タイトル未定2025/10/29 21:19
「どこ行くんや?」
瀬戸内を望む大きな山のたもとに
百姓を営む40代の野洲米は
40代の妻のお菊に尋ねた。
「ちょっくら、山さ、行ってくるわ。
美味しいきのこやらなんやらを取ってくるけえ
待っといてや。」
お菊はそう言うと大きな籠を背負ってえっせえっせと山へと向かった。
「気い付けて行けよ!熊やらも出るけえのー、、」
大きな声で野洲米は言った。
「母上!気い付けての!」
長男の10代、締五郎も
お菊を庭から見送った。
締五郎はこの頃、剣道にハマっていて
自家製の木の剣を振りかざしながら
日々の練習に明け暮れていた。
その下の4人の兄弟もお菊を見送った。
「きをちゅけてのー、、、」
可愛い声がこだまする。
お菊は晴れた日の険しい山をせっせと登った。
山はたくさんの危険が待ち受ける。
熊や猪と出くわす可能性もあるし
突然の雷雨だってある。
そして、何よりも恐ろしいのが遭難だ。
お菊の村でも何人かの人間が山に登ったまま
帰ってこないということがあった。
お菊は通った目印として木の枝を通過ルートに
置いていくことにした。
お菊の今回の山登りの目的はキノコ狩りだ。
この山には美味しいキノコがたくさん取れる場所がある。
お菊はその場所を目指してせっせと歩いた。
太陽の光がお菊を照らす。
汗を流しながらお菊は山を登った。
お菊はついにキノコがある場所まで辿り着いた。
《よしよし、、たくさん成っておるわ。
子供達にうんと食べさせてやらんといけんのぉ。》
お菊は担いでいる籠を下ろして
素手でキノコを取っていく。
たくさんのキノコを籠にせっせと入れた。
《こんなに食べきれるかのぉ?まあええわ。
残しても乾かしときゃぁ何日も持つじゃろうけぇ。》
成っているきのこを全部というわけには
いかなかったがお菊はたくさんのキノコで
籠の中をいっぱいにした。
お菊は素手でキノコを籠にめいっぱい詰め込んだので、相当な体力を要した。
疲れた身体だったがそれに鞭を打つように
また登ってきた山道を今度は重い籠を持って
下っていかなければいけない。
まだ太陽は沈んでおらず明るい空ではあったがその分、とても暑い。
日が暮れてしまったら大変なので
急いでお菊は山下りへと向かって行った。
せっせと山を下るお菊だったが
さっきまで明るかったはずの空がどんどん淀んできた。
《いけんのぉ、、こりゃぁ、ひと雨降りそうじゃ、、》
お菊は雲の動きと空の色を見てまずいと感じた。
それから数分すると、本当にどしゃ降りの
大雨に変わった。
籠に蓋をするようにキノコの上に藁をしきつめたのでキノコは多少無事ではあるだろうが
お菊はずぶ濡れになった。
ただ、雨宿りをしていては
日が暮れてしまう。
暗くなってしまうと遭難の確率が大きく跳ね上がる。
お菊は雨の中をずぶ濡れになりながらも早く下っていくしかなかった。
《お天道様もわしのことなんぞ見えてはおらんのじゃろうて、、》
お菊はそんなことを思いながら
重い籠を担いで
雨で視界が霞む中をせっせと下りて行った。
雷も山中に響き渡った。
ズドンという大きな音が近くに鳴り響いたので
山のどこかに落ちたのだろう。
《こわいのぉ、、くわばらくわばら、、》
疲れた身体に鞭打ってお菊は山を下っていく。
そのとき、、3人の輩がお菊の目の前に立ちはだかった。
「おい、、そこの者、、ちょっと待ってくれんかのぉ、、、」
無精髭に汚らしい出立ちの大きな男が
山降りを急ぐお菊を止めた。
「なんですか??わしゃあはよ、村に帰らんといけんのよ。ちょっとそこをどいてぇや、、」
お菊は目の前のその無精髭の大男の横を遮ろうとした。
と、そのとき、、
「待たんかぁぁぁい!!!!」
無精髭の大男は急ぐお菊の背中を思いっきり押し倒してお菊とお菊が背負う籠ごと地面に叩きつけた。
お菊の背負っていた籠は無惨にも転がり落ち、
お菊が苦労して取った家族の為のキノコ達は
籠から放たれてばらばらになった、、、
「なんしょんよぉぉぉ、、あれはわしが今取ってきた大事なキノコなんよ、、なして、あんたらはこんなことするん、、、」
お菊は絶望感溢れる声で、輩達に言った。
「黙れや!おんどりゃ、わしらの許可なしにこの山中を上り下りしてええ言うて誰が言うたんなら?そのキノコらは、ワシらがもらうけえのぉ、、観念せえや。うまそうなキノコを、ワシらの為にありがとのぉ!」
無精髭の輩はそう吐き捨てるとせっせと
散らばったキノコを拾い、籠の中に入れると藪の中へと消えて行った。
ひどく押されて地面に打ち付けられたお菊だったが、数分は立ち上がることも出来ず
降りしきる大雨の中で1人、うつ伏せで顔を土やらで泥だらけにした。
《あいつら、なんや、、卑怯者が、、、なんでわしが取ってきたキノコを取りよんなら、、
あいつら絶対許さんけえの、、、》
お菊は泣きながら悔しそうに何度も拳を地面に叩きつけた。
嵐のような大雨は過ぎ去り
太陽が山中を照らしつける。
お菊は知らぬ間に眠っていたようで
はっと目を覚ました。
全身は地面に打ち付けられたダメージで
とても痛い。
《あいつら、、ほんまに許さんけえの、、、》
お菊は痛みで立ち上がることもままならなかったが、なんとかそびえ立つ木々を柱によろよろの状態で立ち上がり、山下りを再会した。
帰りを楽しみに待つ家族の為に取ったキノコらはもちろんのこと、大切な籠までも奪われ
お菊は途方に暮れた。
元気なく、ゆっくりと山を下っていった。
途中、村を見回る用心棒の大助に遭遇した。
「お菊さん、どしたんや、、その格好は??
