第七話 過去―別れとはじまり②
戦えば戦うほど、意識が研ぎ澄まされていく。気が付けば普段よりも広く周りを見えている気がした。
普段は聞こえない音が聞こえる。
普段は見えない場所まで見える。
これなら、やれる。
仲間たちの戦う気配を背中で感じ取りながら、自分も魔獣の中へと足を踏み込む。
途端に自分へかかる圧が増えた。見える範囲にいる魔獣の姿は様々な形をしている。元は自然の中に生きていた獣が変異したものだ。しかし、高濃度の魔力を受け続け体内に魔石がうまれると外見がかわっていく。それぞれ自分が望む姿に変異していくと言われている。
故に、おおよそ大きな分類はあるが、はじめて見る形をした魔獣もいる。
しかし、魔獣も繁殖の仕方は通常の獣と変わらない。親となる存在が持っていた能力を引き継ぎ、自分で得た能力を加えて子へとつないでいく。それが続けば手に追いえない魔獣が生まれてしまう。だからこそ、魔獣は殺さなければならない。
最も、今ここにいる魔獣たちはダンジョンから溢れた存在だ。本来であればもっと濃い魔力の中にいるはずの存在。それらが急に現れた原因はわからない。まず考えられるのは、この場の魔力濃度が急激にあがったことだ。
現状、このあたりの魔力濃度がどれほどあがっているのか。
慣れない魔力濃度に当たればそれだけで毒になる。
ダンジョンへ潜る際も散々注意されることだった。少なくない時間をここで過ごしているが体に変化はない。少なくとも、この場で動けなくなるほどの濃い魔力ではなさそうだ。
保持魔力が多いものならともかく、ルプスのように魔力適性が少なければ急激な変化は命取りになる。もしこの場が通常よりも濃い魔力が漂っていれば既に何かしらの影響が出ている。少なくとも、その可能性が消えたことは安心材料だった。
しかし、それならば余計に何故急にこれだけの魔獣が溢れたのか。
ダンジョン内であれば可能性が全くないわけではない。前例がないことが起きても『ダンジョンならあり得るのではないか』と考えてしまう。それほどに、わかっていることの方が少ないのだ。
考えながらも武器を振るう手を止めることはしない。今も周りにいる魔獣は増えるばかりで一向に減る気配がなかった。相手の体液や汗に濡れて髪が張り付く。その感覚が煩わしくて、一度魔獣の群れから距離を取り、前髪をかきあげた。
そのまま辺りへと視線を巡らせれば、仲間たちも同じように魔獣に囲まれているようだ。
ひとまずは無事であることに一息つく。
元よりこの状況で助力は望めないし、反対に自分も助けに入ることもできない。何か良い手段はないだろうか。魔法鞄の中にためていた便利道具も残り少ない。
「準備がっ! 足りなすぎるんだよ!」
誰にも向けることが出来ない不満を叫び、汗で滑り落としそうになる武器を再度しっかりと掴む。長時間戦うことはこれまでにもあったけれど、ここまで休憩なく戦い続けることは滅多にない。
(これが終わったら鍛えなおさないとなぁ)
体力はあると自負していた。これまでも長距離の道を移動し続けていても、足場の悪い道を歩いていても問題なく動くことが出来ていた。けれど、それは全て仲間が共にいたからだと改めて思い知る。
離れた場所に仲間の姿は見えるが、声が届くほどの距離でもなく、また、何が起きても助けることもできない。
それがこれほどまでに心細くなるとは思ってもみなかった。
エクレピアのように大規模な攻撃が出来れば、少しは息が付けたのかもしれない。もしくは、武器を使用して発動する剣技と呼ばれる攻撃スキルの一つでも覚えていれば別だったろう。しかし、そのどちらも持ち得ていない。
身一つで戦い続けるしかないのだ。
