第二十話 召喚者が街へとやってきた
街の入口に、人垣ができていた。
通り過ぎる者たちは何事かと注目し、その中心から聞こえてくる怒声と、漏れ聞こえる内容から、いつものことか、と興味を失い去っていく。
そのうちの何人かが、冒険者ギルドへと知らせに行ったのだろう。
程なくして、ギルドの腕章をつけた職員が走ってきた。それは、職員としても、冒険者としても顔の知られているルプスだった。
――荒事かもしれない。
そんな通報だったからこそ、ルプスが選ばれたのだ。
「ごめん、通してください!」
ザッと音を立てて人垣が割れる。
見物している冒険者の中から歓声が聞こえてきた。
走ってきたとはいえ、息があがることもなく、声がかすれることもない。
かつて冒険者として名を売っていたルプスを追って、この辺境へと来た冒険者もいる。本人としてはそんなこと関係なく、無様な姿を見せたくない一心で今も鍛え続けていた。
「あー……」
けれど、そんなルプスでも思わず頭を抱えてしまったのは、目の前の光景に理由があった。
苛立つ四人の冒険者に囲まれ小さく身を縮こませている青年が一人。
身形からして周りを囲む四人の冒険者は中級から上級に手をかけるかどうか。それに対して、中心にいる青年は明らかに駆け出しの冒険者といった雰囲気だ。
バランスの悪いパーティーが帰る問題は、おおよそ想像がつく。ガシガシと頭をかき、表情を引き締める。
パンッと鋭い音が争っていた冒険者たちの耳を打った。
同時に振り返った冒険者たちの目に映ったのは職員の腕章。
「これ以上は冒険者ギルドが預かります。ほら、散った散った。こんなとこでガタイの良い男たちが集まっていたら街の人たちの迷惑になるでしょうが」
「お、わりぃ。ほら、お前ら行くぞ」
ルプスの声に真っ先に反応したのは、ルプスが職員として来るよりも前から堅実に依頼を受けランクを上げていた冒険者だ。その声に釣られて野次馬をしていた冒険者が散っていく。武器を担いで街の外に出ていくものもあれば、街中に戻っていくものもいる。
一体いつからここにいたのか。
少々あきれながら、ルプスは中心にいた冒険者たちへと近づいていく。
「この街の冒険者ギルドの職員をしている、ルプスです。ちょっと話を聞かせてもらいたい」
疑問を投げかけているが、実質は強制だ。
こんな誰もが通る場所で揉めていた相手に容赦をする必要はない。問題行動を起こした冒険者はギルドの采配で強制連行が可能だ。今、ルプスが声をかけたのは被害者となる青年に対してだった。
青年が頷くのを確認し、ルプスは冒険者ギルドに向かって足を進めた。
その声音と足音に、ルプスの苛立ちを感じ取ったのか。
最初は文句を言いたそうにしていた冒険者も動き始める。しかし、渋々といった様子を隠していない。さらに、本人たちは小声のつもりなのだろうが文句を言い合っているのをルプスの耳は拾っていた。
四人の冒険者の後ろを、彼らに囲まれていた冒険者が歩く。
恐らく、ここに来るまでも同じように歩いていたのだろう。
少しうつむいた顔から感情をうかがうことはできない。
――面倒なことになった。
それが偽らないルプスの気持ちだった。
ルプスのスキルが、彼には何かあると囁いているのだ。それに、スキルが反応しなかったとしても、ルプスは青年の姿にある予感を抱いていた。まさか、こんな問題を抱えているとは想像もしていなかったが、それを解決するのも職員であるルプスの仕事だった。
さして歩く間もなく冒険者ギルドへと到着する。
ギルド内には、さっき野次馬をしていた冒険者の姿も見えた。
あの場で野次馬をすることを咎められたが、冒険者ギルドで待つことは問題ない。そうすれば続きを知れるだろう。そう判断して待っていた冒険者の数は、普段より埋まっている席の数を見れば一目瞭然だった。
多くの情報が行きかう辺境だからこその性質なのか、それとも、冒険者とは得てしてそういうものなのか。好奇心が強く、騒ぎの気配には敏感なものが多かった。
自身の過去を思い返せば、後者である可能性は高い。ルプス自身、何か騒ぎが起きれば寄ってえっては巻き込まれていたのだから。
歩く間に多少は頭が冷えたのか、少し居心地が悪そうにする冒険者たちを適当な椅子に座らせて、ルプスは話を聞くことにした。
「君らがあんな場所で揉めていた理由を聞かせて。まぁ、途中から少し聞いていたからある程度は把握しているけど。改めてね」
