◇9 鼓動、震え
今年最後の投稿です。
読んでくださった方、これまでこんな駄文に付き合ってくれて本当にありがとうございました。
これからも頑張って逝きたい…じゃなくて、頑張っていきたいです!
「そういやお前、あの時どうやって俺達の結界破ったんだ?」
数日前の、まだ陽も登っていない時間帯。
俺は池で遊んでいる陸甲に餌を投げてやりながらハゲに話しかける。
ハゲはもうツッコミたくないと云わんばかりに溜息を吐いた。
「…もう我はその名で定着なのか…悲しきかな…」
「俺達の、いやジェシカの結界には穴がない。どうやったって結界破棄で壊れるような代物じゃねぇし……」
「もはやアウトオブ眼中だな…」
「……え?」
「…すまん。今のは我が悪かった…」
仕方ない、とラフな格好のスタビライザーは此方に歩み寄る。
「え、寄んなよ…」
「何だその急激な拒否反応! …まぁ、よい。
我が出来るのは、正確には結界破棄ではない。
確かにやる事に違いはないが、本来の我の得意魔法は“術式検感”と言うのだ」
「いんぺくしょん?」
「ん、ジオレンには無いだろうな。
コレは我が編み出した感知魔法だからな」
「具体的には?」
俺は珍しい単語に珍しく聞きいる。
魔法の知識なら少しでも知ろうとするのが俺の信条。
自身の不足を補う為の穴埋め。
そんな心の内を知らないスタビライザーはノリノリで答える。
「つまり術式の魔力構成を見抜くのだ。
どんな魔法も形や状態、そして性質がある。
貴様の扱う召喚魔法も然り、ジェシカ殿が使う結界魔法も然り。
例えば、火の魔法に形がありそこに力が加わる以上、周りより熱い部分と少し冷たい部分に分かれる。
我が重視するのは後者、と言えば少しは理解できるか?」
「要するに、お前は魔法の『弱点』を見抜くのか」
ご名答、とスタビライザーは笑う。
俺は結構ヤバイんじゃないかと思った。
もしかしたら、コイツは知っているんじゃないだろうか。
俺の事。
「無論、魔力の成分を視る事が我の能力。別に弱点のみを視るのではない。
あの時はジェシカ殿の作った結界の魔力形質全体を視たのだ。
…しかし、穴は正直無かった」
「全ての面に均等に魔力が行き渡るように練られてるからな、あの魔法」
「陸甲がいなければ立ち往生だったな」
ハゲは視線を亀に向ける。
陸甲は相変わらず気持ち良さそうに泳いでいる。
「……成程、コイツが吸えるのは」
大地。
グレンが収めた大地属性の魔力を自身の力に変えて。
弱くなった結界に火炎を放ったのか。
「じゃあ、お前色んな魔法に耐性あんのか」
「貴様のような光属性や極稀な闇属性には流石に太刀打ちできんがな。
それでも他の魔力系統の戦士となら対等に戦えるし、しかも陸甲がいる。
大地属性との闘いだったら負けなしだ」
………。
少なくとも、ただまぐれでコラー連邦軍の大佐になった訳じゃ、無いって事か。
俺ラッキーで勝ったのかもしれん。
…いやいやそんな事ないか。
あとドヤ顔すんなハゲ。
「それにしても、あの結界は本当に素晴らしいな」
「“四方風水”?」
「そういう名称なのか。いやはやあれほどの硬度と密度を兼ね備えた結界を見た事が無い。
何しろ穴が無いのだからな」
「専門としては、どれくらいの強度と視る?」
「そうだな…。
四大魔獣様達が発動する魔法のレベルで、やっと壊れるくらいじゃないのか?」
………。
あのハゲ…嘘付いたんじゃないんだろうな…?
これはおいそれと壊れる結界じゃないんだろうが。
それを何でこんなチビに。
たった一度のストレートで壊されなきゃなんねぇんだよ…!
俺は額を流れる汗をそのままに、インカムに電源を入れる。
「もしもーし。問題発生…」
『キャッ、そんな力技で…』
『へー、いい火力だな』
『ウホッ、いい(ry』
? どういう事だ?
まさか襲撃を受けているのは、俺だけじゃないのか…?
甲冑は兜を取る。
そこにあるのは、銀髪の少年の顔だった。
その表情がひどく歪む。
嗤いで。
…少し…。ほんの少し…。
俺は恐怖を覚えた。
「…ジェシカー聞こえるー?」
『聞こえてるわよッ! ちょっと待って、あぁアル何で壊れたか説明できる!?』
「結界が? いや完全に力技でしたけど…」
『そんな筈無いじゃない! これはジオレン最強の…』
「そうだな。
実際、敵はまだ結界を完全に壊してない。」
『ジェシカ先輩…私の所も…ッ!