山賊に襲われたか!?」
すぐに大助は状況を察した。
「大助さんか、、無精髭の輩3人組にやられてしもうた、、取ってきたキノコも全部取られた。
わしゃあ、あいつらを許さんで、、、」
「お菊さん、、気持ちは分かるが、ここは落ち着きんさい、、あいつらは生半可な集団じゃないけえの、、あんまり刺激しよったら、次はほんまにやられるで、、おとなしゅうしときんさい、、それよりもひどい状態じゃ、、村に帰って医者の研さんに診てもらおうや、、、」
なんとか用心棒の大助の肩を借りながらお菊はゆっくりとみんなの待つ村へと帰っていった。
「どしたんかいの、ひどい状況じゃ、、何されたんや、、、」
お菊を出迎えた夫の野洲米は変わり果てたお菊の姿に目を疑った。
「野洲米さん、、お菊さんは山賊集団の丸八にやられたそうな、、お菊さんが取ったキノコらもみな奪われたんじゃって、、あいつらはそのくらいのことは容赦なくやるけえのぉ、、気の毒じゃが何とか命だけは取られんで良かったわ、、医者の研さんにはよう診てもらったほうがええ、、」
「大助さん、、ほうじゃったんか、、お菊を助けてくれてありがとのぉ、、感謝するわ、、すぐに研さんに診てもらうけえ、、
それにしても丸八のやつらはえげつないのぉ、、やることが酷いじゃろうて、、、ほんま酷いやつらじゃわ、、、」
野洲米もどうにもならんというような表情で大助に礼を言った。
「頼もう!」
玄関越しに大きな声が聞こえた。
噂をすぐに聞きつけたのか、、医者の研さんが
駆けつけてくれた。
「お菊さん、、大丈夫か?
こりゃぁひどいのぉ、、痛いじゃろうて、、、わしがすぐに治療してあげるけえ安心しんさい。お菊さんはずっと寝とればええけえの、、ほんまえげつない奴らじゃのぉ、、丸八は、、、幕府にも報告せんとぉのぉ、、」
「研さん、、、ほんま感謝につきるわ、、、お菊のことをほんまによろしゅう頼んます、、ほんまにいけんのぉ、、丸八の連中はのぉ、、幕府に言うてから相応の処分してもらいたいのぉ、、、」
野洲米も妻をこれだけ傷付けた丸八を許せない様子だ。
医者の研さんはお菊を布団に寝かせ
傷の手当てと全身の痛みを確認しながら
ゆっくりと施術を行った。
この村では医者の研さんは神の手と呼ばれ
村中の人々から尊敬を集める人間だ。
丸八にやられた患者はこれが初めてではなく何人もの人間が被害を受けている。
研さんもそれをずっと治療してきているわけだ。
「だいぶようなってきたけえ、あとは安心しんさい。野洲米さん、もうだめよ、お菊さんを1人で山に行かしちゃあ、、丸八の連中はえげつないんじゃけえ、もうこんだけじゃあすまされんけえね、、注意しんさいよ!」
医者の研さんはそう言うと野洲米の家を後にした。
締五郎を含む5人の子達はすやすやと眠るお菊のことを心配そうな目で見つめていた。
「父上!わしはその丸八を成敗しに行く!
母上の仇をこのわしが討ってまいる!」
木の剣を引き抜いた締五郎は意気揚々と
立ち上がって野洲米に発言した。
「だめに決まっておろうが!お前ごときが倒せるような連中じゃない。奴らは幕府でさえ警戒する荒くれ者じゃ。お前なんぞが立ち向かっても5秒と持たんわい。
今はお菊のことを見てやってくれ。
何事も争うことは危険じゃ。徳川様もそうお考えじゃろうて。。」
締五郎は気合い十分に発言したものの
ものの見事に野洲米に交わされてしまった。
野洲米一家はその夜はゆっくりとみなで
眠りについた。
「頼もう!!」
眠りについていた野洲米は玄関口から聞こえる
大きな声に起こされた。
「どなたでいらっしゃろうか?」
眠い目を擦りながら野洲米は玄関口の来客へ言った。
「わたくし、宮本武蔵と申す。噂を聞きつけて備後国から参った。
こちらの奥方が山賊集団の丸八から襲撃を受けたと聞いたが、それは本当でござるか?」
「む、、、むさし、、、、!!
