夏には水遊びがつきもの
「なにをぼんやりしとるんじゃ」
声をかけられてブルーは我に返った。いくら考えても、じいさんが村長を疑う理由が見えてこない。ひとまず、ギンズバーグを目指すほかなさそうだ。
昨日歩いたものと同じ道を、二人はさくさくと歩いて行った。時刻は正午にさしかかり、雲ひとつない空からは灼熱の太陽が容赦なく照りつけていた。
「それにしても暑いのう」
「そりゃあ、そんな格好してたらな。夏服とか持ってないのか」
「まあな。むしろ、直接日光にあたるほうがきつい」
言いながらも、ソルフェはかなりしんどそうである。
「もう少し行けば川がある。そこでしばらく休もう」
間もなく、例の杉林にたどり着いた。そこは、真夏の昼日中にあっても、鬱蒼と生い茂った常緑がそれぞれに首をもたげ、薄暗い闇を作っていた。ブルーは少し身構えた。
「やっとここまできたか。ちっとは楽になりそうじゃの」
昨夜の戦いなど忘れてしまったかのようにソルフェが言う。そんな様子に、ブルーは強張っていた身体が緩むのを感じた。
林に入って少し進み、脇道に逸れたところに川が流れていた。ブルーは川のほとりに腰かけると、母親からもらった包みを取り出した。
「ソルフェ、昼飯に……」
言い終わらないうちに、ソルフェは「もう我慢ならん!」と叫びながら川へ飛び込み、姿を消した。そして、すぐに顔を出して気持ちよさそうにため息を漏らした。
「ふぅーッ。死ぬか思うたぞ」濡れた黒い髪をかきあげながら言う。まだ旅は始まったばかりである。その調子でどうやって道中を進めていくつもりなのだろうか、と、ブルーは心配になった。しかし、こういうのも意外と悪くないな、と思う自分がいる。そう、楽しそうに水と戯れる女の子というのは、見ていてとても気持ちのいいものだ。それがこんな乱暴な言葉遣いの少女でも、である。
「何か失礼なことを考えとる顔じゃの」
ソルフェがブルーの方を見て、不満顔で声をかけた。ブルーはぎくり、としたが、すぐに「はは、馬鹿言うなよ」と笑ってごまかした。
「それより、どうじゃ、おどれも入ってみんかい。なかなかええ具合じゃぞ」
「山々だけど、やめとくよ。荷物の番もあるし」
じいさんがくれたのは、通行手形と激励だけではなかった。二人の去り際に、もっとも強力な実弾を手渡した。
――金である。




