一番好きな食事は朝飯です
「いやあ、すまんのう、こがァにもてなしてもろうて!朝飯まで馳走になるつもりはなかったんじゃが!んん?この魚はなんですかいのう?えろううまいが」食う気マンマンだったくせによく言う、とブルーは思った。
「そこの川で獲ってきたニジマスです」ブルーの母が答える。
「ほうですかい。初めて食ったが、こらあええもんですのう」
少女―ソルフェージュは、大変にご機嫌だった。ことの成り行きを説明するのはブルーの役割だった。もっとも、家族には、寝付けずに出た散歩先で野盗に襲われ、そこを彼女に助けてもらった、と説明した。まさか単身ギンズバーグに乗り込むつもりだったとは言えない。
ブルーの両親は、目に見えて困惑していた。そりゃそうだ。普段はほとんど口も聞かない息子が、恩人だと言って年端も行かぬ――しかも妙な喋り方の――少女を連れてきたのだから。
「あーあ、次から次へとトラブルを持ち込みやがって。どれだけ迷惑かければ気が済むんだよ、お前は」
悪意をむき出しにした言葉に、ブルーの身が固まった。呟いたのはブルーの兄である。
「当然今日はお前、朝飯いらないんだよなぁ?人数分しか用意してないんだからな。だいたい、夜中に散歩に出て、襲われるってなんだよ。相変わらずノロマなんだな、お前」
ブルーは何も言わない。どころか、両親すらうつむいたまま無言でいる。その沈黙は、家族全員が同じ意見ということを暗に表明していた。そう、この空気、あの日から五年間、一日たりとも変わらないこの空気が、ブルーにはこのうえなく苦痛だった。
マスの小骨を口からつまみ出しながら、ソルフェージュが兄をちら、と見た。
「あんまりええ男じゃないのう」
ブルーは吹き出した。同時に兄は真っ赤になった。
「お前みたいな、どこの馬の骨かもわからんような女に、認めてもらいたくなんかないんだよ!」
「あァ?なんじゃおどれ。ええか、男っぷりいうんはの、嫌味と負け惜しみが、どれだけ少ないかで決まるんで。よう覚えとけ。その基準からすりゃ、おどりゃあ落第どころか、零点じゃ。つまり、女の腐ったような奴、いうことじゃな」
激怒した兄が、ソルフェージュに掴みかかろうとズカズカ歩み寄った。彼女は気づかぬふりをして朝食を続けている。




