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第99話 坑道のミノタウロス

「今日は、アイアンリッジのガルッグさんのところへ行くぞー」

「「オー!」」


 そこ、若干一名、格好だけじゃなく、声も出してください。


「ミラも声出して、魔道ロッドの試し撃ちにいくぞー」

「オー」



 まあ、いいか。ミラは物相手じゃなきゃ心が躍らないんだろうな。そう思いながらドアをくぐったのが30分前……。



「ミノタウロスですか?」

「ああ、間違いないそうだ」

「だってよ」


 30分前と打って変わって、何そのミラさんのキラキラした目。

 エミーさんも生温かい目で観察するのやめて。


「ミラ、嬉しいの?」

「うん」

「ガルッグさん、そんなわけだから。これ持ってちょっくら行ってきますよ」


 魔物が出て大騒ぎになっている場所は、鉄鉱石が採れる北側の坑道だという。

 出来上がった魔道ロッドに魔法陣を組み込んでいる最中、坑道に魔物出現という知らせが来た。


 持っていこうとしているのは、完成したばかりの魔道ロッド4本だ。


「しかしのう、ミノタウロスは凶暴で力も強い。ここいらの森の奥で見かけるバグベアーとは全然レベルが違うんぞ?」

「ご心配なく、ミノタウロスは俺たち何度も倒していますから」

「私たちのパーティランクはSランク」

「ほう! なんと、その歳でかのぉ!」


 俺たちのことを心配していたガルッグさんは、俺たちがSランクと聞いてビックリした様子だ。


まかせて」

「ミラも個人ランクはSランクなんですよ」

「そっちのちっこい嬢ちゃんもかの? 凄いのう!」

「ちっこくない」


(ミラさんや、胸を張ってもそれ以上は大きく見えないから。あ、睨まれた)


「可愛いなミラ、お前の魔法でみんなの度肝を抜いてやろうぜ」


(あ、ジムが頭を撫でたら機嫌が治った。ジムの奴、いつの間にミラの扱い方を覚えたんだ?)


 俺が首をひねっていると。


「あの二人は、だいぶ前からあんな感じよ。知らなかった?」

「知らなかった……」

「ハァ、アル君って頭いいけど、そんなところはうといんだよねー」

「はい、自信があります」

「自信持たなくていいの、ねえ、私たちも早く行こう?」

「お、おう」


 アイアンリッジの村には坑道の入り口がいくつもある。

 中は繋がっているのだが、この村から北西に行くとヘーゲル山脈という山々が連なっており、その地下には豊富な資源がまだまだ眠っている。


 俺たちが向かっているのは、鉄鉱石が多く含まれる北寄りの坑道だ。

 依頼している魔道大剣や魔道ビームライフルには多くの鉄材が必要なので、魔物が出ては採掘に支障がでるのである。

 どうしても心配だと道案内を買って出たガルッグさんに、目的地までの距離を聞いてみた。


「あとどのくらいですか?」

「そうだのう、ここからあと1時間くらいかのう」


 坑道内の移動は人力のトロッコで、平均時速30km程度の移動速度だと思われる。

 かれこれ、アイアンリッジから2時間ほど移動して来ているが、あとまだ1時間もかかるという。

 という事は、100キタールほどは進んでいる事になる。国境近くまで行くことになると思うが大丈夫だろうか?


