◇10 舞光竜と空駆ける氷鷹:前編
今年初の投稿です!
読んでくださった方、今年も宜しくお願いします!
…そんな中物語はバトルです。
年始だっつーのに…。
意識が霞む。
視界に靄が浮かび、光さえ届かない世界へと落ちる――
――ワケには、いかないんだよ……!
俺は立ち上がり、残る微かな意識で竜を召喚する。
サイズは凡そ15mといったところか?
自分でも分からなくなってきていた。
「…へェ…」
「ぶっ!」
右手を、前に。
掌の上で吼える竜は、その牙を甲冑の男に向け、
「っつぶせええええええええええええええええええええええええ!」
一直線に飛び掛る。
甲冑も防御の体制を取るが。
真っ白な光が、全てを飲み込んだ。
ガラガラと、倒壊しいていく家屋に竜は頭から埋もれていく。
俺は敢えて竜を消さずに、そのまま放置して後退する。
「…ハァッ…!」
やべ…。
力が抜けていく。
…いや、あと少し…。
それまで、の…根性だ…。
俺はベルダが入った一つの店の扉を開く。
「兄…!? 兄貴! その血…」
「ベルダ…静かにしてろ…」
避難勧告が出ていたようで、中にはベルダだけがウロウロしていた。
そのまま倒れこむ。
俺は息絶え絶えに右手に光を灯す。
それと同時に腹部に刺さる刃物を抜く。
魔力はあと半分も無い。
でも、死んだらそれこそアウトだ。
「――干渉」
俺は自身の腹部、及び臓器に魔力で干渉する。
寿命をいくらか縮めるかもしれないが、その時はその時だ。
「――分解」
唱えた瞬間、ベルダが目を丸くする。
無理も無い。
いきなり俺の腹部が光になったのだから。
「兄貴ッ…!」
話しかける時間などない。
――再構築。
……。
かかった時間は約0.5秒。
それでおれの傷は、
完全に癒えていた。
「え? ど、どういう…」
「一度、粒子化させたんだよ。俺の体ごと」
光属性魔法の最高峰。
物体の光粒子化。
即ち、一度分解してバラバラにする、史上最悪の魔法。
俺が使えるのはその一端。
天光朽換。
一度粒子にし、それをあるがままの形に戻すという一見無意味な魔法。
しかし一直線に刺さってしまった程度の傷ならば、再構築により塞ぐ事が出来る。
…魔力の消費は半端無いが。
「…っと、少し、身長縮んだかも…」
「粒子化…?」
「また後で話してやる。それより、状況が最悪だ」
俺は深刻さが伝わるように声を潜めて話す。
…クソ、今日会ったばっかのヤツになんてモン見せてんだよ俺は。
「…俺の魔力、もうあと一割しかない…。
敵も、きっと今俺を探してる」
「エ゛。…ま、まずくないですか…?」
「超ヤベェ。光属性召喚師の、宿命だよ…」
「…兄貴は、あれをやってないんですか?」
「何を?」
「外部エネルギーの利用…」
外部エネルギーの利用。
例を出すなら、前に戦った玄武の子供の陸甲がやっているエネルギーの吸収。
そのエネルギーが特定の魔力と相性が良ければ、自身の魔力に変換できる。
陸甲の場合は地熱を自身の大地属性の魔力に換えている。
…俺も、一応やっている。
だが。
「お前も分かってんじゃないのか? 光属性の魔力に合うエネルギーはたった一つ」
「…『日光』」
「そう」
つまり。
俺は陽光の下ならばほぼ無敵になれるが。
夜、室内、悪天候時には、
その力は0.1割にも満たない。
「なら、他の系統の魔法を使えば…!」
ベルダが煌いた様に言う。
光属性魔法の消費量は、他のどの属性よりも上。
確かに魔法は、同属性の魔力を使用する事で精度を格段に上げる。
だが、使えないという事ではない。
光属性の魔力だろうと、練習すればその手に火を灯す事は簡単…、
な、筈だった。
「ごめんなベルダ…」
「…え?」
「俺、光属性以外の魔法使えないんだよ…」
告げる。
自分が、劣等な人間である事を。
「小学校の頃からだった。
他のヤツは色んな魔法使えるのに。
俺は…何度やってもダメだった…。
理由は分からない。
でも、それが現実だった」
俺は過去を振り返る。
辛かった。
苦しくて苦しくて。
誰も助けてくれなくて。
そんな世界を救ったのは、姫だった。
「兄貴…」
「…とにかく、俺にはもう魔力がほぼ無い。
だから、俺は…」
店内を見回す。
そこにはズラッと並べられた銃器の数々。
ショーケースの中、壁、天井。
ここはガンショップかなんかなのか…。
……。
オイ。
「お前、まさかこれで闘おうなんて思ってたんじゃ…」
「ギクリ!」
「…実際に『ギクリ』って言うと相当変に感じるのは俺だけか…?
