第48話 ベッドの上で気持ち良くなる。
東の町の復旧には時間がかかるのだろうと思っていたのだが、どういう技術を持っていれば一日で元に戻せるのかと不安になってしまうくらい完璧な作業であった。
「クリーキーが自爆してから半日も経っていないのに復旧するなんて凄いね。どんな技術が有ればこんな短時間で元に戻せるの?」
「元に戻すだけなら簡単なんだよ。前よりも良いものを作ろうと思えば時間はかかっちゃうけどね。結局のところ、みんな野宿はイヤだし屋根のあるところで寝たいって気持ちは一緒だからさ。素材さえ集められたら後は簡単なもんだよ。家くらいだったら一時間もかからずに組み立てられるんじゃないかな」
「そんな簡単に作れるような家には見えないけど。コレも俺が知らない技術の成果ってやつなのかもね」
「そんなに難しいことはしてないんだけどね。“まーくん”だって覚えれば簡単に作れるようになると思うよ」
「まるでゲームの家を作るみたいに簡単に言うね」
「基本的には変わらないよ。素材を組み合わせて配置するだけの簡単な作業さ」
簡単な作業と言っている割にはしっかりとした家に見えるのだが、どれも似ているようで若干違うのが個性の出どころなのかもしれない。
皇帝の住む都市と比べると高い建物が少ないというのもあるのだろうが、遠くから見ていた街並みを完全に再現していると思えるくらいには建物が出来上がっていた。個人で住む分にはどれも十分な広さがあると思うし、土地さえあればいくらでも増築できそうな印象を受けたのだ。
「ちょっと小耳にはさんだんだけど、今晩の“まーくん”は珠希ちゃんと一緒に寝るんだって?」
「なんか、流れでそうなったんだけど、どうしようかなって悩んでるんだよ」
「別に悩むことは無いと思うけど。一人で寝るよりも誰かと一緒に寝た方が安心出来るでしょ。それに、“まーくん”にはオレがついてるから安心だよ。サキュバスが攻めてきたとしても、珠希ちゃんの仲間が守ってくれるから大丈夫だと思うし。今日もちょっと張り切り過ぎちゃったからオレは先に寝ちゃうかもしれないんだけど、“まーくん”はあんまり遅くまで遊んでたらダメだからね」
「遊んだりなんてしないと思うけど、俺も今日は色々とあって疲れてるから早く寝ちゃうかも。その方がよさそうだよね」
「“まーくん”の好きにしたらいいんじゃないかな。オレはご飯食べてお風呂に入ったらすぐに寝ちゃうかも。今日も“まーくん”に頭を洗ってもらっちゃおうかな」
「それは羨ましいな。ボクもアスモちゃんと一緒に洗ってもらっちゃおうかな」
何の前触れもなく登場した珠希ちゃんに驚いてしまったが、アスモちゃんは全く驚いている様子は見られなかった。俺の後ろから話しかけてきたので驚いたのだが、アスモちゃんの位置からだと近付いてくる珠希ちゃんの姿が見えたのかもしれない。それだったとしても、珠希ちゃんがいるという事を何らかの方法で教えて欲しいと思ってしまった。
もしかしたら、アスモちゃんが俺に頭を洗ってもらうというのを伝えるのがアピールだったのかもしれない。そんなわけは無いと思うが、あの時のアスモちゃんの目に映っていたのは俺ではなく俺の背後にいた珠希ちゃんを見ていたような気もしていた。
「ダメだよ。珠希ちゃんは女の子なんだから“まーくん”と一緒にお風呂には入れないでしょ」
「それはそうなんだけど、今日だけ特別って事にしてもらえないかな?」
「うーん、それは無理だろうね。オレはイザーちゃんから他の八姫が“まーくん”にちょっかい出さないように見張っててって言われているし、さすがにお風呂に一緒に入るのは良くないと思うよ。一緒に寝るのは問題無いと思うんだけど、さすがに裸になって一緒にいるのは良くないでしょ。男の子と女の子が一緒のお風呂に入るのは良くないよね」
「イザーちゃんからそんな事を言われているんだったら、ボクは無理にやってとは言えないよね。まあ、一緒に寝てくれるって言うだけでもありがたいと思わないとね」
珠希ちゃんもアスモちゃんが男の子だと思っているみたいなのだが、こうなってくるとアスモちゃんのことを男ではないと思っている俺の方がおかしいのではないかと思えてくる。
一緒にお風呂に入っている時も確認していたのだが、肌が触れた時の感じとかも男同士のそれではないように思えた。じっくりと触ったのではなく、一瞬肌が触れた時に感じたのだが、アスモちゃんの見た目も声も何もかもが女の子にしか見えないのは俺がおかしいという事なのだろうか。
その答えは永遠に出ないような気もしていた。
「とにかく、美味しいご飯を食べて、温かいお風呂に入って、気持ち良くベッドの上で休む。それが今日の目標であり、オレたちの願いでもあるんだよ」
「それが出来たら幸せだろうね。ボクも君たちを見習ってみようかな。美味しいご飯を食べて、“まーくん”の後にお風呂に入って、ベッドの上で気持ち良くなる。それがボクの目標ってやつかな。達成できるかは“まーくん”次第なんだけど、ボクの事も気持ち良くしてくれたら嬉しいな。アスモちゃんは時々凄く気持ちよさそうな顔で思い出し笑いをしていたと思うんだけど、ボクもそんな風にいつか思い出せるようになるといいな」
珠希ちゃんの言葉の選び方には悪意があるように思えるのだけれど、そんな事は微塵もなくたまたまそう言う感じになってしまっているだけだろう。
俺はそう信じることにした。




