◇11 舞光竜と空駆ける氷鷹:中編
小説書いてると魔法の名称を考えるのが一番めんどくさい。
ステップを利かせて右へ横っ飛びを続ける。
右手のマシンガンは常に氷柱を飛ばすディプレスに向けて、左手のは動きを先読みして牽制する為に放ち続ける。
そうやって約3分、俺達はぐるぐると円を描いていた。
じっくりと観察していると大体相手の戦闘スタイルが読めてきた。
圧倒的な速さ、それがウリのようだ。
氷属性の魔法で武器を精製し、速攻で急所を狙うタイプ。
身近な人で言えば、そのスタイルはファームに近い。
だが明らかに違うところがこっちにはあった。
此方は速過ぎる…。
「クッソ、今の俺と相性最悪だな」
というか『隙を突く』という点では今の俺達の戦闘スタイルは全く同じなのだ。
ならば、ここは相手の裏を読み合う心理戦になる。
どちらが仕掛けるか、いつ勝負に出るか。
これがポイントだ。
「おォいおい、これ、楽しいかよ?」
「…確かに、つまんねぇな」
ディプレスが氷槍を投げる。
寸での所で回避し、再び弾丸を放つ。
左右への乱れ撃ち。これで第二波は防げた。
右手のマシンガンの弾が切れたのでリロードする。
「…ジリ貧だなこれじゃ」
もう持ってきた弾の数も半分を切った。
やはり此方から勝負にでなければならない。
…それが分かっているからこそ、楽しくなくても敵は攻撃してこないのだろう。
…うし、気合入れんぞ。
俺は動く脚を止める。
そして銃を持つ稜手に白の光を煌かせる。
残り少ない魔力の開放。
収束。
展開。
それを弾丸に込める。
「お、やっと何かすんのかァ」
「こればっかりは、俺もやった事ないんだよな」
引き金を引く。
銃口から弾き出されたのは…
光を伴う光速の弾丸。
「!?」
「いくらお前が速くても」
無数の光は甲冑の少年を狙う。
そして一度放たれた光は夜の世界を舞う。
「避けれない攻撃だったらどうだよッ!」
全弾。
命中。
光に包まれるディプレス。
しかしその光に映る影は、
人の形をしていなかった。
「ッ! ひょ、氷塊…!?
本体は……ッ!」
危機感を感じて。
横へダイブ。
そしてすぐ頭上で輝くのは、氷のハンマー。
それが横へ振り払われる。
危機一髪だ。
「チッ、上手く避けられたモンだぜ…」
「危ねぇッ!
っていうか、正々堂々とか言ってたクセに不意打ちかよ!」
「馬鹿言うな、不意打ちだって立派な戦闘法だろうが…よッ!」
「うをっ!」
ハンマーが振り下ろされる。
再び緊急回避をする。
氷槌によって地面が抉れる。
…クソ、いい威力だなぁオイ!
「つか、あの魔光弾をよく避けれたなお前」
「…? 避けてなんていないぜ?」
「何…?」
「最初にテメェが放った巨大な光竜も、さっきの銃弾も、
俺は全部受け流したんだ」
………。
もしそれが本当だったとして、
「何で、無傷なんだよ…!?」
「…俺が強ェからだろ。
それより…もう、飽きた。
死ね」
槌が振り下ろされる。
やべ、もう避けれない。
魔力もない。
どうする! フラッシュで目くらまし…いやもう意味無い!
どうすりゃいい!?
グォッ!
砕かれた。
壊れた。
それは俺の体ではなく。
俺の腹に落とされる筈だった氷の槌の方だった。
同時にディプレスも吹っ飛ぶ。
吹っ飛ばしたのは…、
「ベル…ダ…?」
「申し訳ないです、兄貴」
黒いオーラを右手に宿らせて笑うベルダ。
その表情は酷く引き攣っていた。
…コイツ、まさか。
「お前の魔力は…」
「兄貴、俺はこれ以上、闘えません」
ベルダは笑う。
そして彼の体から血が吹き出る。
何かと思えば、
彼の体を、氷槍が貫いていた。
彼の遠く後ろではディプレスが痛みに悶えていた。
殴られた瞬間に魔法を発動させたのだろう。
だが、避けれなかった事は確かなようだ。
見れば紅い翅にヒビが入っている。
「クソ、何…しやがる…。
骨何本折ったんだァ、こりャ…」
ダメージを与える事は出来たらしい。
自身の戦闘不能の代わりに。
「ベルダッ! お前何で…」
「兄貴、絶対勝って下さい」
ゴフッ、と口から血を吐くベルダ。
そして右手の黒い魔力を俺の右手に置く。
黒い球体。
その中で何かが行われた次の瞬間。
色が白となり、
俺の体に吸い寄せられて、消えた。
否、吸収された。
「な…! 冗談だろ…!?」
“魔力送符”だと…?
ジオレン中の人間が、いや恐らく世界中の誰もが使えないであろう、しかし誰もが夢見た幻の魔法。
自身の魔力を人に渡す魔法。
俺達には出来なかった魔法。
何故かは分からない。
質量保存の法則の観点からも、できて当然だというのに。
出来なかった。
それはもはやルールであり、掟、規則である。
しかしコイツはそれをやってのけた。
「お前は一体…」
「俺、絶対死にません。
だからこそ、兄貴も死なないで下さい。
後で、たくさん教えて貰い、ます…から……」
「オイ!」
崩れる。
危うく地面に顔面衝突するベルダの体を急いで抱く。
ベルダは目を閉じていた。
意識を失っているようだった。
幸い、氷が突き刺さっているのは心臓ではなかった。
ちょうど胸のど真ん中。
しかし急所である事には変わりない。
急いで手当てをしなければならない。
俺は立ち上がる。
ディプレスも地から膝を離すところだった。
……ここは、コイツを倒してから病院へ行かなきゃならない。
プライドとか、礼儀とかじゃなくて。
コイツが望んだ事だから。
「…おい」
「…悪いな、怪我させちまった」
「こっちのセリフだ。
勝負の邪魔させちまった…!」
ワナワナと震える拳を抑える。
コイツも悪意があってやったわけではないだろう。
反射的な物、だったのだろう。
それでも、俺は。
コイツの為に。
勝ちたいと、思った。
「ケリつけんぞ」
「あァ、そうだな。
お互い満身創痍だ。ハンデもクソもない。
ここからは、お互いの実力勝負だ」
「勿論勝つのは」
「「俺だ」」
ベルダは俺が一番愛でていると言ってもいいくらいのキャラです。
ええ、何度でも言いましょう。
ベルダは俺が一番愛でていると言って(ry。