第98話 ライフル射撃競技
スクロールも1000本が完成したところで、タイミングよくジムたちが帰ってきた。
「「ただいまー」」
「帰ってきた」
「お帰り! ケガとか無かったか?」
「ないない。浅い階層だとやっぱり物足りないわね」
階層が浅いから、問題は無かったとエミーは言う。
「一人だと何か空しい」
「単独行動したんだ」
「3か所に分かれた方が効率がいいからな。でも、もうあんまやりたくねぇな」
魔石を効率よく集めるために、彼らは単独行動でひたすら狩りまくったが、一人だと寂しかったらしい。
「よく頑張ってくれたよ。おかげでスクロールに使う魔石が全て揃った。俺とジムは王都に行ってくるけど、エリーとミラは少しの間だけどゆっくりしてくれ。俺たちが帰ったらアイアンリッジに一緒に行ってもらうから。それでいいかな?」
「王都に行くの?」
「魔道ライフルを作ってくれているトラビンさんを訪ねて来る。完成品もだいぶ出来ているだろうから、試し撃ちや細かい調整なんかをしなければならないんだ」
俺はトランビンさんの工房を訪ねることにしたが、試し撃ちは王宮騎士団の訓練場を借りるしかない。王都には2日ほど滞在して帰ってくることを伝えた。
「分かった。じゃあ、帰ってくるまで魔石加工とかを手伝っておこうか?」
「ああ、それだと助かるな」
マルコさん達も大変だから喜ぶだろう。
「それで、アイアンリッジには何しに行くの?」
「アイアンリッジのガルッグさんにも、ガレットさんと手分けして武器類を作ってるんだ。今回はそれらの進み具合の確認と、魔道ロッドの性能の確認をするためにエミーとミラにも手伝って欲しいんだよね」
「分かったわ。ミラもいいよね」
「構わない」
俺とジムはドアを通って王都へ行き、トラビンさんの工房を訪ねた。
「材料は足りていますか?」
「まあ、こんだけありゃ大丈夫だろうよ」
トラビンさんには、魔道ライフル100挺をお願いしている。
「現在何挺ほど出来ていますかねぇ?」
「そうだなー。ちゃんと数えちゃいねーが、70ってところかねぇ」
「同じ物を100も頼んじゃって申し訳ないです」
「それも仕事じゃからな。ただ、もちょっと張り合いが出るように、出来上がったもんで試し打ちとかできれば嬉しいがのう?」
やはり、同じ作業の繰り返しではモチベーションが落ちているようだ。
「大丈夫ですよ、そのために来ましたから」
「ほう?」
「明日、王宮騎士団を訪ねます」
俺は出来上がった4挺に魔道回路と魔法陣を組み込んで安全装置を取り付けた。
そして魔石の入ったマガジンは少し多めに、それと薄い鉄板で作った20枚の標的を王宮騎士団へ持参した。
「レオノール団長様はいらっしゃいますか?」
「団長は現在王宮に行かれてますが、陛下と打ち合わせ中ですので少しお待ちいただけますか?」
「大丈夫です、打ち合わせが終わるまでお待ちしますよ」
「ノーマウント騎士爵殿が訓練場にいらっしゃっていることをお伝えしておきますね」
「ありがとうございます。お願いします」
(あー、陛下の事だからここに来そうな予感がする。複数持って来て良かった)
「アルフレッド君、よく来たね」
「陛下もお元気そうで何よりです」
「アルフレッド君が来てるって副団長が言ったから、自分も行くって聞かないんだよ」
「だって、美味しそうな匂いしかしないだろう? 訓練場だなんて」
やはり訓練場てとこに食い付いてきたらしい。
「で、今日はどうしたんだい?」
「実はトラビンさんに頼んでいた魔道ライフルが7割ほど出来ていますので、問題がないか試し撃ちをさせていただけないかと思って来たんです」
「7割っていうと、70本が出来たって事だよね」
70挺、数え方は“挺”だけど。まあいいか。
「はい、そうですね」
