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俺に山芋を食わせろ

 日用品を買い込んで、ブルーの背のザックは、来た時とまではいかないが膨らんでいた。定期的に重い荷物を担いでの移動を行うせいか、あるいは生家で行う野良仕事のせいか、15という年齢よりたくましく見えた。


 そもそもこの行商は、社会見学の一環として、ブルーとエイプリルが14になった頃から続けられていた。発案は、エイプリルの爺さんである。体験こそが人間を育てる、という持論から生まれた提案であった。そうして、ブルーもついていけ、と爺さんは強く推した。


 もちろん、村長であるエイプリルの父をはじめとして、心配から反対する人間もいたが、最後は、やってみたい、というエイプリル自身の熱意が勝った。彼女の父親は、季節ごとにやってくる隊商と同行すること、二泊以上はしないこと、等の条件をつけた上で、首を縦に振った。


「さて、そろそろ宿を取りましょうか」エイプリルが言った。


「そうだな」ブルーは答えた。「早めに行かなきゃ、この間みたいに路地裏で寝ることになっちまう」

「あれはあれでなかなか刺激的だったけど」


「冗談じゃない、この辺、さすがに山賊はいないけど、夜は危ないんだよ。道中みたいに隊商と一緒っていうわけでもないし。あの日だって、僕がどれだけ……」


「冗談よ」エイプリルが憮然として言った。「だいたいあの日あんな目にあったのは、あなたが突然『長芋が食べたい、長芋が食べたい』って浮かされたように言い出したせいじゃないの?そのうえ、散々料亭を回った挙句、出てきた料理を見て、『食べたかったのは山芋だった』って。呆れたわよ。どう違うの?気がついたらあたりは薄暗いし」


「どう違うって、この街に入ってくる山芋はまるまる太ってて栄養があるんだよ。どうもこの辺は土がいいらしいね。だいたいこの街に着くまで、たっぷり八里はこの重い荷物を背負ったまま歩き通しなんだぜ。本当は脂の乗った牛肉でもいただいてもいいところ、値が張るだろうと思って、それなら代わりに精のつくものをたっぷり食べて帰り道に備えようと思っただけだよ。なのに、あんな痩せた長芋なんて食えたもんじゃないよ、ああ主よ、本当にひどい話だ、例えるなら……」


「ああうるさい!」エイプリルが怒鳴った。


「とっとと宿を探すわよ、このうすのろ!トンチキ!へぼ農民!豆腐!」


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