あの、剣術では右に出る者がいないと言われる伝説の騎士、、、宮本武蔵様でいらっしゃるか!!!?」
野洲米は驚きを隠せなかった。
なぜあの有名な宮本武蔵が我が家に、、、
何が起こっているのか、野洲米には分からなかった。
ただ、そこには真っ直ぐな姿勢で立つ侍と
両脇に抱える2本の輝く剣が唸るように存在感を出していた。
間違いなく、、日本一の騎士
宮本武蔵が目の前にいた。
「野洲米殿、、幕府の連中も丸八の悪行には手を焼いておる。もうさすがに黙って看過しているわけにゃあいかん!我が宮本武蔵が奴らを成敗してみせよう。」
「む、、、武蔵様、、、お菊の為に、そんな大役を、、、これは何にも代え難い幸せ、、、よろしゅう、、、よろしゅう頼んます、、、武蔵様!」
野洲米は宮本武蔵の目の前で土下座で感謝の意を述べた。
「まあまあ、野洲米殿。顔を上げんさい。
見ちょってくれ!わしがあの丸八どもを叩きのめして来るけえの。帰ってきた時には村中でご馳走をしてくれえの、、楽しみにしちょるけえの、、、」
宮本武蔵がついに
この村の宿敵でもある山賊集団
丸八に戦いを挑むことになった。
「真っ昼間の暑い時にあいつらを打ちのめしたいのぉ、、」
独り言のように武蔵は呟きながら1人で山に登って行った。
「父上、、、あれが本当にあの宮本武蔵なん??」
目をまん丸に広げた締五郎が野洲米に聞いた。
「おうよ、、、本物よ、、、あれがあの有名な宮本武蔵よ、、、締五郎、、よう見とけよ、、お前もあんな騎士にならんといけんで、、、」
野洲米と締五郎は共に目を輝かせながら武蔵の背中を見つめた。
「出て来んかい!腰抜けども!
この宮本武蔵様がお前達を
1人残らず成敗してみせようぞ!
丸八のせこい輩ども!!
姿を見せい!」
燦々と降り注ぐ太陽の下で武蔵は丸八の山賊達を呼んだ。
そうすると、木の影から1人の大男が現れた。
「おう、、、どこの命知らずかと思って聞いておったが、いやはや宮本武蔵様ではないか、、、我のような優秀な剣士様がこんなところになんのご用で?」
お菊を振り落とした丸八のリーダー
鴈五郎がニヤニヤと笑いながら
姿を現した。
「ボスはお主か?」
武蔵は鴈五郎のことを鋭く睨みつけながら言った。
「ボスがわしならどうする?」
鴈五郎はニヤニヤとしながら武蔵に言い放った。
「斬るのみだ。」
そう言った瞬間、武蔵は右腰の刀を引き抜き
そのまま鴈五郎に向かって斬りつけた。
ほんの一瞬の出来事だった。
鴈五郎は一言も発することが出来ぬまま
そのまま地面に叩き落ちた。
「ふーっ、、、口ほどでもない、、、」
武蔵は一仕事終えたという表情を浮かべながら
倒れ落ちた鴈五郎を見つめた。
鴈五郎はピクリとも動かないようだった。
「まだいるのか?汚い山賊ども!」
武蔵は生い茂る木々の向こうへ言い放った。
空は明るく綺麗な青空の模様だが
山の中は一切の音もなく静かな気配が漂っていた。
「怖気ついたか!?親分がやられても仕返しすら出来んのか!?」
強めの口調で武蔵は言い放った。
その時だった。
武蔵の頭の上から山賊の1人が飛び降りてきた。
大きな棍棒を持って武蔵の頭を目掛けて振りかざす。
「ぐわぁーーーーー!!!!!!」
ドスン!!!!!!!!!
大きな叫び声と共に倒れ落ちた、、、
倒れたのは武蔵ではなかった。
頭上から飛び降りてきた山賊の一味だった。
棍棒で武蔵を攻撃するほんの手前で
武蔵は刀を抜き
その男を間一髪のタイミングで斬り抜いた。
「ふんっ、、口程にもない、、、」
武蔵は一瞬にして村人達を脅かしていた山賊集団の丸八を壊滅させた、、、
「もう1人腰抜けがいるのは知っておる!
まあお前は出てくるのは無理だろう、、
無理はせんでええ!村の衆に土下座でもして
村で生活したほうがお前の為だ。」
武蔵は森林に向かってそう叫ぶとゆっくりと山を後にした。
宮本武蔵の剣術は凄まじいほどのものだった。
「宮本武蔵様が無事帰還なさられたぞー!!!」
村中で盛大なお迎えが施行された。
「武蔵様、、、よくぞご無事で!!!」
無傷で帰還された宮本武蔵に大衆は
盛大な拍手と喝采で出迎えた。
「丸八は、、、丸八の連中はどうなりやしたか、、、???」
心配そうな表情で野洲米が武蔵に問うた。
「丸八??あの2人がそうなのか?