魔法鞄から取り出した丸い形をした道具を魔獣の足元へとたたきつける。同時に煙が充満し、魔獣の姿が見えづらくなった。衝撃を与えることで煙幕を発生させる道具だ。
そこに少しだけ混乱を引き起こす薬草を混ぜ込んでいる。うっかりと自分で吸い込まないようにする必要があるが、多対一の場合は重宝する道具だった。
狙いの通りルプスの姿を見失った魔獣が何もないところに足を振り下ろした隙に攻撃を叩き込んだ。攻撃することによって自分の居場所を知られるが、それよりも先にルプスの攻撃が致命傷を与える。
重い音を立てながら地面へと倒れ伏した魔獣を確認する間もなく、近くにいた他の魔獣へと起爆機能の付いた投げナイフを当てた。狙い通り魔獣の体へと刺さったナイフは、その衝撃で小さく爆破する。致命傷には程遠いが、充分痛手を与えることはできただろうか。
結果を見る前、煙幕が残り続けている間に姿を隠す。
煙幕はともかく、起爆付きのナイフは通常の依頼では使うことは滅多にない道具だ。魔獣には致命傷にならなくとも、ヒトに使えば重傷間違いなしの威力がある。だからこそ、作った後は、日の目を見ることなく鞄の中に温存されていた。
そうした滅多に使えない道具も大盤振る舞いしている。
こうした時でもなければ使う機会がない道具は他にもあるのだ。何故そんなものを作っているのかと言えば、ただの趣味だと言える。
最初は自分の力不足を補う方法がないかと調べていたことからだった。同じように斥候を担当する冒険者仲間と話をしたり、筋力の少ない冒険者に話を聞いてみたりした結果、何か補助をできるものがあればいいのでは、という案が出たのだ。
獣に使う罠の作り方を調べ、どうにか魔獣に利用できないかを考えるのも楽しかった。
幸い、ルプスは器用だった。また、発想力も高かったのだ。
そうして作られた便利道具は冒険者ギルドを通して売られることになり、潜在的な需要が高かったのか大いに売れた。
当然のことながら、利益はルプスの懐にも入ってくる。ちょっとした小遣い稼ぎだな、と思っていたのはルプスだけ。一つ一つの値段は安くなっているけれども冒険者になりたての子どもや、街から街へと移動する商人などが買っていくために馬鹿にできない売り上げがあったのだ。
そしてその売り上げを使って新しい道具を考える。
もしルプスに潤沢な魔力があり、知識さえあれば魔道具にも手を出していただろう。
残念ながら、彼にはそのどちらもなかった。なくてよかったともいえる。
魔道具作成に関しては国が絡むことが多い。仮に有益なものを作りだせたとしてもその評価は貴族に持っていかれてしまうのだ。
だから、ルプスが作る便利道具は全て魔力の必要としない道具ばかりとなる。だからこそ、誰にでも使える道具となっていた。
そのうちの一つ、罠を仕掛ける機会をうかがっていた。
決定的な攻撃にはならない。しかし、先ほどの小規模な爆破が起きるナイフと同じく相手の動きを阻害する効果がある。
毒の仕込まれた罠だ。
その罠が発動すれば継続的に痛手を負わせることが出来る。これも魔獣相手には微々たるものにしかならない。けれど、その微々たるものが最終的に自分の命を救うことがあるということを経験から知っていた。
魔獣の圧か他よりも弱い場所に再度煙幕を張る。二度目は魔獣も慣れるのか混乱は先ほどより薄い。けれど、今回の狙いはあくまで自分の動きの補助となる。煙幕を吸い込まないように口元はしっかりと布で覆い、素早く魔獣の中へと紛れ込む。
この罠の良いところは、設置するために多くの手順を必要としない部分だ。
罠を置く前に起動釦を押せば、少しの時間を置いてから発動する。罠を置いた後、巻き込まれないように距離をとる必要があるが、よほどのことがない限り巻き込まれることはない。
