この世は結局金次第
じいさんは、金貨にして30枚をブルーに手渡した。ギンズバーグでも、二人で半年はゆうに暮らせる金額であった。それをどうやって用意したか、ブルーは聞かなかった。かつて蓄財したものなのかもしれないし、村長の財布からちょろまかしたのかもしれなかったが、そんなことはどうでもよかった。その金で、旅がぐッと楽になることは自明であったからである。これに、ブルーがひっそり貯めていた支度金を合わせて、ひと財産になった。それを、二人して水に浸かっている間に掻っ攫われて途方に暮れる、などということは断じて避けたい。
「おい、ソルフェ、そろそろ……」
ざあッ。昨日と同じ風が二人の間を吹き抜けた。瞬間、ブルーは身を固くする。
「まったく、懲りんやつらじゃのう」ソルフェがやれやれ、といった風に言う。見回すと、昨夜出会った山賊と同じ格好をした男たちが、林の影から、木の上から、川のほとりから、ブルー達を見ていた。昨日の三倍ほど人数がいそうだ。
「ブルー!」川の中からソルフェが檄を飛ばす。
「ビビるなよ、相手の動きをよく見ろ。こういう状況じゃ、どれだけ冷静になれるかが、生死を分ける鍵で。とにかく、臆するな」言うが早いか、彼女は川から転がり出て、ずぶ濡れのまま自らの刀を取りに走った。と、途中で、族の一人が立ちはだかった。
「どけ、チンピラ」
ソルフェの恫喝にも怯まず、短刀を振りかざして彼女に襲いかかった。
ひゅッ、と刃を振り下ろす瞬間、ソルフェは軽く身をよじってそれをかわし、空を切ったナイフが終止する刹那、男の手を掴んだかと思うと一瞬で短刀を奪い取った。そのままの勢いで前転し、起き上がると得意げに言う。
「見たか、秘技……えーと、キャッチナイフ?うん、どうも名付けは苦手じゃ。あとでブルーに考えてもらうか。ところで」ソルフェは相手を睨む。
「下手くそじゃのう。ええか、ナイフはな、こう、刀みたいに振って扱う武器と違うんよ。よう見とれ」少女はぐっと腰を落として、短刀を持つ手を心持ち前に出す。相手の呼吸の終わりを見定めて、一瞬で間を詰めると、腹部をひと突きし、後ろに飛び下がった。反射で腹をかばうように前傾になった男のこめかみにふた突き目を見舞い、とどめ。血を流しながら崩れ落ちる男に向かって彼女は言った。
「こんな風に突いて使う武器なんじゃ、或いは――」
振りかぶってブルーのいる方向に投げる。ブルーの肩越しに鋭く飛び去った短刀は、背後から彼に飛びかかろうとしていた男の喉笛に突き刺さった。
「こうやって投げて使うかじゃな。覚えとけ。あれ、もう死んどるか。死んだら覚えられんわな、すまんすまん、ははは」少女はからからと笑った。




