第2話 里ちゃんの頭の中
「バンッ」っとグラスをテーブルに置いて、
「おかわりっっっ!!!」
と私は叫んだ。目の前には空いたジョッキが3杯、無造作に置かれている。
「里ぉ〜…。あんた飲みすぎよ。いくら酔いたい気分だってさぁ…。」
心配そうな顔で片眉を上げて隣に座っているのは、遊園地のバイト先の上司、藤本さんだ。最初は上司とアルバイトの関係だったが、一緒に仕事をしていくうちに、こんな風に一緒に飲みに行く様な仲になったのだ。
「うぅっ、うぅっ、だって、藤本さぁ〜ん!!!」
そして、なぜ私がこんなに酔いつぶれているかというと…
「もう、あんなのっ、全然脈ナシじゃないですかぁ〜!!!!」
そう、私は振られたのだ。告白する前に。
話は半年前に遡る。同じサークルで、密かに好意を寄せていた男子に、私は以前から働いている遊園地でのバイトを誘った。今、男の子募集してるよ〜って。顔はなにげなく、でも、心は爆発寸前の状態で。
「勇気、アルバイト探してたでしょ?うちの遊園地、募集してるよ?上司の人もいい感じだし、休みの融通も効きやすいし。どう?」
勇気を面接に連れて行ったら、藤本さんに速攻でバレた。
「里、あの子の事好きでしょ?」って。
「え!?なんでバレたんですか??」
「ふふっ。やっぱりね。まぁ、華もあるし、真面目そうだから採るけど、ちゃんと公私は分けるのよ。出来る?」
「…はい。大丈夫です。仕事には持ち込みません。」
って言ったのにっ!!今、私はっっっ…。
いや、ちゃんと仕事には持ち込まなかった。
私、この半年間、かなり頑張った!!
勇気と一緒にバイトが出来る様になって、これからちょっとずつでも距離が近くなったらいいなって思ってた矢先、いきなり、彼女が出来たって、嬉しそうに勇気に告げられた時も、このバイト代でサプライズしたいんだよねってノロケられた時も、私、泣かずに笑顔で対応できた。「やるじゃん、勇気!彼女絶対喜ぶよ〜!」って、バンバン背中を叩いて…。心の中は、相当荒れて…。
勇気の彼女は、スマホで見せてもらった事がある。素朴で、ちょっと意外だったが、勇気が自ら選んだ子だ。いい子に決まっている。きっと私にはないものを持っているんだろう…。
「なんで私じゃだめなんでしょうか…。」
グスグスと涙を拭きながら藤本さんに聞く。
「いやぁ〜…、別に里が悪いわけじゃないよ。里はなんも悪くない。それは間違いない。だけど、恋愛ってさ、そういうもんじゃん。」
「うぅ〜。」
また涙がポロポロとこぼれる。
アプローチする前に好きな子に彼女が出来て、ノロケ話を聞かされて、でも、それでも諦められなくて、今こうして女友達の座に居座っている。何やってるんだろう…私。
何も出来なかった自分が本当に悔しい。何も。何一つ…。
「スッパリ諦めた方がいいっスよ。」
顔を上げるとカウンター越しの馴染みの店員の顔が見えた。
「なによ。私の気持ちなんて知るわけないくせに!」
「ちょ、里!お店の人にからまないの!すみませんっ。」
「いや、いいっすよ。俺も勝手に話聞いちゃってたし。すんません。…けど、まぁ、俺だったら無理矢理にでも気持ち切り替えていきますけどね。時間の無駄っス。」
こんなストレートに話す店員だったのか。藤本は意外に思った。いつもテキパキ仕事している印象だったが、中身まで切り替えが早いとは。
「なによコイツ!ムカつく〜!!!」
あー、やばい。里がさらに荒れ始めた。ここは早めにおいとました方がいいな…。そう藤本が席を立とうとした時、
「どうぞ。」
二種類のアイスが乗ったお皿が2つ運ばれてきた。
「え?私達頼んでないけれど?」
そう言うと、
「…おごりっす。」
その店員はちょっとバツが悪そうに片眉を上げて言った。
「こんなんで私の気持ちが収まると思ったら大間違いよ!!」
なおも泣き続ける里。だが、出されたアイスは食べるようだ。手をスプーンに伸ばしている。
「うぅ〜。なんで私じゃないのよぉ。」
そうつぶやきながら、里は最後までそのアイスを食べた。