しっかりと魔獣の中に置かれた罠はその効果を発揮した。毒によって体に痛みをはじめとした不都合があれば動きにも表れる。先ほどまでよりも動きの鈍った魔獣を切り捨てながら、次の手を考える。ただでさえ少なかった道具も残り数えるほどになってきている。
そろそろ事態が好転するだけの何かがあってもいいんじゃないか、なんて普段は信じていない神に祈りを捧げたくもなってしまう。
不意に、大きな魔獣の近づいてくる音が耳を打つ。とっさに周りにいた魔獣を切り捨て、大岩の陰に身を滑り込ませた。
息をひそめて、待つ。自分があたりと一体化するように。不意に、感覚が更に変わったことに気が付いた。自分の呼吸と風の音が混ざり合う。地面についた足先の感覚が薄く、輪郭さえ溶けていくような感覚。
これは、と疑問を持つ前に全身に圧し掛かるような圧倒的な威圧を感じた。
ひりひりと肌が泡立つ。思わず上げそうになった声は、どうにか喉奥に押し込めて、歯を噛みしめる。気配の元を探り、視線だけをそちらへと向ける。
そこには明らかに他とは違う気配を持つ魔獣の姿があった。溢れ出してきた魔獣の中でも上位種にあたる存在だろうか。
竜のような鱗を持ち、二本脚で立つ。太い腕にはその腕が振るうに相応しい重量のある武器が握られていた。背丈はルプスが二人半ほど縦に並べたくらいだろうか。見上げるほどの大きさと、体格も厚みが充分にある。その見た目の通り、おそらく攻撃は筋力による打撃だろう。
竜のような鱗は傷をつけることが難しそうだ。
ぎらぎらと光る眼は獲物を探しているようにも見える。
もしこれが街まで到達してしまえばどうなるか。想像は容易だった。また、その魔獣の近くには近似種もしくは下位種と思われる魔獣の存在もあった。
冒険者の中で取り巻きと呼ばれることの多い配下だろうか。こちらも同じく全身を鱗で覆われ、二本足で立っている。大きさはルプスの背丈と変わらないくらいの大きさがほとんどのようだ。
もしこの魔獣が上位種であるなら倒せば今回の溢れが収まる可能性がある。
情報が少ない現状では、それに賭けるしかなかった。
細く、深く息を吐きだす。その動作は自分の覚悟を決めるために常に行っていることだった。
「……よし」
ぐっと足に力を入れて大岩の影から走り出した。その瞬間、ルプスの気配に気が付いた魔獣が殺到する。
仲間の近くにはこの推定上位種は出ていないようだ。そのことに少しだけ安心する。決して楽観視はできない。しかし、もしかしたら、という希望的推測が浮かんでいた。
それは、この魔獣こそが現在のダンジョンの主だということ。
その推測を肯定するように、他の魔獣が上位種と思われる魔獣から距離をとっている。魔獣にも恐怖や畏怖という感情があるのならば、そういった感情を抱いているのではないかと思わせる行動。
やはり上位種なのだろう。
試しに、と背後から切りつけた時に手に伝わった感覚に眉が寄る。
まるで鎧の上から切りつけたような感覚。
反撃を食らう前に地面を蹴って距離をとる。ごろり、と地面を転がり、すぐに体制を整える。その直後に湧き上がる砂埃と伝わってくる振動。
「あっぶなぁ……」
抉れた地面を見て冷や汗が出る。直撃を食らってしまえばひとたまりもない。
自分自身の残りの体力を考えると上位種のみを狙いたいが、周りにいる取り巻きが邪魔をしていてそう簡単に近づけない。
それならそれで仕方がない。やれることをやるしかない。例えどれだけ敵が強くても、やることは大きく変わらないのだ。
周りにいる取り巻きの数を減らしていくことをまずは最優先とする。外皮と思われる鱗に覆われた部分は非常に頑丈でルプスの武器ではかすり傷をつけるのがやっとだ。しかし、魔獣とはいえ生物であるならどこかしら弱点があるはずなのだ。まずはそれを探すために手数が必要だった。