…ハァ…まだ、壊れてません』
『同じくだぜ』
『ねーねー貴方いい体してるねー趣味はボディビルディングかなんかなのかな?』
そう、まだ敵は薄桃色の張に穴を開けただけに過ぎない。
それもほんの小さな。
増援が来るかどうかは分からないが、とにかく…。
「ここを守りきれば、まだなんとか出来るぞ?」
『貴方何でそんなに冷静なのよッ!
あーーーーーもう!』
吹っ切れたのか、ジェシカは全員に伝える。
『劉姫部隊』司令官として。
『全員聞こえる!?
まだ完全に壊れたワケじゃないなら、
目の前の敵ぶっ飛ばして、また結界張り直すわよ!』
『了解』
インカムを切る。
戦いに集中する為だ。
第一、互いの距離が500km以上あるというのに、特に会話に意味は無い。
有益な情報が分かれば報告するしされる、それまで余計な雑音はいらない。
久々の戦闘だ。
「…兄貴…」
「ベルダ、お前は隠れてろ…」
「でも…兄貴、大丈夫ですか?」
「何が?」
「脚…」
言われて自分の下半身に目を向ける。
一瞬なんだか分からなかった。
細かく、震えていた。
…武者震いと、言っておきてぇなぁ…。
「…ケータイのバイブレーションじゃねぇのによ…」
「兄貴…」
「心配すんな。ほら、向こう行ってろ」
コク、とベルダは頷き、走り去る。
どこかの民家に入り、それを笑顔で見届ける。
闘いを見せてやるはずだったのに、な。
全て、自分の力量不足。
夜だから、なんて言い訳はしない。
この闘いが終わったら、ベルダを鍛えるついでに俺も鍛錬を積もう。
もっとみんなを安心させられるように。
「…終わったかァ?」
銀髪の少年は、つまらなそうに俺達の結界に寄りかかっていた。
内側から壊しやすい“四方風水”に何もしない、という事は、やはり敵はあまり情報を持っていなかった事になる。
つまり、ガチでパワーのみでぶっ壊した、という事。
どうにもならない程の汗を流しながら、俺は返答。
「待っててくれるなんて、親切な野郎だな」
「あァ、いきなり襲うんじャ、つまんねェだろ?」
彼は空を見上げる。
漆黒の闇、散るは満天の星空。
俺にとって、最悪な状況下。
「俺は強ェヤツと正々堂々と戦りてェんだよ」
「へー、俺と同じだな」
「ソイツは嬉しいな。まァ、ここで死んで貰うんだが」
「手厳しいな…。
さて、話しててもしょうがない。こっちはお前を倒さなきゃ結界も易々張り直せないんでな」
「アー俺も一応任務あったなァそういや」
俺は構えを取る。
少年も薄水色の光を手にする。
細長く形取ったそれは、忽ち武器へと変化する。
薄水色は氷属性に特化した魔力。
氷属性の得意分野“具現化”。
武器を造るのはお手の物。
「お前、名前は?」
「ディプレス」
「…? コードかなんかか?」
「いや、生まれたときからこの呼び名だ。
俺と妹は、軍のエリートとして育てられてきた。
…まァ失敗しちまった妹は死んじまったけどなァ」
「…俺の名前はアルファゼル・ティラミス」
「……いいねェ、“白銀の竜”か。
楽しめそうだ」
舌なめずりをするディプレス。
俺は彼の横に回りこみ、右手を前に出す。
残り少ない魔力をこの召喚にかける。
一撃で、仕留める。
「召、喚ッ!!」
GARUUUUUUUUUUUUUUUU!
俺の魔力の5割を納めた巨大竜の召喚。
狙いは甲冑の少年。
敢えて結界に当たらないように位置は調整した。
「ぶっ飛べ……ッ!」
飛翔。
滑空する竜は雄叫びをあげて目標にぶつかる。
…。
速度、体積、密度、威力、どれも申し分ない召喚魔法――――
――――の、筈だった。
「な…ッ?」
一瞬の事で、脳が混乱する。
痛みが走っている事は分かる。
…。
整理する。
竜は目標を捕えきれなかった。あまりにも、敵が速すぎたのだろう。
粉塵が俺の周りを包む。
…違う。
『俺達の』、だ。
背中から倒れる俺が目にしたのは、
真っ赤な俺の血と、
腹に突き刺さる氷の剣と、
目の前で眉を顰めるディプレスの姿…!
「おォいおい…もう終わりかよ…」
次からはアル君の戦闘が続きます。
次回の更新は新年明けてから。
皆さん風邪と飲みすぎ、補導諸々に気をつけてお過ごし下さい。
よいお年を!