共に1秒で、成敗してやったぞ、、、
心配無用ぞ!!」
武蔵はさらっと野洲米の質問に答えた。
駆けつけた大衆は一瞬の静寂の後に
事態の状況を掴み取り
またもや盛大な拍手と歓声で武蔵を讃えた。
「武蔵様ー!!素晴らしいお仕事です!!」
「武蔵様ー!!我が村を救って頂き、ありがとうございます!!!」
賞賛の嵐だった。
「武蔵様、、この度は誠にありがたく、、、今夜は村人総出で武蔵様の為に宴を催す予定です。ぜひご参加頂き、楽しんでいかれて下さい。」
村長の白木が武蔵を出迎えた。
「村長殿、、かたじけない、、わしは決してそのような贅沢をする為に剣を学んでいるのではない、、このような贅沢はぜひとも子供達の為に使ってつかあさい。わしは少し休んだらこの村を後にする。また変な輩共が来たらいつでもお呼び下さい。」
武蔵はそう言うとすたすたと宿へと入って行った。
その夜、野洲米の家に来客があった。
「頼もう!!」
寝床についた矢先の来訪に野洲米は一瞬うろたえた。
ただ、無視することは出来ないので
玄関に向かった。
「こんな夜更けに何のご用で、、、?」
野洲米は来訪者に言った。
「突然驚かせてかたじけない。
我は徳川家康様の家臣
本多忠勝と申す。
訳あって、野洲米殿に用があって参った、、、
「はぁ、、、武蔵様といい、家康様といい、、
なんでまたこんな百姓の家にそんな凄い方が来られるんじゃろか、、、」
野洲米がそう言った途端に忠勝の目が鋭く光った。
「なにっ、、、、武蔵がこの家に、、、?
武蔵はどこにおる!!!!???」
大きな声で忠勝は叫んだ。
「いや、武蔵様は、この村の救世主です。
今日、小生の妻を救う為に
山賊集団の丸八のリーダー格を倒して下さいました。今晩、村総出での宴をとお誘いしましたが、丁重にお断り頂き、今日はあそこの宿で寝泊まりするはずです。明日にはもう村を出ると仰っておりました。」
忠勝は急に険しい顔つきで野洲米の話が終わるのを待たず、家を飛び出して宿の方向へと向かって行った。
「武蔵はどこだ!?」
血相を変えた本多忠勝が宿の主に聞いた。
「武蔵様ですか?上で休んでおられますが、
、、何のご用で?」
「徳川幕府家臣、本多忠勝と申す。武蔵に用があって参った。部屋を拝見させて頂く!」
本多忠勝は2階の武蔵が泊まる部屋へと向かった。
襖を開けた途端、忠勝は目を疑った。
「誰もおらん、、、、」
部屋に武蔵の姿は無かった、、、
「逃げられた!!まだ遠くには行っておらぬはずだ!みな、、武蔵を追え!!」
引き連れてきた十数名の武士に号令をかけた
本多忠勝は足早に村を出て行った。
各藩、兵力は極力薄くという徳川幕府の考えを持ってして宮本武蔵という存在は幕府にとっても目の上のたんこぶだった。
武力を持って権力を高めていくそれは
例え武蔵が兵を持たない一匹狼であろうとも
いつ幕府の恐怖になるか分からない人物を
のうのうと放し飼いにするはずもない。
徳川家康は重大家臣の1人である本多忠勝を動かして、宮本武蔵の抑制を図っている。
村にとっては武蔵の存在は皆が恐れる山賊集団を仕留めてくれたのだからそれはヒーローだ。
ただ、日本という一つの国として見た時にはヒーローというわけにもいかない。
武蔵は追われていることを想定し宴も嫌い
仕事を果たした後は早々と幕府から逃げたのだった。
武蔵は丸八を討ち取ったあの山の中へ身を潜めていた。
「やはり、徳川が動いてきた。奴らはわしの動きにはとことん敏感になっておる。
あの村にも密告者は居るのだろう。
やすやすと捕まってたまるか!」
武蔵は夜更けの山の中を歩いた。
「そういえば、わしが仕留めた丸八の2人以外に
もう1人あの一派が生き残っとるはずだ。
ちと、そいつを探すとするか、、」
武蔵は大きな声で林に向かって叫んだ。
「おい!!丸八の下っ端!!
おめえは親分を守ることの出来ねえクズだ!
どうしようもねえ弱虫だからよ、、
わしが面倒みてやろうや、、、
助けてやるけえ今すぐ出てこいや!!
はよ出て来んかったら間違いなく
お前も助からねえぞ!!」
ドスの効いた声で武蔵は叫んだ。
そうすると、林の影から1人の男が
姿を現した。
「む、、、武蔵様、、、なんでも言うことはききますけえ、、、どうかあっしを助けて下さいませ、、、」
弱々しい表情と声のその男は武蔵に懇願してきた。
「これが村中を恐怖に陥れた丸八の一派の言葉か、、、情けないのぉ、、、そんな弱気で野武士を語るんじゃねえぞ、、、武士はなぁ、、、
自分の全ての人生を懸けて、剣を振りかざす仕事じゃろうが、、、ほんま情けない時代になったのぉ、、、これも全ては武士の力を封じ込めた徳川家康の責任だぜよ、、、」
武蔵は点を見上げながら、そう言った。
「さて、、、お主にはちょっとわしの力になってもらうけえのぉ、、、わしの言うことは何でも聞けよ。そうすれば助けてやるけえ安心せえ。わしに付いてこい、、分かったの?」
「もちろんでごわす!!あっし、丸八の平常と言う者でごわす!武蔵様の為にこれから全てを捧げます!何でもお申し付け下さいまし!!」
武蔵は平常を仲間に加えた。
「おい、平常!早速仕事だ!いいか、
わしの話をよく聞け。」
武蔵はそう言うと何やら平常に
これからの作戦を伝えた。
「む、、、武蔵様、、、本当にそんなことを
決行されるんでげすか??