魔法鞄の中に残っている投げナイフの残りは三十ほど。普段ならば十分な数だが、今回は回収する余裕がないことを考えると全く足りない。
他の武器となるものは罠が数種類。毒を使った罠もあと一つ残っていた。そしてルプスが作ったものではないが、罠を踏むと足を絡み取る蔦が出るようなものもある。使う機会など考えずに興味本位で買ってそのままになっていたものだが、この場で使ってしまっていいだろう。
まずは少しでも動きを鈍らせるために蔦罠をしかける。どれほど効果があるのかわからないが一秒でも相手の動きが止まればいい。
その効果を見る前に、眼前まで迫った敵の攻撃をぎりぎりかわし、足に力を入れて飛び上がり武器を振るう。倒しきることはできなかったけれど、首から流れる血を見る限り痛打にはなっただろう。
重たい音を立てて崩れ落ちる取り巻きの体に巻き込まれないように離れながら罠の様子を見る。そちらにも数体、蔦に絡まれ囚われている姿が確認できた。
首をめがけて投げたナイフは狙い通り刺さり、爆破する。
よし、と小さく拳を握り次の獲物へと狙いを定め同じようにナイフを投げた。
次々と投げられるナイフを蔦罠によって身動きが取れない魔獣は避けることもできず、成す術がないままに死んでいく。
取り巻き相手ならこの調子で倒せそうだ。
走りながら刃についた血を振るうことで落とし、近くにいた敵の胴体に蹴りを入れる。足に伝わる痺れと共に振るわれた敵の攻撃をしゃがむことで躱した。
胴体の強度は高い。
上位種と同じように鱗に覆われている部分は鎧を着たヒトと最低限同じだけの防御があると見ていい。
つまり狙うとすれば首よりも上。
体力は限界を訴えようとしている。けれど、ここを耐えきってしまえば問題ない。
今回の溢れを乗り切ったら好きなだけ休んでやる、と胸の内で吐き出し、足に力を入れて体を空へと跳ね上げた。
元より身軽さを売りにしている。こうして魔獣たちの上を取り攻撃することは初めてではない。体制を入れ替えて首を狙い、そのまま地面へと落ちていく。自分の体重もかかる分、攻撃にも威力が増す。
腕力が足りないのなら、足すだけだ。
そうして編み出したのが自分の体重を乗せた攻撃だった。
魔獣の中で飛び回りながら武器を振るい、そして数を減らしていく。
気が付けばだいぶ取り巻きの数は減っていた。途中で何度が上位種からの攻撃もきていたが、どうにか捌ききれただろう。
しかし、自分自身も同じだけ怪我を負っていた。
全ての攻撃を避けられたわけではないのだ。回復薬も薬草も途中で使い切ってしまった。
肩で息をしながら、上位種を睨みつける。
周りに多くいた取り巻きが減っていることに気が付いているのか、纏う気配は現れた時よりも荒々しくなっている。その首周りには反撃に合わせて返した攻撃で傷が増えているが、どれもこれも致命傷には程遠い。
大きく振りかぶられた武器に、とっさに距離を取ろうとした。幸い直撃は免れたものの、飛んできた破片が足を切り裂いていく。
この傷では咄嗟に攻撃を避けることができない上に跳ね上がってから攻撃することも難しくなってしまった。魔獣の動きを阻害する罠ももうない以上、他の手を考えなければならない。
数を減らしたと言っても、未だに魔獣の数は多いのだ。
ぎりぎりで攻撃をさけながら、どうにか隙がないか探る。同じ種であろう魔獣も、動きに統率が取れているわけではない。そこに付け入る隙を見つけられないか。
しかし、傷が自分で思ったよりも深かったのか。通常通りの動きをしていまい、傷を負った足では踏ん張りがきかずに地面に倒れこんでしまった。そこに振り下ろされた武器から避ける為に転がる。どうにか攻撃は回避できたが更に傷が広がったようだった。