ふざけた事は絶対に考えるなよ?
お前の将来見たいんだから、俺は」
「え、それって…」
あー、そっか。
まだ俺舎弟にするって言ってなかったな…。
「いいから、お前はホント、どっか行ってろ」
俺は店内のショーケースを叩き割って。
サブマシンガンを二丁取り出す。
マガジンを数個取り出してデニムのポケットに突っ込む。
「え、兄貴…! それで戦うんですか!?」
「…大丈夫だろ。それなりに秘策もある」
「だったら俺も…」
ズガンッ!
俺は悪役面よろしくマシンガンをぶっ放す。
顔すれすれに弾を通過されたベルダは全身を震わせている。
「いい加減にしろよ?」
俺はかがんで、ベルダの眉間に銃口を向ける。
「遊びじゃねぇんだ。
死ぬかもしれない、死なないかもしれない。
そんな中に、まだ戦場を知らない奴が一人で歩いてみろ。
狼のいる森の中に羊一頭放し飼いするようなモンだろうが」
俺は銃を下ろす。
振り向いて、店のドアに手をかける。
「安心しろ。
絶対お前の強くなった姿見るまで、死なねぇから」
「…分かり、ました…」
俺はその声を聞いて、少し安心し。
カランカランという耳に気持ちいい音と共に夜の世界へと再び身を染める。
ディプレスは特に急いだ様子も無く、周りをキョロキョロしていた。
俺は放置安定なうだった光竜を右手に収束し、声をかける。
「悪いな、待たせた」
「…遅いぜェ。フラれちまったかと思ったじゃねェか。
…で、何でそんな格好してんだァ?」
甲冑の少年は俺の装備に疑問を持ったらしい。
そうだな、国の英雄とまで言われる人間がこんな凡庸な装備をしているのは異常に見えるか。
「悪いな、もう手加減できねぇ」
「…騙されると思ってんのかァ?」
…気づいてんのか。
まぁ、こんだけ息も荒くて肩も上下させているんだ。
気付かない方がおかしい。
「…大丈夫だ、退屈させるつもりはないぜ?」
「頼むぜェ? 必死こいて走んなきゃ…
死ぬぞォ?」
相手の翅が大きく風をきる。
お互いの距離が縮む。
…魔力の消費は最低限に、だな。
作戦としては両手のマシンガンで隙を作り、そこに至近距離で魔法を叩き込む。
それしか、ない。
銃を構える。
緊張感で体が上手く動かない中、
俺は引き金を、引き始める。
@~@~@~@~@~
「どうしよう…兄貴…」
一方で、ガンショップに身を潜めたベルダ・ギルは困惑する。
遠くで見えるのは氷と弾丸が交差する様子。
そして片方は息を切らし、肩を上下させている。
誰がどう見たって、どちらが優勢か分かる。
「また…ですね…」
ベルダは落胆する。
俺はまた、大事な人の為に何も出来ないんだ、と。
…違う。
そうじゃ、ない。
自分は全力で動ける。
武術は頭では理解できている。
魔法は使った事は無いが、知識は心得ている。
兄貴の役に、立てるんだ。
「兄貴、ごめんなさい…」
屈み込んで靴紐を結びなおす。
そして手を取ってくれたアルファゼルの思いやりを、
裏切る。
「俺も、戦わせて下さい」
結構チートだけど状況で左右されるアル君。
因みに召喚獣は一度召喚してしまえば、存在維持に魔力の供給はいりません。
だけど大小の変化や強化には魔力が必要になります。
この世界では威力は高いし凡庸性もあるけどものっそいめんどくさい魔法として認定されてます。
そしてそれを難なく使うアル君。
常人なら一回召喚するだけで魔力がほぼ全てなくなる召喚魔法なんですけど…。
その設定を説明するとやっぱアル君がチートっぽくなりますねw