プロローグでもぶっ殺す①
雷のような音を立てて、館の入り口が開いた。玄関先に立つは、年の頃15、6の少女である。黒い修道服に身を包んだ彼女は、身の丈ほどもある白鞘の太刀をずるずる引き摺りながらゆっくりと奥へ進んでいく。
吹き抜けのロビーは広く、それだけで主人の経済力の高さが伺える。部屋の中腹には大きな階段があり、突き当たりで左右に分かれ、その先にある二つのドアへと続いていた。館にはまだ奥行きがあるようだった。その階段のふもと、だだっ広くなっているスペースに、先を塞ぐように3人の黒服が立っていた。
中央の男は、頬から顎にかけて大きな傷があり、よく光る短刀を所在無げに弄んでいる。右側にはサーベルを携えた男が、猿のような顔に下品な笑みを浮かべて立っていた。両人共に異形であったが、しかし、とりわけ目を引くのは左手の巨漢である。2メートルもあろうかという胴体の上に巨大な頭部が乗っかっており、天を衝くような造形だ。野球用グローブのような手に大振りな金棒を持ったその姿は、さながら悪鬼か羅刹か、といった風態だった。
「来たな、魔女のババアの言ったとおりだ」猿顔が甲高い声で言う。
「神託を授かった巫女をそんなふうに呼ぶなよ、殺されるぞ」と、頬傷がたしなめる。
「なあに、ちゃんと仕事さえしてれば、ギリアムさんは何も言わねえよ。ギリアムさんが何も言わねえってことは、誰も文句がねえってことさ。神様すらな」大男がしわがれ声で言った。その声量は、立ち話をしているだけで地鳴りがするようであった。
「まあ、お前がいれば大丈夫か」と頬傷。「何百人殺ってきたんだ?そのイカれた棒で」
「潰した虫の数はいちいち憶えてねえなあ」大男は金棒を振りながら笑った。
3人に比べて、少女の頼りなさと言ったら、まるで綿菓子だった。背の丈150センチほどで、支えなければ倒れてしまいそうなほど細い体に、枝木のような腕が生えている。袖から見える手は透き通るように白く、陽の光を知らぬのではないかと思われるほどである。しかし、目だけは煌煌と輝き、前方の三人を射抜かんばかりに睨みつけていた。
程なくして両陣は対峙した。威嚇のためであろうか、或いは緊張を紛らわすためであろうか、猿顔がサーベルを床に打ち付け始めた。カチリ、乾いた音がこだまする。二度、三度、四度。五を数える前に、少女は野兎のごとく駆け出した。意表を突かれた三人の呼吸が整わぬうち、頬傷男の懐深く飛び込んだかと思うと、肩口で鳩尾をはねのけ、相手が仰け反るやいなや抜刀、そのまま袈裟懸けに斬りつけた。
ずば。
肉の裂ける音とともに血飛沫が天井まで立ち上ったが、彼女はそれを避けようともせず、返す刀で怯んだ猿顔を脇の下から切り上げた。ゴトリ、と右腕が落ちた。