ヴァネッサの昔話はけっこう面白い②
『神様はね、新しい悪魔を作ったの。それまでの悪魔とは違う、もっと恐ろしい存在。その悪魔は、中身とは違ってとても人間そっくりなの。そして神様は、そんな悪魔を、人間たちにわからないように潜り込ませた。悪魔は、最初はとても親切に、優しい言葉で、友達のように振る舞うの。仲良くなってから、尊大になった人間を次々と殺していったわ。これまでと同じ、いや、これまで以上に残虐な方法で。それで、人間はいままでどおり神様に祈り、悪魔を怖がるようになったの。そして―』ヴァネッサは言葉を切った。
「――そしてね、その時作られた悪魔というのは、とても可愛らしい格好をしているのよ。みんな背が小さい女の子だっていう話だわ。エイプリルの知っている悪魔とは、ずいぶん違うけれど』ヴァネッサは微笑んだ。
その話を聞いたブルーたちは、しばらく小さな女の子が出てくるお話を怖がった。どんなに幸せな物語でも、終盤になればその少女が悪魔に変貌し、その家族や友人を皆殺しにするような気がしたからである。あれから十年以上たった今になっても、ブルーはあのヴァネッサの話をときどき思い出す。
そして今日、見知らぬ少女が、優しい言葉で――いや、あれを優しい言葉と呼ぶのは無理があるが、少なくとも親しげに―話しかけてきたのである。ブルーは恐怖して駆け出すほかなかった。