うろり、と視線を動かし、仲間たちで頷きあう姿を視線の片隅に入れながら、これまでと同じように輪の中に入らず一人机を見つめたまま動かない青年を見ていた。
「……俺らは、王都からこっちに稼ぎ場所を動かそうとしたんだ。長く王都に居たから荷物も多くて。だから、荷物持ちとしてそいつを雇った。それなりの金を出してな」
「それはギルドを通して?」
「あぁ。で、こっちに向かったんだが、道中でもそいつは一切戦おうとしない! 荷物持ちだから、と言って! そんなの可笑しいだろ。高い金を出してるんだから、少しくらいは戦えよって。だから、その分を報酬から引こうとしただけだ」
自分は何も悪くない、と言いたげな剣士と、それに同意するように頷く他の三人に気のせいではなく頭が痛くなってきた。この冒険者たちは初心者のころに何を学んでいたのだろうか。
そもそもギルドを通して荷物持ちを雇ったのなら、その説明もされているはずだった。
「それは、君らが間違えている。荷物持ちとして雇ったなら、彼が戦わないのは当たり前。彼の仕事は『荷物を守り、運ぶこと』その一点のみ。荷物が破損する可能性があるから荷物持ちは戦わない、いや、戦ってはいけないんだ。反対に荷物持ちを雇ったパーティーは荷物持ちに被害が行かないように守るように戦う。……常識だと思ってたんだけどなぁ」
は、と目を丸くしている冒険者たちに集まるのは、話が聞こえていた場所にいた冒険者たちからの蔑みを含む視線だ。
特に辺境にはダンジョンがある。ダンジョンでの戦利品を持ち帰ろうと思えば荷物持ちの存在は必須だ。その場に放置されている魔獣の死体はダンジョン自身が吸収していってしまう。
そうでなくとも、遠出をしたときや、長丁場となる戦闘を行う場合はテントを含む野営道具の荷物も増えパーティーメンバーの鞄だけでは足りなくなることが多々ある。
または、少々強い魔獣と戦うため、常より多く持つ回復薬や予備の武器等、戦闘時に動きを阻害する、しかし、必要なものを自分たちの代わりに持ってもらう為に荷物持ちを雇うのだ。
当然、大事なものを代わりに持ってもらうからこそ、報酬を値切るなんてありえない。そもそも、報酬を払いたくないのなら、どれほど荷物が多かろうが自分で持てばいいだけだ。
荷物持ちを雇わずに済む方法はあるのだから。
「そんなに荷物持ちに報酬を支払いたくないなら、自分で魔法鞄を用意するしかないね」
「はぁ? その金がないから安い荷物持ちを雇うんだろうが。ここに来るまでって依頼だと安いやつがいなかったから大金積んだのに。大体、なんでギルド職員が首を突っ込むんだよ。関係ないだろうが」
ダンッ、と力強く机を叩く盾役と思わしき男を、じっと見つめる。
確かに、ただ戦うだけなら充分な力を持っている。しかし、ある程度、から伸びなくなったのだろう。それを打破する為に辺境へと来た。だが、この様子ではこれから先も伸びることはない。
力だけでは駄目なのだ。それを、この冒険者たちは理解していない。
「君たちにはまだ辺境に来るには早かったんだろうね。元からここに生まれた冒険者ならば知っている。王都でランクを上げてからやってきた冒険者も理解している。荷物持ちは決して便利な奴隷ではないんだ。それを理解できないなら、君たちはここで活動させるわけにはいかない」
そうだそうだ、と囃し立てるのは周りにいる冒険者たちだ。
彼らの中には荷物持ちをしていた経験があるものが多くいる。
反対に、荷物持ちを雇い、同じ荷物持ちと依頼を受け続けている者もいる。
荷物持ち、という名称がよくないのだろうか。
荷物持ちと冒険者の間に大きな差があるわけではない。
荷物持ちとして経験を積みながら魔獣との戦いを学び、冒険者に転向して活躍をしたものもいる。
多くを学び、荷物を持つだけではなく知識という付加価値をつけた結果、予約が常に埋まっている人気の荷物持ちもいる。
中には、確かに冒険者に引けを取らない程戦えるものも数は少ないが存在した。
だが、彼らが一番に重視するのは『荷物を守り運ぶこと』。
その為に最低限、自身の身と荷物を守る術を身に着けているが、その力を振るうのは余程の時のみ。戦闘が始まったらその場所から離れ、終わるまで自身の身を第一に考えて安全地帯にいる。
それが鉄則だ。
冒険者ギルドでは荷物持ちの為に簡易結界を張れる魔道具を販売している。
