母、保身!男を見せろ、親父!
「許しません」と母が言った。父は黙っている。
「道中二人きりなわけでしょ?何かあったらどうするつもりなの?それに、畑仕事だって、もしあなたがいなければ、どうしたらいいか……。」
ソルフェージュは、やれやれ、というふうに首を振った。この小心者の家族は、ブルーの行動のせいで、自らの立場が更に悪くなることを恐れているだけなのだ。どうする、と、ソルフェージュがブルーに視線を送る。ブルーは頷いて、言った。
「おやじ、おふくろ……。僕、この人と一緒に行くことにするよ。ギンズバーグまで彼女を案内したあとも、しばらくは帰って来ないつもりだ」ブルーはきっぱりと言った。
「僕……、僕、このまま生きていくのは嫌なんだ。あの日、ヴァネッサ姉さんに、エイプリルに、何が起こったのか。それを確かめたいんだ」
両親は黙っている。
「いままで育ててもらって、飯を食わせてもらって、そのうえこんなわがまままで……、虫のいいことを言ってるのは十分わかっているよ。でも、僕からすれば、これはチャンスなんだ。この人、ソルフェージュは、見た目はこんな小さくて、喋り方は変だけど、すごく強いんだよ。ソルフェージュについていけば、きっと安心だよ」
「喋りが変は余計じゃ」ソルフェージュが不満そうに言う。
「あなた―」母が不安そうに、父親の腕を取った。父親はゆっくりと言った。
「……まあ、いいんじゃないか。世間では、次男坊は放浪するもんと、相場が決まってるしな」父はブルーの目を見てニヤリと笑った。
「それにこう見えて、ブルーは意外と根性があるんだぜ。土下座っぷりなんか、俺より様になってるくらいで――」
「ちょっと!何言い出してんだよ……」狼狽えるブルーを見て、父はまだにやにや笑っている。ソルフェージュも満面の笑みを浮かべながら言った。
「いやあ、ええ男っぷりですのう、おやじさん!」ソルフェージュが父の背中をばしばし叩いた。父は頭を掻いた。「いや、そうはっきり言われると照れるな」
「いやいや、たいしたもんじゃ。のう、どっかの誰かも見習うた方がええんじゃないの」兄は床にあぐらをかいたまま、苦虫を噛み潰したような顔で下を向いている。
「そうと決まれば、さっさと支度で」ソルフェージュは嬉しそうに部屋まで駆けていった。ブルーもそのあとを追う。




