酔っ払ったおっさんの下ネタは見苦しい
いくらなんでもへぼ農民はないんじゃないか、とブルーが考え込んでいる間に、持ち前の手際の良さでエイプリルは宿を手配した。
宿屋の一階は例によって酒場になっており、食事を取ることもできた。二人はたっぷりチーズが乗ったパン、濃いめのコーンスープと羊肉のローストを取った。明日も長距離の行軍である。栄養と休養を取ることがなにより肝要であった。
食後の紅茶を飲んでいると、酔客の集団から会話が漏れ聞こえてきた。
「市長はよ、あのヴァネッサとかいう女狐だよ、あいつには誰も頭が上がらないよな。あの身体でこの街を守って、盛り立ててくれたようなもんだからよ」不必要に大きな声であった。
「聞くとこによると、アイリスの参謀長、なんて言ったっけな、ガ、ガィ、違うな、ガリ」
「ギリアムだよ」向かいに座った一人が言った。
「そうそう、そのギリ公とも寝たって言うじゃねえか、すげえよな。国家規模の娼婦だぜ、信じらんねえ。でもよ、その娼婦のお陰で俺たちゃこんなに楽しく酒が飲めるってもんよ、感謝しねえとなあ!文字通り市民のために身を捧げるなんてよ、感謝の印に、俺のこの」彼は自分の股間を指差しながら言った。
「清き一票をねじ込んでやりたいくらいだぜ!ガハハ!」
勢いよくエイプリルが立ち上がった。椅子が倒れる音に、店の全員が彼女に注目する。ブルーは思いつめた顔をした彼女の手首を掴み、首を振る。
やめとけ。
エイプリルは椅子を立て直し、何事もなかったように坐り直した。バツが悪そうに、酔客たちは勘定を置いて出て行った。エイプリルが呟いた。
「姉さん、また会えなかったね」
「ああ。」ブルーは俯く。