安いものではないが、数日酒を我慢すれば買える程度の金額。
これはどの街の冒険者ギルドでも扱いがあり、荷物持ちの中では常備品と言われているものだ。多くの荷物持ちは自分で購入し、用意しているが依頼した冒険者側で用意していることもある。そうした冒険者は荷物持ちの中でも評判が良い。
「まずは彼に荷物持ちとして当初の契約通り報酬を払うこと。それから、君たちの処遇に関しては後から知らせが行くからそれを待つように。逃げようとしても無駄。冒険者証で追うことが出来るからね。というか、万が一逃げた場合、どの冒険者ギルドでもまともな扱いをされないから」
少なくとも、荷物持ちを雇うことは二度と出来なくなる。
一度も話に入ってこなかった残りの二人を見ても、不貞腐れた表情を浮かべ、反省しているように見えない。
全く、今の王都ではそういった説明をしていないのだろうか。
それとも彼らがちゃんと学ばなかったのか。
どちらにしても、彼らがこの街でこれからもやっていくのは難しくなった。
いつもと変わらず酒場のあちらこちらで交わされる会話が聞こえてくる。だが、意識はこちらに向いている。自分たちの会話をここにいる殆どの冒険者が聞いていた。
この場にいなかったものの中にも、彼らから話は広がっていく。
彼らが反省し、態度を改めるなら周りの態度も変わっていくが、今の態度のままであれば、他の冒険者からも距離を置かれ孤立することになる。ギルドとしてはなるべく冒険者の手助けを行うが、当人たちに変わる気持ちが無ければ介入することを止める。
冒険者として活動する上での大前提は、自己責任、だ。
他者と距離を置き、孤立することを選んだ冒険者に、ギルドが出来ることは何もない。
「さて、次は君の話を聞かせてもらいたい。……とはいえ、ここで聞くのは酷か。ちょっと場所を移そう」
周囲の冒険者たちの視線がうるさい。
じろり、と周りを見渡してみると慌てて視線を外す者や、下手糞な笑みを浮かべる者もいた。
改めて、こちらに意識を向けているものの多さに、やはりこのままここで話を聞くのは難しいと判断を下す。
「奥の打ち合わせ部屋を使っていいぞ」
「ありがとうございます、使わせてもらいます」
そこには、いつの間に来ていたのか、ギルドマスターの姿があった。
普段は依頼主との打ち合わせや、大規模な討伐の時などの話し合いに使われる部屋が冒険者ギルドの奥に幾つか用意してある。
ありがたくそのうちの一部屋を借りることにした。
部屋の印象は無機質。机と椅子が置かれているだけの部屋だ。
そこに体を小さくしている荷物持ちをしていた青年と向い合せになるように座った。
「んー、まずは名前を確認させてね。あ、と。念のため、俺はルプス。ここの職員をしている」
「えっと、ユヅルです。王都のギルドではユヅって呼ばれてました」
「ん、じゃあ俺もそう呼ばせてもらうな。で、彼らとは王都ギルドから?」
「はい、俺、辺境に来てみたくて。そしたらちょうど荷物持ちの募集があったからそれで」
指がせわしなく動いている。当時のことを思い出しているのだろう。未だに一度も合わない視線は彼の不安定さからだろうか。
「あっちのギルドマスターは、俺のことすごい心配してくれたんです。荷物持ちじゃなくて、職員と同行することも提案してくれました。でも、俺、そこまでよくしてもらっても何も返せないから……」
ふむ、とルプスは一つ頷いた。
今の王都ギルドマスターはルプスがいた時から変わらない。
この青年の事情を知っていたのなら、その提案にも納得がいく。けれど、青年――ユヅルは自分の事情をギルドマスターが知っているかわからなかったから断った。
恐らく、そういうことなのだろう。
それならば、まずはその認識を埋めなければならない。
「あのさ、回りくどいの苦手だから単刀直入に聞いちゃうね。君、召喚者でしょ」
「召喚者……?」
「あれ、違う? 異なる世界から来た人、異世界からの来訪者、後はなんだったかな……、まぁ呼び名はいくつかあるんだけど、ここではない世界から来た人のことを一般的に召喚者って呼ばれている」
ガタリ、と椅子が揺れる。
明らかに動揺していると判る様子に、肩を叩くことで落ち着かせた。色を失くした顔には恐怖と不安が色濃く浮かんでいた。
肩に触れていると、その体か微かに震えているのも伝わってくる。