 それにしても、二人で2時間もこぎ続けるなんて、どんな体の構造をしているんだドワーフ族は。


「あと1時間あるけど、2本ずつトートバッグに入れといて。1から4まで番号を付けてるから、調子が悪いのがあったらあとで教えて欲しい」

「分かったわ」

「うん」


 このトロッコは人力だが、レールを敷いて上を貨車が走るという技術は確立されている。

 魔道モーターを動力源にして街から街をつなぐ列車を走らせるというのも、そう高いハードルではなさそうだ。


 魔道列車の構造を考えている間に、現場が近くなってきたという話が耳に入って来た。


「そろそろだの」

「分かりました、じゃあ準備をします」


 エミーとミラは魔道ロッドを、俺とジムは魔道ロッドがうまく機能しない場合を考慮して魔道ライフルと魔道大剣をそれぞれ取り出した。


「ここからは歩いてだが、暗いから気を付けての」

「ここは鉱脈だったのですか? けっこう天井も高くなっていますが」

「そうだの、鉄鉱石を採掘したあとじゃの」


 このあたりの鉄鉱石の鉱脈は結構大きかったようだ。


「でも、どうしてこんな場所にミノタウロスが出るようになったのでしょうか?」

「それが、まったくわからんのよ」


 少し歩いたところで、喧騒とミノタウロスの咆哮が聞こえてきた。何人ものドワーフが長いことミノタウロスと戦っているのだという。


「あそこだの」

「見えてきましたね、えっ? ……何でツルハシ?」


 ルナ迷宮のミノタウロスは大きな棍棒や大剣という武器を所持していた。しかし、この坑道のミノタウロスはなんと、ツルハシを持っているのだ。


「武器とも言えない事は無いけど」

「場所によるのかなぁ」


 ミノタウロスは、何百キロもあろうかという大きなツルハシを振り回しているのだ。武器と言っても間違いではなかろう。


「仲間を避難させてください」

「おう、分かった」


 ガルッグさんは皆を呼び戻しに行ったが、ケガしないようにお願いしたい。


「みんな戦闘態勢」

「「おー!」」

「わくわく」

「私は右から行く、ミラは左からお願い」

「俺たちは真正面な」


 これまで交戦を続けていたドワーフの皆さんが、こちらに少しずつ後退してくる。

 よくこの大きなツルハシをけてきたものだ。まあ、動きが遅いから出来るのだろうけれど。


「じゃあ、交代しますね」

「あんたらで大丈夫なのか?」

「ああ、任せてください」

「ケガすんじゃねえど」

「ありがとうござ――」


『ビシャッ!!』


 戦闘狂のミラが、最近覚えたての雷魔法をいきなりぶちかましやがった。


「ウガァァァァ!!!」

「おっと」


 俺とジムは無造作に振り回されたツルハシを、バックステップで難なくかわす。


「スタン!」

「ググググ」


 スタンの簡易詠唱もエミーは出来るようになった。


 そのあとは、エミーとミラの同時雷攻撃が炸裂する。わずか10秒ほどでミノタウロスは白目を剥いてひっくり返った。

 俺とジムは途中から耳を塞いでいたから良かったものの、退避していたドワーフの皆さんは腰を抜かして動けない様子だ。


「お疲れー」

「でも、何で雷ばかり?」

「雷が派手でいい」

「火魔法だと空気が無くなっちゃうし、風魔法だと壁が砕けるし、水だと坑道内が水浸しになるかなって思って」


 消去法で洞窟内、いや、坑道内は雷がいいと判断したんだね。ミラの意見は聞かなかった事にしよう。


「たしかに、この坑道内では雷以外は2次災害が発生する可能性があるよね」


 空気が無くなるってエミーは言ったけど、洞窟内で火魔法の使用は要注意だ。

 特に魔道ロッドで魔術効果を高めた場合は、周囲の酸素が一気に無くなる可能性だってある。


「凄げーなぁおい! わしなんかチビッてしまったぞい」

「わしらが半日以上かけても倒せなかった奴を、ほんの一瞬で倒しおったわい」

「ねーちゃんたち、本当にすごいのう」


 ひとまず、彼女たちが凄く強いことを判ってくれただろうか。

 魔道ロッドはそれぞれ1本ずつしか使わなかったけれど、……しょうがない。



「本当におめーさんたちは、全部はいらんのかのう?」

「いえいえ、私たちはほんの一部をいただければそれでいいですから。アイアンリッジの皆さんで分けてください」

「ほうほう、そりゃあ皆が喜ぶぞい。おーい、こいつの肉は殆どわしらの村で分けていいってよう!」


 ミノタウロスの亡骸はトロッコに乗る大きさに分断して運ぶようだ。

 ミノタウロスの肉や皮は殆ど捨てる場所が無いとの事で、ドワーフの皆さんが嬉々として解体作業に当たってくれている。


(トートバッグには入るが、沢山入れててもねぇ)



「お前さんたちのおかげで、これから先も鉄の生産が続けられる。大助かりだの」

「いえいえ、その代わりと言ってはなんですが、ガレットさんのところにもインゴットの供給継続を宜しくお願いします」

「ほうほう、任せとけ。わしらにとっては酒の次に必要なもんじゃからな」


 ガレットさんとガルッグさん、この従兄弟いとこの作業場間を魔道ドアでつないだのは、判断ミスじゃなかったのか?

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