とんでもないことが起きてしまいそうな、、、」
「うるさい、黙れ!助けてほしいなら
何も考えず黙ってわしの言う通りにせえ!!」
武蔵はドスの効いた声で平常に怒鳴りつけた。
「っしゃ、、、しゃあませんでした!!!が、、がんばりやす、、、、」
平常は1人とぼとぼと歩き出した。
平常は江戸に向かった。
物凄い距離となるが、武蔵は平然と命令を出し
た。
ただ、平常も山賊として鍛えられた一味であり
山での移動や突然の難敵への対応などは
通常の村人達に比べれば、格段に高い能力を誇る。
なるべく早く行けという武蔵の指令の下
颯爽と平常は江戸へと向かって行った。
数日かけて江戸に辿り着いた平常は
武蔵を追って村まで来た本多忠勝のいる
幕府本陣へと向かった。
「ええ情報でっせ!!
幕府様が探しておられる
武蔵のことを知ってるでがんすよ!
ちょいと、本多忠勝様にお会いさせて頂ければ
いろいろお話しさせてもらえますぜ!」
平常はへらへらと笑いながら
幕府の警備にそれを伝え
見事に本多忠勝との商談の場を設けることに
成功した。
平常はついに本多忠勝との面会まで漕ぎ着けた。
「お主は丸八の平常と言ったな。
遠路はるばる江戸まで押しかけるとは
さぞかし有用な情報があるんじゃろうな。」
本多忠勝は言った。
「本多殿、、もちろんでごわす。実は先日、宮本武蔵が我々が統治する村に現れて
うちらのリーダーの鴈五郎もやられてしまいました。
その時に、武蔵はどうも徳川幕府の乗っ取りを考えていると申しておりました。
明日、家康を討つと申しておったんでごわす。
これは一刻も早く幕府様にお伝えせんととんでもないことになる。
そう思い、急いでここまでやってきました。」
「ほぉ、、、武蔵がそんなことを言っておったのか、、それは大変なことじゃ、、何としても家康様を守らねばならんのぉ、、お主、、平常と言ったな?
その情報、、、間違いなく本当のことか?」
忠勝は睨みつけるような視線で平常に言った。
「ほ、、、ほんとでごわす!確かにこの平常が
聞きました!武蔵は本気でごわす!」
「そうか、、、あい分かった。下がってよいぞ。」
平常は城を後にした。
翌日、、、
武蔵は動く。。。
平常が本多忠勝に忠告した通り、、
武蔵は家康を狙って江戸城に向かった。
平常の忠告により、昨晩から江戸城周辺はピリピリとした緊張感が漂っていた。
念には念をという徳川幕府の信念もあり
武蔵の奇襲作戦を想定した兵隊も多く集められた。
「いつでもかかってこい、、、武蔵よ、、、」
本多忠勝は静かに日本一の剣士を待った。
厳重体制が敷かれた江戸城周辺、、、
嵐の前の静けさが街全体に漂う、、、
そんな中、、着物姿で刀を二つ
腰にかざした男が歩いて
江戸城関所に止まった
「たのもう、、、」
江戸城看守の浦部利久は、すーっと息を吸い込み
言葉を返した。
「お主は誰ぞ、、、?」
緊張が走る、、、
「我は、、、
宮本、、、武蔵じゃ、、、、」
武蔵がそう言った瞬間、、、
後ろで待ち構えていた幕府軍の
武士達が剣を構えた武蔵を囲った。
総勢30人はいる。
「武蔵、、、、待っておったぞ、、、
お主の家来が全て我が幕府に密告してくれおったわい、、、
観念せえ!
お主が家康様のところへ行ける手段はもう無いぞ。
素直に剣を下ろせ!」
門番の浦部利久は剣の腕も立つ
優秀な武士だ。
百戦錬磨の武蔵とは言えど
そう簡単に討ち取れる武士では
なかった。
武蔵は
「あい、、、分かった。」
と言って素直に幕府の捕虜となった。
捕虜となった武蔵は
そのまま本多忠勝の待つ部屋へと
連れて行かれた。
「宮本武蔵、、、
待っておったぞ。。。
この度はご苦労じゃった。
ようこそ、我が江戸城へ。
お主の目的じゃった
家康様にお会いしたかったか?」
けらけらと笑いながら
本多忠勝は武蔵の目を見た。
「おいっ!!!!!」
その瞬間、、
本多忠勝は隣の居間にも届くような大声を出した。
周りの家臣達も何事かと
剣に手をやる、、、、
「こ、、、、、こいつは、、、武蔵ではない!!!!誰じゃ、、、、きさまは、、、、、!?」
本多忠勝は目の前の武蔵を見て言い放った。
忠勝も剣を抜いて武蔵に向けて構えた。
「ま、、、、待って下せえ、、、、おらはただの百姓ですぜ、、、
宮本武蔵様からちょいとした銭を頂いたんで、、それで武蔵様の言われた通りに言われてここまで来ただけでがす、、お許し下せえ、、、」
「問答無用じゃ!!!!!