「ここに来るまでに何かあったのかな。一応、裏付けもある。信じられないかもしれないけど、君を守るように依頼を受けている。これが依頼書ね」
外見や名前についても詳しく書かれている依頼書を手にし、内容を読んでいる様子から文字は問題なく読めることに気が付いた。過去に文字を読めなかった召喚者がいた記録もあったことから、少しだけ安心する。
しばらく依頼書を手に固まっていた様子だったが、急に頭を打ち付けるように机へと落とした。
「……ルプスさんの言う通りです。俺はここじゃない世界からやってきました。あ、さっきはごめんなさい。召喚者だってことは隠せって言われたのに言い当てられてびっくりしちゃって」
深く息を吐きだし、顔を上げたユヅルの顔色は先ほどより色が戻ってきている。
「……地球、日本、そういう単語をご存じですか?」
「過去の文献としては」
「文献……。ちょっとそれも気になりますが、まずは話を進めちゃいます。俺、向こうでは成人したばかりだったんですよ。これからいろんなこと楽しむぞって思ってて。恋人はいなかったけど、家族の仲は良好で。けど、ある日、大きな地震があったんです」
大きく地面が揺れ、そして、建物が揺れた。幸い頑丈な建物だったから、揺れが落ち着いたら逃げよう。そんな風に考えていたのは覚えている。
だが、一緒にいた友人の自分の名を叫ぶ声と、大きな物を打ち付けられた音を聞いた後、自分がどうなったのかわからない。
気が付けば見知らぬ建物の中にいた。
そう語るユヅルの目は遠くを見ていた。故郷を思い出しているのだろうか。それとも残してきた家族か。文献に残る過去の召喚者たちの中には、最期まで故郷を思い続けた記録が多く残されていた。
「多分、俺はあのときに一度、死んだんです。あの地震で家族がどうなったのか知りたいけれど、こっちから知る術はないし。無事であると信じています」
それで、と続けるユヅルの手はもう動いていない。
ただ、白くなるほど握られている手は、まだ過去に出来る程割り切れていないことを何より雄弁に表していた。
「その建物に、俺以外の人はいなかったんです。ただ、足元に消えかけて薄くなった文字があって。それが何て書いてあるかわからなかったけど、あんまり良いものではないような気がしてすぐに離れました」
そこから人のいる雰囲気のある場所を探してさまよったのだという。幸い、その場所は王都からさして離れた場所ではなかった。二日ほど歩いて、途中で同じ方向に向かう人の話を聞いて歩いた。
「王都に入るときはちょっと大変でした。向こうで持っていた荷物はあっても、この世界で通用する身分証明は一切持ってなかったので。でも、そのうち門番さんかな。鎧を着た人からされた質問に答えていたら、ギルドマスターが来てくれたんです」
少しずつ強張っていた体から力が抜けていく。顔色はまだ悪いが、口元に笑みが浮かんでいた。きっと彼にとって王都で過ごした日々は悪いものではなかったのだろう。
「元の世界では武器を握ったこともなかったので、まず武器の扱いに躓きました。けど、それなら荷物持ちをしながらこの世界に慣れていったらいいって言ってくれて」
嬉しかったなぁ、と笑う彼に、確かにあのギルドマスターならそういった助言をするだろう、とルプスにも想像がついた。
「なんで辺境に来ようと思ったの?それなら王都で過ごしていた方が楽しかったんじゃない?」
うーん、と眉を下げたユヅルは、信じられないと思うんですけど、と続けた。
「なんか、こっちから呼ばれているような気がしたんですよ。俺を知る人なんてこの世界にいないのに、なんでか」
天井を見上げるように見上げた顔は、その声を探っているようにも見えた。もしくは、もう戻れない故郷で大切な人たちの自分を呼ぶ声を探していたのか。
かつて、彼をユヅと呼んでいた、もう会えない人々を。
「……俺を呼ぶのは誰だろうって気になっちゃって。だから、あっちでも止められたんですけど、来たかったんです」
ほう、と息を吐くユヅルに湯気の上がった飲み物を差し出す。香ばしい香りのそれは、最近普及し始めた飲み物だ。香ばしくも苦みのあるその飲み物は、好き嫌いが分かれるが、ルプスは好んで飲んでいた。匂いを嗅いだ後、一口飲んだユヅルの目が見開かれた。
「緑茶っぽい……」
