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耳をすませば
ソルフェは耳を澄ませているが、かなり難儀している様子である。無理もない、先程からさらに雨足は強まり、もはや周囲二メートルほどしか視界がないような具合である。「初撃で一人しか殺れんかったのが痛いのう。三人まとめて来られたら、こりゃ……」柄にもなく弱気なことを言う。
瞬間、二人が彼女めがけて駆け込んできた。ソルフェがとっさに振った刀は空を切り、地面に刺さる。敵は、振り下ろした瞬間に隙ができた彼女に二人がかりで切り込んだ。ソルフェは長刀を手放し、後ろに飛び退ってそれをかわした。背中合わせになったソルフェに、ブルーは右手のナイフを手渡そうとしたが、彼女は首を振る。
「それはおどれが持っとれ。なに、いざとなれば、わしには秘技・キャッチナイフもあるし」
「なんだ、それ?」
「相手が持っとる武器を奪う技じゃ」
「ひどい名前だなあ」
「黙っとれ」
数秒間、降り続く雨の音だけが響いた。ソルフェが深く息を吸い込む。




