空虚
「坊主、お前もなかなか男が上がらんのう」ソルフェがのんびりと言った。
「無駄話はよしてもらおう」男が言う。
「おどれがここの親分かいの」
「そうだ。この野郎、好き放題殺してくれやがって」
「売られた喧嘩じゃ。買わんのは野暮いうもんじゃろうが」
「俺たちはそこの荷物だけ頂きに来たんだよ。それさえ差し出せば穏便に……」
「済むと思うか」ソルフェは刀をくるくると回す。
「近寄るな!」男の腕に力が入り、短刀がブルーの喉をチクリと刺した。
「痛い痛い!やめてくれ!もういいよ、荷物でも弁当でもなんでもやるから殺さないで!」
「やれやれ、情けない」ソルフェが嘆いた。
「のう、お前さんよ、そうやってその坊主を人質にしとる間はええがの、そいつを本当に殺してしもうたら、その後、おどれ自身はどうなるかわかるか」
ソルフェは刀を回すのをやめて、ゆっくりと持ち上げる。
「この刀はな、『空虚』いう銘の業物よ。これの何が優れとるかというとじゃな」正面に太刀を構える。
「まず、リーチが長い。これは背の細いわしにはもってこいの性質じゃ。労せず遠くの敵をたたっ斬れるからのう。あと、背中が痒いときとか、遠くのものを取るときにも重宝するな。かかか」目は笑ってはいない。
「それから、刃に特殊な加工がしてあって、血脂がつきにくくなっとる。わしゃ、徒党を組んで戦ういうことはようせんもんじゃけん、自分の刀が切れんようになったらおしまいじゃ。そのための予防いうわけよ。最後に……」刹那、ソルフェは振り返って上段から太刀を振り下ろした。
背後まで忍び寄っていた山賊の一人が、血を吹き出して倒れた。
「こいつは重い。長いのに加えて、刃を厚めに作ってあるからのう。その重さを利用すれば、わしのような細っちょろい女の腕でも、相手の骨までぶった斬れるというわけじゃ。どうじゃ、おそれいったか」
言いながら再び向き直ったソルフェは刀を前方に振った。賊を斬って付着した血糊が飛び、ブルーと男の顔に血飛沫がかかる。
「ひええええええ」ブルーが悲鳴をあげる。
「うるさい!」再び一喝するソルフェ。男は何も言わない。