他国から持ち込まれたそのお茶は、過去にその国にいた召喚者が好んでいたという売り文句だった。また、召喚者の故郷で飲まれていた、とも聞いたことがある。
恐らく、ユヅルと同郷だったのだろう。
「まさしく緑茶って名前のお茶だよ」
「へぇ……」
嬉しそうな、でも、苦しそうにも見える表情を浮かべながら飲むユヅルは、カップに注がれていた緑茶をしっかりと飲み干していた。
漸く一息をついたところで、共にいた冒険者たちについてどういった経緯でパーティーを組んだのか尋ねる。
あの場で簡単な経緯は聞いていたし、彼らは彼らで話を聞かれているが、被害者であるユヅルの話も聞かなければならない。
「彼らも根っこから悪い人たちってわけじゃないと思うんですよね。まぁ、結局、報酬のことで揉めちゃいましたけど。王都に居た時は助けてくれたりもしたんですよ。俺、この世界の常識に疎いから騙されることもあって」
物の価値がわからず騙された。
時には持っているものを奪われそうになったこともある。
そういう時に助けてくれたのだという。
「まぁ、俺が戦えないのは事実だし。危ないところを何度も助けてもらったのも事実です。彼らからすれば、荷物持ちとはいえもっと戦ってほしい、って思っていても仕方ないことなのかも」
そしてしょんぼり、と顔を下げた。
「武器の練習とかもしたんだけど、それよりもまずは筋力をつけろって怒られちゃいました。ギルドマスターってなんかお父さんぽいですよね。……彼らはこれからどうなりますか」
「最初から騙す目的じゃないならちょっとした罰則で済む。けど、荷物持ちに対する認識が甘いあたり、初心者向けの講習受けなおしにはなるだろうな」
それにあからさまにほっとした様子を見せることに、随分とお人よしだのように感じた。本来であれば荷物持ちに戦力を期待していたあの冒険者たちの方が問題あるというのに。
この意識を変えなければ、これから先も同じような問題が起きる気がした。
とはいえ、彼のこの性質は生まれ持ったものであり、簡単に変えられるようなものではない。慣れていけばいいだろう。
その為にも、説明することは他にあった。
「あとは、あぁ、召喚者について、と、これから先の君の身の振り方について」
恐らく王都でも似たような話をされているはずだ。それでも、改めてこちらで説明をするのは、彼の意志をなるべく尊重したいからだ。
自分で納得せずに周りに流されるままでは、いつかどこかで爆発する。ルプスの事情とは違うが、流されて後悔するようなことにはなってほしくなかった。
「これまでにも君と同じように異なる世界からやってくる人はいたんだ。召喚術っていって異なる世界から呼び込む術もある、とはいえ、それは今、禁止されているけどね」
禁止される前は頻繁に行われていたらしい召喚術によって世界は発展した。けれど、召喚者すべてが召喚されることに同意していたわけではない。無理やり連れてこられた召喚者も、中にはいたのだという。
そうした積み上げが、召喚術の禁止につながった。
最も、これはユヅルには伝えないことだ。
「それでも、たまに君みたいに急に現れる時もある。そして召喚者たちからもたらされた知識はこの世界で根付いて、今の便利な時代になってるんだ」
「だから緑茶とか、見知った物もあったんだ」
「過去の召喚者の影響だね」
うんうん、と頷いていたユヅルの目からほろり、と涙が零れ落ち手にあたる。
本人も涙を流した自覚が無かったのだろう。驚き未だ濡れている手で頬に振れていた。
「あ、れ。なんで……」
「故郷を思い出したのかな。ごめんね、その穴を、埋めることは誰にもできない。でも、これから君のことを俺や俺の仲間が守るよ」
それはただの優しさじゃない。国として、冒険者ギルドとして、過去の召喚者のように何か有益なことがあるなら知り合いって下心がある。けれど、ほろほろと迷子の子どものように泣く青年を手助けしたいのは本心からの言葉だ。
「俺も、俺の仲間も、君を縛りたいわけじゃない。やりたいことや行きたい場所が思いついたら教えてほしい。これからどうしたいのか、ゆっくり考えていいんだ」
だから、安心していいんだ、と頭を撫でれば、くしゃり、と顔が歪んだ。
そして、大声を上げて泣き出すユヅルの背中をただ撫で続けた。
更新が遅くなりました。
ぎりぎり一か月一話更新……!
イベントに参加する原稿で修羅場です。
☆評価やブクマを頂けると励みになります!




