て人間の賞賛を浴びる事など、我々には出来ないのだ。
出来る、筈が無い。
だからこそ。
「ジオレンを、潰す」
光には背を向けて、闇に身を染めるのだ。
光を、堕とす為に。
戦争のキッカケは、悪巧みする奴が政権握ってる事。
それに感化される重役。
正しい事を主張すれば抑圧され、喉を封じられる。
それが俺の戦争への価値観。
エルキゼルさんも悪巧みしてるんですかね?