死に物狂いで言い訳しろ
「ほう、なるほどな。…よくいるんだよな」彼はブルーをじっと見つめて言う。「あのころの活気が忘れられなくて、証文を偽装してまで入ってこようとする奴が。私には信じられんがね、あの無秩序で、無分別で、無軌道な時代を懐かしむ人間がいるなどとは。…話が逸れたな。もし、あの時代を求めて入ってこようとするんだったら、やめとけ。もしここで引き返すんなら、この偽物の手形と一緒に出ていけ。ここだけの話として、咎めだてはすまい」
偽物、と言われて、ブルーは全身の力が抜けた。足が地に根を張ったようになり、動かない。役人が放った言葉がリフレインしながら体にまとわりついてくる。
――偽物だと?確かに、よく確認はしなかったが、爺さんが僕に偽物を掴ませたのか?それとも、ここに来る途中で誰かにすり替えられた?いずれにせよ、ここにある通行証が偽物だとすれば、ここで引き返すほかはない。いまなら咎めないと言ってくれているし…。
数秒の逡巡の後、ブルーは覚悟を決めた。
「冗談はお控えください。僕にも生活がかかっているんです。僕は生産手段を持っていない。いわば中卸商なんです。冬の来る前に買い付けを終わらせなければ、商品も高価になって僕のような零細商人にはまとめて入手できなくなる。そうなったら、家族ともども生活していけない」
「買い付けとな。一体何を商っている?」
「毛織物です」ブルーは答える。
「暖かい夏の間に、安価な生産品や、質流れを買って、冬に別の村で売るんです。寒くなり始めると、質は受け出されてしまうし、新品だって値が張ってくる。だから、今のうちに買い付けをしておくんですよ。ギンズバーグの毛織物は、昔から質がいいですから。しばらく土地を離れていたんで、別地方で商いをやっていたんですが、この街のものは、たとえ中古でも別格だ。だから、恥ずかしながら戻ってきたんです」