何の断りでこの江戸城に貴様なんぞが入れたんじゃ!!!!」
ダスンッ!!!!!!
忠勝はこの男を切り裂いた、、、
あたりは血の海と化した。
本物の武蔵は既に家康の隠れ場所とされていた江戸の城下町の宿
「鬼六」に向かっていた。
実は、平常が江戸城を訪れた時に
スパイとして城の警備をする助六という男に賄賂をした。
武蔵の権限で褒美を与えることで
その助六は、家康の非常時の隠れ場所をやすやすと教えてくれた。
その場所が「鬼六」だった。
ここに家康が隠れている。
武蔵は鬼六に着いた。
「たのもう」
武蔵が鬼六に入った。
「いらっしゃい!」
店主が声を掛けたが武蔵はそれを
一切無視して階段を登る。
そして襖を開けた。
そこには、、
まさに、、、
徳川幕府の開設者
徳川家康が座っていた。
家康は落ち着いた様子で
ジッと武蔵の顔を見つめた。
「おぬしの名は、、、?」
小さなそして重たい声で
家康は呟いた。
「宮本、、、武蔵なり、、、」
一瞬の沈黙が流れる、、、
「かっ、かっ、かっ、、、」
小さな声で家康は笑った。
「武蔵、、、、
やはりお主は、、、
ただ者ではないのぉ、、、」
あぐらをかいて座る
家康は口下に長く伸びた髭を触りながら
不敵な笑みを浮かべていた、、、
「我が宮本武蔵、、、
武士の力が
今の世は
どんどん衰退している、、
戦国の世を生き抜いてきた
武士の世界を
そなたは否定されておる、、
そんな世の中にしてはいけない、、
わしは日本をそんな弱々しい国に
してはならないと思う、、
徳川家康、、、
全ての原因は、、、
幕府の中心にいる
そなたにある、、、、」
はっきりと丁寧な口調で
武蔵は言った。
武蔵の手が剣を抜く、、
徳川家康と宮本武蔵が
睨み合う、、、
数秒の沈黙の後
家康がニヤッと笑った。
「あい、分かった、、
武蔵よ、お主の考えは
よく伝わったぞ、、、」
家康は言った。
「平常よ、、出て来い、、、」
家康が後ろの閉まった襖に向かって言った。
「へいっ、、!!」
なんと
家康の掛け声で
襖の向こうから出てきたのは平常だった。
「平常、、、、きさま、、、、」
武蔵はのこのこと歩いてきた
平常に殺気立った。
「きさま、、、わしを裏切ったのか!!!」
下を向いて話さない平常。
「まあ待て、、武蔵よ、、、
平常も乱世を渡り歩いてきた野武士じゃ、、、
強いものに巻かれたい気持ちも
汲んでやろうや、、、」
家康は武蔵を落ち着かせるように話した。
「この裏切りは一生忘れんぞ!平常、、、我には心が無い!
武士は心だけは強く持たんといけん!我は絶対にこの先後悔するえぞ!!!」
武蔵は持った刀の先を平常の視線に立てつけた。
「ここからが
本題じゃ、、、
日本最強の剣士、、
宮本武蔵よ、、、」
ゆっくりとした口調で
家康が語った。
「いま、お主がわしらを斬って
お主の言う我が幕府が動かしている世の中を変えていきたいという姿勢は分かった。
ただし、、どうかのぉ、、
ここでお主がわしと平常を斬った場合、お主は希代の反逆者どころか身内をも利用して斬ってしまう残虐的であり自己中心的な反逆者として、世論はお主を『悪の象徴』として追い込んでいくような
流れに、ならんかのぉ、、、?
ふぉっふぉっふぉ、、」
家康は不適な笑みを浮かべなら武蔵に言った。
《やられた、、、全て家康のシナリオ通りになってしまった、、、》
武蔵から出てくる言葉は無かった、
戦国最強の策士とも称された家康の術中にまんまとハマってしまったのだ、、、
「武蔵よ、、、わしはそんなに心の無い男ではない、、
お主の剣の力は誰よりも認めておる、、、
ぞんざいな扱いはせんぞ、、
わしはお主に名誉と地位を与え
我が徳川幕府の大きな駒として
お主に、これからの使命を与えてみせよう、、
我が幕府の仲間になってみんかのぉ、、、」
家康は武蔵の目をギロリと見て言った。
武蔵は巨大な大名、、家康の前に屈するしかなかった。
刀を納め、、家康の駒となることを認めた。
武蔵にとってはこの上ない最大の侮辱だった。
ただ、、武蔵は今はこうする他に方法は無い、、
そう悟った、、
共に世紀の作戦を考えた平常に裏切られ
目的の大名である徳川家康にまでも嘲笑われ
なんたることか
徳川家康の家来になってしまった、、、
なんとかせねば、、
と思いつつも、、
今はこれを受け入れるしか
武蔵の選択肢は無いのだろう、、、
徳川幕府において
武蔵の暗殺計画は瞬く間に広まった。
幕府内では武蔵の処遇について激しい議論が為された。
武蔵への極刑を求める声が多数派だった。
しかしながら、全ての決定権は家康にあり、その処遇の行き先は家康のみに委ねられた。
家康は当初の予定通り
武蔵を徳川幕府の守護兵の総指揮に任命した。
武蔵は不本意ながらも
