亀の甲より年の甲
「まったくお前らは揃いも揃って……」むせながら少女は呟く。
「いや、すまん、冗談じゃ。なに、簡単なことじゃ、ギンズバーグの中にはな、昔の戦友がおって、今でも手紙のやりとりがあるんじゃ。それで、そいつがエイプリルによく似た女を見かけたらしい。しかも、名前を呼ぶと、振り返って、走って逃げていったそうな」
「それ、本当か」
「嘘をついてどうなる」
――エイプリルが、生きている!それがわかっただけで、ブルーは天にも昇る気持ちだった。よかった、僕はまちがっていなかった―
「そのことは、村長たちも知ってるの?」
「村長、ヤヌアールか、あいつは……」じいさんは遠い目をする。
「あいつは信用ならん。気をつけろ。お前さんが村を出ることを伝えたか?」
「いや……」
「それでいい、できれば気づかれずに出て行け」
「信用できないって、なんで……。家族だろ」
「なんでもじゃ、あいつが裏で何をしているか、誰も知らん。わしがボケ老人のふりをしとるのも、あいつに悟らせんためじゃ。わしが、あいつを疑っておるということをな」
「なに、あれ演技だったの?」
「当たり前じゃ、わしゃ2回も戦争に行っとるんじゃぞ。そう簡単にボケてたまるかい!お前たちには想像もつかんものもたくさん見てきたぞ、例えば……」
「ああ、もういいもういい!」ブルーは必死に制した。爺さんのいつもの二時間コースの冒頭だったからだ。
「と、冗談はここまでにして……、ブルー」じいさんはブルーの肩に手を置いた。
「エイプリルを、孫娘を、よろしく頼む。あの娘に、もう一度、生きて会わせてくれ」
ブルーは力強く頷いた。




