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指先に宿る翼(ゆびさきにやどるつばさ)

掲載日:2025/12/19

彼女は、

指先に乗るほど小さく生まれた。


だから――

サムベリーナと名付けられた。


両親に愛され、

村の子どもたちには嘲られ、

彼女は早くから知った。


――この世界は、弱き者に優しくない。


ある夜、

子どもを喰らう鬼が村に現れ、

子どもたちをさらっていった。


誰一人として、

後を追おうとはしなかった。


……誰一人として。


彼女を除いては。


死の沼地で、

サムベリーナは瀕死の妖精と出会う。


壊れた槍に貫かれ、

砕けた翼が、かすかに光を放っていた。


そこで彼女は、

あり得ない祝福を授かる。


――翼。

――鎧。

――そして、戦士の運命。


これは、

最も小さな存在が、

最も巨大な怪物に挑み、

伝説となって帰ってきた物語。


サムベリーナは、

春の朝、

一輪の花の中で生まれた。


あまりにも小さく、

母の一粒の涙で覆えてしまうほど。


あまりにも儚く、

父は彼女を手のひらに乗せるだけで、

震えていた。


それでも――

二人は、愛をもって育てた。


「小さくてもいい」

「生きている。それで十分だ」


だが、

村のすべてが同じではなかった。


子どもたちは、彼女を笑った。


「気をつけろよ!

 息を吹きかけたら消えちゃうぞ!」


「それ、物を持てるの?

 壊れない?」


サムベリーナは、

微笑んだ。


一言一言が、

針のように胸を刺しても。


葉の間を歩くことを覚え、

笑い声から隠れることを覚え、

黙って観ることを覚えた。


――あの夜が来るまでは。


悲鳴が、

闇を裂いた。


次々と、

叫びが重なる。


森から現れたのは、

一体の鬼。


濃い緑の皮膚。

無数の傷。

そして――

あまりにも大きな口。

あまりにも飢えた口。


子どもたちは、

人形のように掴まれ、

乾いた血で汚れた袋へ放り込まれた。


「明日はごちそうだ!」

鬼は、笑いながら吠えた。


静寂が戻った時、

残っていたのは――

泣き崩れる親たちと、

サムベリーナだけだった。


「行くな……危険だ……」

大人たちは、恐怖に壊れていた。


サムベリーナは、

拳を握り締めた。


誰も行かないなら――

私が行く。


道は、

黒く粘つく死の沼。


一歩ごとに、命が脅かされ、

一つの音が、死の約束となる。


そこで彼女は、

見つけた。


折れた槍に貫かれた、

倒れた妖精。


砕けた翼が、

かすかに輝いている。


「……なぜ、

 こんなに小さな子が……ここに?」


妖精は、か細く囁いた。


サムベリーナは、

泣かなかった。


「……他に、誰も来なかったから」


妖精は笑い、

光る血を吐いた。


「ならば、よく聞きなさい」

「私は、妖精の女王」

「そしてこの世界は、

 小さき者の勇気を忘れてしまった」


最後の力で、

彼女はサムベリーナに触れた。


光が、

爆ぜた。


花弁のように薄く、

鋼のように硬い――

小さな鎧が、その身を覆う。


背から、

透き通る翼が生え、

空を切り裂いた。


「祝福を授けよう」

「大きくなるためではない」

「――意志が、

 世界よりも大きくなるために」


妖精は、消えた。


サムベリーナは、

飛び立った。


鬼は彼女を見て、

笑った。


「武装した虫か?」


それが――

最後の過ちだった。


サムベリーナは、

鬼の左眼を貫いた。


熱い血が、

雨のように降る。


戦いは、

凄惨だった。


鬼は、

山を殴る。


サムベリーナは、

急所を斬る。


斬って。

斬って。

血と、

叫び。


やがて鬼は倒れ、

首は泥の中を転がった。


血に染まり、

息を荒げながら、

サムベリーナは袋を開いた。


子どもたちは、

泣いていた。


――だが、生きていた。


「……帰ろう」


彼女は、そう言った。


村に戻ると、

沈黙が落ちた。


血に染まった翼を持つ、

小さな少女が帰ってきたのだ。


その日から、

誰も彼女を笑わなくなった。


サムベリーナは、

もはやただの小さな少女ではない。


彼女は、

こう呼ばれるようになる。


妖精戦士フェアリー・ウォリアー

指ほどの翼で、鬼を討った者


そして――

彼女の物語は、

まだ、始まったばかりだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


この物語は「小さい=弱い」というイメージへの反抗として書きました。

指先ほどの存在でも、恐怖に立ち向かう意志があれば、運命を変えられる——

そんな想いを込めています。


残酷な場面もありますが、それ以上に

「誰かのために立ち上がる勇気」を描きたかった作品です。


もし少しでも心に残ったなら、

評価・ブックマークをいただけると、続きを書く大きな励みになります。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また次の物語でお会いできたら嬉しいです。



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― 新着の感想 ―
どんな困難な敵が相手でも一手一手、確実に勝利を刻んでいく姿に泣けました…!!
小さきもの=何もできない弱きもの。人はこう思いがちですよね。 おそらくこのお話は物理的な小ささと同時に勇気や思いやりといった心の器の小ささもにも言及されているように思います。 悲しみや胸の痛みは感じた…
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