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ブルーの覚悟

「いっそのこと、お前も帰って来なきゃよかったんだよ、そうすれば、まだ同情だってしてもらえたかもしれない。一体どういうつもりだ、本当に」


 ブルーが立ち上がった拍子にテーブルが揺れ、皿からスプーンがカタリと落ちた。兄はブルーを睨み返して、「なんだよ」と言った。


 ブルーは何も言わずに部屋を出て畑に向かい、また一身に(くわ)を振るい続ける。まるで何かを忘れたがっているようだった。


 あの日、ヴァネッサが死んで、エイプリルがいなくなったあの後、どうやって家に帰ったのか、彼にはわからなかった。うっすらと、街中を駆け回った記憶と、もしかしたら先に家に帰ったのでは、と儚い希望を抱いて帰途に着いた覚えはあるものの、それ以外のことになると(もや)がかかったように思い出せないのである。そしてそれは、帰ってからの数日も同様であった。   


 エイプリルの所在について誰が尋ねようと、あんとかうんとか言いながらぼんやりしているだけで何の反応もなかった。特にエイプリルの家族はかなり強く問いただしたが、柳に風が吹くようだった。そのうち、誰もブルーにものを尋ねるものはいなくなり、代わりにブルー一家は村八分の憂き目にあうようになったのである。


 それ以来、ブルーは薄ぼんやりと暮らしてきた。少なくとも周りからはそう見えた。しかし今、力任せに野良仕事を続ける彼の目には、覚悟の色が浮かんでいた。


 その夜は、満月であった。月明かりに照らされながら、一人の男が村を抜け出して行く。無論、ブルーである。数日分の食料や衣類が入ったザックを背負い、懐に手を入れたままそろそろと歩き出した。夜道、一人での行軍が危険なことなど、百も承知であった。むしろ、この日のために体を鍛えていたと言っても過言ではない。


 半里ほど行ったところで、遠吠えが微かに聞こえた。狼であろうか。途端に、周囲の音が気になるようになってきた。夜のうちに、出来るだけ村から離れなければ。時折怯えそうになる心を怒りで奮い立たせながら歩を進める。そう、今の僕には、大義がある。復讐という大義が――。


「良うない眼ェしとるのう、何さらす気じゃ」

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