「で、今日は何本持ってきたんだい?」
「4本です」
「じゃあ、私も試し撃ちさせてもらっていいよね」
「あー、はい」
(やっぱり、ライフル射撃競技をやってもらおうかな)
「では折角だから、皆さんにはこれから競技をしてもらいます」
「これで? 競技が出来るのかい?」
「はい。ライフルの競技は、的を狙います。的には中心に近くなるにつれて得点が高くなっていて、どれだけ多くの得点を得るかによって優劣を決めるのです」
俺は、説明しながら的を見せる。地球で使われているライフル射撃競技の標的によく似たものだ。
「なるほど、真ん中にあたれば10点、真ん中からずれていくと1点ずつ減ってゆき、この円の外側だと0点って訳だ。分かり易いね、面白そうじゃないか!」
「1つの標的には、皆さんそれぞれ10回ずつ撃ってもらい、ライフルをローテーションで替えてもらって4つのライフル全てを打ち終わったら集計します。だから最高得点は400点になりますね」
魔道ライフルには若干のバラツキがある。4挺全てのライフルを使った結果で判断すれば不公平は無くなるという訳だ。
「標的までの距離は100マタール。1回撃つ毎にどこに当たったかを確認して微調整すると良いと思います」
作った標的は直径が1m。地球の競技用”ライフル300m標的”と同じ大きさだ。
「今回は陛下が加わりますので、王宮チームとして陛下とレオノール団長。製作者チームとしてトラビンさんとジムの4名で競技してもらいます」
チーム分けはこの場で考えたが、チーム対戦とした方がこの際よかろう。その方が、個人戦より燃えるというものだ。
「レオノールさんとジムは経験者。陛下とトラビンさんは未経験者なので対戦相手としては文句はないですよね」
「ああ、大丈夫だ。何か、ワクワクしてきた。久しぶりに血が滾ってきたよ」
「ジム、相手が陛下だからって、遠慮はするなよ」
「分かっていますって」
「姿勢は皆同じ方がいいので、立射とします」
「りっしゃ?」
「はい、立ったまま撃つスタイルですね、こんな格好です」
「その場で立って構えるんだね、了解だ」
こうして王宮騎士団の練習場を使って、魔道ライフル射撃競技戦が始まった。
そして競技はすべて終了し、標的を回収した俺はそれぞれの点数を集計する。
「集計の結果が出ました!」
採点方法は、地球のライフル射撃のルールに準じている。今回新たに作ったルールだと思わせるには少々苦労したが……
「おお、それで結果は?」
「陛下:184得点、レオノール騎士団長:286得点、王宮チーム合計:470得点」
まあまあの得点ではないだろうか。
「トラビンさん:223得点、ジム:327得点、製作者チーム合計:550得点。よって製作者チームの勝利です!」
ジムは迷宮での経験がものを行っているのは明らかだ。しかしトラビンさんの得点は初心者なのにえらく高い。筋力がある分、ライフルのブレが少ないのだろうか。
「うくーっ、地味に悔しいなー」
「陛下、そのご身分で地団駄とはみっともないですよ、この競技は今後も王宮騎士団で続けていきましょう」
「そうだな。私も、もっともっと腕を磨くぞ!」
(国王陛下はもっと違うところに力を注ぐべきじゃないのか?)
こうして魔道ライフル競技がこの国で広まってゆき、毎年王都で大会が開かれるまでになるのは後々のことだ。
「アル坊、ありがとな。わしも気分転換が出来て良かったぞ。あと30挺、がんばって作らんといかんのう」
(トラビンさんのモチベーションも回復して良かったな)
「ところでジム、魔道ライフルの性能はどうだった?」
「何も問題なかったぞ。4つとも癖は無いし、ほぼ同等の性能だった」
「ありがとう。助かったよ」
(陛下のおかげで、主の目的を忘れそうだったよ)




