夕べに光る月
アケミは、更に顔を近づけて来る。熱い息がブルーの頬にかかって、ブルーは思わず叫びそうになった。
「おい」と脇から声がかかった。
「どういうつもりか知らんが、うちの坊主をあんまりからかうのは止してくれんか」ソルフェは面倒くさそうだ。
「あら、あたしたちがどうなろうと、ソルフェちゃんに関係あるかしら」
「大ありじゃ。いまそいつはよ、一世一代の大博打の最中なんじゃ。姫様を助け出すためのな。じゃけんど、そこの坊主はなんとも優柔不断で、あっちむいたりこっちむいたり、まるで落ち着きいうもんがないんじゃ。ほいじゃけん、わしが隣についてやって、襟をただしてやっとるんよ。すまんが、そいつが本意を遂げるまでは、そっとしておいてやってくれんかのう」
「そんなの、過去に囚われてるだけじゃない。ブルーくんの幸せは、今のブルーくんが決めるべきだよ」
「阿呆、いっときの性欲で身を持ち崩した連中を、わしゃ山ほど知っとるわい。いいからもう寝んさいや。騒いどると、狼が寄ってくるかもしれんぞ」ソルフェは寝返りを打った。一瞬、静寂が辺りを包んだ。
「いいよ、ソルフェちゃんに免じて、今日はこれくらいにしといてあげる」アケミは立ち上がり、ブルーを見下ろして言う。
「ブルーくん、また明日ね」月明かりに照らされたその顔は、ぞっとするほど妖しく、ぞっとするほど美しかった。