もう、ここまでだろうか。
いや、諦めてはいけない。まだ仲間たちも戦っているのだ。
遠くから咆哮が聞こえる。
あれはカリュスの従魔の声。狼のような姿をした従魔は常にカリュスと共にある。故に、従魔が無事ならその主人も当然無事だ。他の二人も簡単にやられることはない。
震える足に力をいれて、再び立ち上がる。
傷を負った部分に布を巻き、薬を飲む。普段は自分には使わない感覚を麻痺させる効能がある薬だ。怪我を治せるわけでもない。実際に痛みが去っているわけでもない。
ただ感覚を誤魔化すためだけの薬。
普段なら侵入する際に見張りに使い見つからないようにする為や、捕らえた相手から情報を引き出す為に使うものだ。決して自分自身では使うことがない薬だった。
そこまでしても、倒しきることが出来ない。自分にも、魔獣にも傷が増えていく。けれど、決め手が足りない。
「……くっそ、力が足りない」
ぽつり、と零れ落ちた声は誰にも拾われることなく闇へと消えていった。
嘆いている暇はない。悔しがっている時間があれば一手でも多くの攻撃を加える。全く攻撃が通っていないわけではないのだ。
と、そこで視界の端に気になるものを見つけた。先ほど気にかかったのと同じ感覚。
今度こそ掴んだ感覚を逃がさないように意識を集中させ、傷のせいで思うように動かない足を無理やり動かして気配を追う。追ってくる魔獣の攻撃を避けながら見つけたのは丸い手のひらほどの大きさの人工物だった。
草に埋もれたそれは、他の冒険者の落とし物だとしてもあまりに違和感があった。そして、ルプスのスキルが引っかかったということは、この状況に何らかの関係があること。
どうにかそれを拾い上げ、魔法鞄へと投げ入れる。
しかし、意識がそちらに向いていた所為で、周りに対する警戒心がおろそかになっていた。
「ルプス!」
悲鳴のような自分の名を呼ぶ声。反射的に振り返れば自分に向けて振り下ろされる大きく重たい武器。
あぁ、これは間に合わない。
諦めと共に脳裏をよぎるのは、抉れた地面。避けようにも既に体力が限界まで達しているせいで思うように動くことが出来ない。衝撃を少しでも往なすことが出来れば、と腕を上げ武器を構えるが、これも気休めにしかならないだろう。
しかし、浮かんだ予想とは反対に、いつまでたっても腕に衝撃が来ることはなかった。
ルプスを打ち付けようとしていた太い腕は大きな剣に切り捨てられ、見慣れた魔獣が残っていた取り巻きの魔獣との間に割り込む。あたたかな魔力が体を包み、そこでようやく状況を把握して大きく息を吐きだした。
仲間たちが間に合ったのだ。エクレピアの治癒によって傷が消えていく。合わせて防御を上げる補助魔法も飛んできた。その場で跳ねてみても痛みは無い。
相変わらず、魔法が巧みだ。下手な治癒だと回復の間にも痛みが走るらしいが、彼と組んでから一度もそうした痛みを感じたことがなかった。
「痛みは無いか?」
「ん、ありがとう」
ぐ、と手を握る。力はちゃんと入る。きちんと武器も握ることができる。
ただ、痛みは無くなったが、足に微かに違和感があった。足首を回して様子を見てみる。ほんの少しだけ、動きが鈍く感じる。
心配そうにしているエクレピアに首を振り、ごまかすように笑った。
動けないほどの違和感ではない。恐らく麻痺薬を飲んだ影響だろう。効果時間は短く、そろそろ効果が切れる頃だった。
深く息を吸い、そして、吐き出した。
まだ魔獣は残っているのだ。ここで気を抜くわけにはいかない。
たとえ、力不足だったとしても。足手まといだったとしても。
それでも、今、この場には自分たちしかいないのだ。
叱咤するように頬をたたき、腕を切り落とされても尚生きている上位種を睨みつけた。