じいさん
「ええ場面じゃったのう。わしまで泣いてしまうところだったじゃないの」と、確かにこころもち赤い目をしたソルフェージュが言う。
「ところで、じいさんいうのは、こんなァの親父さんの親父さんか?」
「いや、僕の祖父はもう亡くなってるよ。ゆうべ話しただろ、エイプリルのじいさんだ」
「は?まだ生きとったんか」
「一応な。可愛がっていた孫娘がいなくなって、みるみる衰えていったけど。最近は僕の顔を見ても、僕だとわかっているのかいないのか、よくわからない」
村はずれに、端材で建てたような粗末な小屋があった。
「うわあ、こりゃひどい」
「家族に疎まれているっていったろ、最近は特にひどい。こんな村のはずれに追いやって、飯と家政婦を一人充てがっているだけ。ま、村長も婿養子だし、なによりじいさん自身、実の娘にひどく嫌われてるようだから、仕方がないんだけど」
「ふーん、家族いうんもなかなかややこしいのう」
家庭の話題は失言だったか、とブルーは身構えたが、思ったよりソルフェージュは動揺しておらず、胸をなでおろした。
「おーい、じいさん、いるかー」ブルーは扉をたたいた。
がらり、と木戸が開き、老人が顔を出した。
「なんじゃ、ブルーか」どうやら、今日は調子がいいようだ。運が良かった、ブルーはホッとした。