家康の指示通りに
徳川家康の重要ポストである
守護兵の総指揮として舵を取った。
稀代の剣士でありながら
その役割は決戦ではなく
幕府を守ること、、、
自身の考えとは裏腹な役割に
武蔵の信念は揺らいだ。
しかしながら、1日1日は確実に過ぎていく。
そして、何の不自由もない生活が
そこにはあった。
そんな折に
武蔵は以前訪れた村の村長から
手紙が届いた。
それは武蔵への助けの依頼だった。
村を荒らすとんでない輩が現れ
村人をも斬り
食料もかっさらい
とんでもない行動を起こしている者がいるようだった。
すぐにでも武蔵に来てもらい
成敗してほしいという趣旨の手紙だった。
武蔵の心は震え立った。
しかしながら
武蔵は幕府の要人、、、
まさか小さな地方の村の為に
お助け隊として
敵を成敗してくるなどといった
野蛮行為が今の徳川幕府において
許されるはずもない、、、
家康に直訴して頭を下げても絶対に許しを得ることは出来ない、、
武蔵はそれは分かっていた。
武蔵にとって選択肢は一つしか無かった。
全てを捨てて
捨て身の覚悟で
村を助けに行こう。
武蔵は決意した。
武蔵は徳川幕府の任務を全て放棄して、依頼のあった以前の訪問したあの村へ向かった。
長い時間を要したが武蔵にとってはそんなことは関係なかった。
一度でも関わった村や関連した地域について、武蔵は自分は関係が無いというスタンスを取ることが出来なかった。
真実はどうであれ、自分には関係が無いといった行為だけは絶対に避けたかったのだ。
数日後に武蔵はあの村にたどり着いた。
村は変わり果てた姿をしていた。
無惨にも村は荒らされ
至る所に家の中のものなどが散乱していた。
村人達もまばらで、ほとんどの人間はそこには居なかった。
「おい、、、皆の者、、、どこへ行ったんじゃぁー!!!」
武蔵は大きな声で叫んだ。
怯えるような表情の女や子供もいたが
誰1人言葉を発さない。
異様な空気に包まれた村に
武蔵は愕然とした、、、
「どうなっちまったんだ、、この村は、、、
一体何が起きたんだ、、、、」
武蔵は辺りを見渡しても何も起こらないこの状況に
1人、、立ちすくむことしか出来なかった、、、
「遅かったな!!
宮本武蔵!!!」
1人佇んでいた武蔵の前に
大きな声がした。
武蔵の目の前には
スラっとした体型の
長髪の男が立っていた。
「お、、、お前は、、
誰じゃ!!!?」
武蔵が怒りに満ちた声で言い放った。
「ふんっ、、、おれのことを知らぬか、、、まあ、そうだろう、、、
お前如きの侍が
おれのことなんぞ知らんでも
何も困らんだろうて、、、」
うすら笑いを浮かべながらその男は武蔵を嘲笑った。
「きさま、、、、
誰に向かって言っておるのか
分かっておるのか、、、?
二度と喋れぬ口にしてやろうぞ、、、、」
武蔵は刀に手をやった。
「くっくっくっ、、、
世界が狭いわ、、、武蔵!
お主の見ている世界は
狭いことよのぉ、、、」
腕を組んだその男は武蔵を見下ろした。
自分のことを小馬鹿にされている武蔵の怒りは頂点に達していた。
「我の名は、、、
佐々木小次郎!!
武蔵よ、、、徳川幕府の犬の分際で
各所に偉そうに顔を出しては
弱いものに対して戦って勝ってを
繰り返しているようだな、、
貴様のような人間をいつまでも放し飼いにしておくわけにはいかん!
この日本一の剣豪である佐々木小次郎が
貴様をこの剣で成敗してみせようぞ!!」
高い崖の上から佐々木小次郎は宮本武蔵を見下ろした。
「ささき、、こじろう、、、?
聞いたこともないわ!!
貴様がどれほどのものかなど知る由も無いが
この宮本武蔵をそこまで侮辱した無礼は決して許しておけるものではないぞ!
覚悟はいいな!!?」
武蔵は覚悟を決めた。この若い武士を手加減なく成敗する。
武蔵の目が鋭く小次郎を睨みつけた。
武蔵は小次郎に向かって走った。
小次郎も武蔵の方へと向かう。
両者、剣を掲げ
互いに相手の身体に剣を振りかざす。
ガシャン、、ガシャン!!!
両者の壮絶な防ぎ合いが続く、、、
互いに剣の使い手であり
おそらくは国の中でも1、2を争うような達人だ。
簡単には傷を負わせない。
緊張感ある戦いが続いていく、、、
「武蔵よ、、、お主、、、思っていたよりやるではないか、、、」
小次郎は目の前の武蔵に言った。
「貴様のほうこそ、ただの素人では無さそうな剣使いだな、、、2秒で片付くと思ったがそうもいかんようじゃ、、」
息を呑む戦いが続く、、、
静かな攻防戦が続く中
小次郎が武蔵の一瞬の隙をつき
右肩に剣を振りかざした。
武蔵はその場に大きくよろけ
倒れた、、、
「ぐぁわーっ!!!!」
武蔵は肩を抑え、苦しみの表情を見せた。
「武蔵ーーー!!!見たか!!この佐々木小次郎の実力を!!!!
