第10話 確たる証拠が必要ですわ!
女はベッドの上で、天井をぼんやりと見つめています。
――パロマお姉さまが、男の人と夜中に会っているなんて……。のんびりした雰囲気なのに意外……。いえ、男が放っておくわけがありませんわね。
「……抱き合っていた男は誰だったのでしょう? キャダバー様よりオラオラ系でかっこいい人でしたが」
記憶を掘り起こしていると、ふと、ドアをノックする音が聞こえました。
「おはようございます。ルヴナン様。……おや? 今日はしっかり起きておりますね」
メイドのアレットは、意外そうに目を丸くしました。
そして、女も同じ顔をしています。
――もう朝になりましたのね。一睡もできませんでしたが、全く眠くない……。死体人形になった影響かしら? まあ、いいですわ。それよりも……。
「アレット。少し質問してもよろしくて?」
「なんでしょうか? 私のプライベート以外ならなんでもお答えしますよ」
「黒髪に泣きボクロの男性を見かけたのですが、彼はどなたかしら?」
アレットは一瞬だけ視線を上に向けて「ああ」と呟きました。
「それはテュエさんですね」
「どんな方ですの?」
「お嬢様も何回か会って話しているはずですよ?」
――つまり、本物のルヴナンは出会っているのですわね。
女は唇をかすかに噛みました。
「……あんまり印象に残っておりませんわ」
「まあ、仕方ありませんね。ルヴナン様はキャダバー様ばかり見ていましたから」
「…………そうでしたわね」
必死に恥ずかしそうな顔を取り繕いながら、女は俯きました。
――なんだか逃げ出したい気分ですわ。
「テュエさんは現執事長の息子さんですね。次期執事長との呼び声も高く、慕っている使用人も多くいます」
「人格者ですの?」
「特に若い女性からの評判がよろしいですね」
「では、あなたはどう思っておりますの?」
「同僚への感想は控えさせていただきます。いらぬ争いを生みますから」
しれっと言い切るアレットの顔を、女はまじまじと見つめました。
――あまりよく思っていませんのね。
「あとは、キャダバー様の幼馴染でもありますね。昔はよく一緒に遊んでいたとか」
「キャダバー様の?」
「ええ。最近は会話をする姿を見なくなりましたが、子供の頃は本当の兄弟みたいだったと聞いています」
「……なるほど」
――つまり、カタヴル家の中でも地位のある人物ということですわね。そんな方が、パロマお姉さまと親密な関係に……。これは使えそうですわ!!
「彼がどうかしたのですか?」
「わたくしはキャダバー様の妻ですから、使用人の顔と名前を覚えようと思いまして」
「素晴らしい心がけですね。……ですが、何かを企んでおりませんか?」
アレットからじとっとした視線を向けられて、女はわざとらしく口笛を吹きました。
「……そんなことはありませんわよ?」
「本当ですか? 昨日も部屋を抜け出していましたし」
「ええ。本当ですわよっ! それよりも早く着替えさせてくださいまし!」
女が慌てて立ち上がると、アレットは怪訝な顔をしながらも着替えの用意を始めます。しかし、カゴの中を見た瞬間、ため息をつきました。
「申し訳ございません。服を一着忘れておりました。少々お待ちください」
「あら、そうなの? ゆっくりでよろしくてよ?」
「すぐに持ってまいりますね♪」
アレットがお辞儀をしながらドアを閉めると、さっきまでの騒々しさが嘘のよう。
静まり返った空間で、女は再びベッドに倒れ込みます。
――パロマお姉さまと、テュエ。ふたりの弱みを掴んだのは大きいですわね。うまくコントロールできれば、わたくしの影響力を強められますわ。
女は口角をこれでもかと吊り上げて、クスリと笑います。
しかし、ふたりの背後にいる人――キャダバーの顔が浮かんだ瞬間、表情がなくなりました。
――実の姉と幼馴染が揃って否定したら、キャダバー様はわたくしの言葉を信じるのでしょうか……?
天井のしみと見つめ合うだけの時間が続きます。
――いえ、きっと信じませんわ。
女は花占いをするような手つきで、自分の腕についた縫い目をなぞっていきます。そして、小さく呟きました。
「わたくしに週刊誌みたいな影響力があればいいのに……」
政治家。アイドル。声優。様々な著名人の飛ばし記事が、女の脳内を流れました。
そして――
「あっ」
声を上げた女は体を起こし、瞳を輝かせます。さらには顔は不敵な笑みを浮かべ、口からは「ふふふ」と怪しい声を漏らしました。
――なんでこんな簡単なことに気付かなかったのでしょう。わたくしの言葉に証拠能力がないのなら、確固たる証拠を映す道具があればいいのです!
つまりは――
「この世界でカメラを作りましょう!!!」