日本一の剣豪を語っていたお主も
この佐々木小次郎の剣を見れば
もうそんなうわ言は言えんだろー!!」
小次郎は大声で武蔵に怒鳴り散らした。
苦悶の表情を見せる武蔵、、
ゼェゼェという激しい息遣いをしながら武蔵は小次郎のほうをじっと見ていた。
静まる空気の中で
2人は相見れた。
横たわる武蔵。
腕を組み仁王立ちで武蔵を見下ろす小次郎。
両者の格好は対照的なものだった。
「くっくっくっ、、、武蔵よ、、、
おのれの剣術はこのレベルであったということだ!
所詮は田舎を訪れては自分の腕に酔いしれ、井の中の蛙状態だったということよ、、、
恐れ知ったか??」
堂々と語る小次郎に対して
何も言い返すことが出来なかった。
「さて、、、これがおのれの最後の刻だ、、、
覚悟をするがいい!!!」
小次郎は持っていた剣を振り上げ
武蔵に向けた、、、
万事休す、、、、、
その時だった、、、、、
「待てぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!!」
静寂な林の中に大きな声が舞い上がった、、、
小次郎は声の方向へと顔を向けた、、、
武蔵もその声のほうに顔を向けたとき
衝撃が走った。
声の主は、、、
なんと
武蔵を裏切った
平常であった、、、、
「武蔵様ぁぁぁぁぁー!!!
あっしが、、
この平常が
武蔵様をお守りしてみせまするぞぉーーー!!!」
平常は大きな声でそう言い放つと
後ろに控えていた大勢の武士達が一斉に小次郎の前に襲い掛かり
あっという間に小次郎を取り囲んだ。
「平常、、、なぜ、、、?
お主はわしを大きく裏切ったはずでは、、、、」
武蔵は一瞬の出来事に呆気に取られていた、、
しかも家康奇襲作戦の際に
江戸で裏切られた平常が
助けに来てくれたことに
驚きを隠せなかった、、、
「武蔵様!!細かい説明は後にしますぜ!!今はこの悪の化身、、佐々木小次郎を我が部隊が成敗しまする!!」
総勢30人は超えていた、、
いくら剣の達人、佐々木小次郎を以てしても、徳川幕府の精鋭部隊であるこの平常軍に囲まれてはなす術もなかった、、、
「佐々木小次郎、、、さらばじゃ、、、」
平常は部隊に号令を下した、、、
小次郎も流石は武蔵をあと一歩のところまで追い詰めただけの剣士、、、
精鋭部隊の平常軍の攻撃に苦戦を強いられながらも、鬼のような気迫で善戦し、なんと平常軍の半数近くを1人でなぎ倒した、、、
しかしながらそこで万事休す、、、
最後は平常軍の上級レベルの騎士、、天伯にとどめをさされ、小次郎はそこでついに力尽きた、、、
「はっはっはっ、、、徳川幕府、特別作戦部隊、平常軍、、、指揮頭、、この天伯が
悪の化身、、佐々木小次郎を討ち取ったりー!!!!!」
天伯の大きな声が村中に響き渡った、、、
戦い抜いた精鋭達の
おー!!!!!
という号令が山の上まで届くような大きなこだまだった、、、
倒れてまだ立てない武蔵も
この平常軍の迫力に圧倒された、、、
「へい、、、じょう、、、」
武蔵はこの言葉の先は
出てこなかった、、、
ただ、武蔵の目には涙が
溢れていたという、、、
佐々木小次郎と宮本武蔵は
双方に大きな傷を負い
命の危険もあったが
村医者の研さんのところに
すぐに運び込まれたこともあり
2人は何とか生き延びることが出来た。
小次郎は平常の命で徳川幕府の捕虜となることが決まった。
そして徳川幕府に無断で隊を離脱し、小次郎との戦いに向かった武蔵は帰る場所が無いと感じていた。
武蔵と小次郎は
野洲米の家にいた。
「武蔵様、、どうかゆっくり休んでくだんなせえ、、、うちのことは気にせんでええですから、、
それよりも、、この憎き小次郎については、、あっしは助ける気も起きねえでげすが、、」
野洲米は布団に横たわる武蔵に言った。
「野洲米殿、、迷惑をかけてしまいかたじけない、、この恩は忘れんぞ、、」
武蔵は静かに言った、、、
「武蔵よ、、、、」
隣から小さな声が聞こえた。
小次郎の声だった。
「小次郎、、、生きておったか、、」
武蔵はポツリと言った。
「今回は、邪魔が入った、、
本来ならば、、、
わしの勝利であった、、、
もう一度、、、
もう一度、、いつか
戦おうぞ、、、
必ずそのときは、、、
おぬしを叩きのめす、、
いいか、、、?」
苦しそうな声で小次郎は振り絞って武蔵に言った。
「おう、、、また医者送りにしてみせるわい、、、わしは決して負けんぞ、、
覚悟しとけい、、、」
夕暮れにカラスとセミの鳴き声が交差する。
西陽の強い庭では、野洲米のせがれ、締五郎が木刀を持って、1人、えいやーと剣術の稽古に励んでいる。
明るく少しだけ切ない
夏の夕暮れ。
〜完〜




