第７９話 魔道移転ドアと迷宮
「キメラやサラマンダーが複数いても、この武器があれば問題ないな。このまま進んでもいいんじゃないか？」
「でもここで経験値を上げておかないと、バシリスクの石化魔法が危険かも」
５０階層のバシリスクは目が合っただけで石化が始まるという恐ろしい魔物だ。
「石化魔法って、対処できるのか？」
「調査したところでは、石化の魔法は自分のレベルがバシリスクのレベルより低いときに石化現象が起こるって資料には書いてあった」
今攻略中の４６階層は、Ａランクの魔物が２体以上で出てくる階層だ。
Ａランクの魔物と対等といえばレベル的には４３。経験値は１４０万程度の経験値が必要となる。
みんなのステータスを見てみよう。
―――― ステータスオープン ――――
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名前：アルフレッド（月見里拓郎）
年齢：１７歳（２８歳）
性別：男
経験値：２９１８４２５
レベル：５０
冒険者ランク Ｓ
体力：７０８１／７１８８
魔力：２６／２６
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名前：ジェームス
年齢：１７歳
性別：男
経験値：２２３８３２０
レベル：４８
冒険者ランク Ｓ
体力：９４１２／９４８７
魔力：６／６
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名前：エミリー
年齢：１７歳
性別：女
経験値：２２３３４７４
レベル：４８
冒険者ランク Ｓ
体力：８０９／８６９
魔力：８６５６／９１１９
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名前：ミラベル
年齢：１７歳
性別：女
経験値：２２３３４７２
レベル：４８
冒険者ランク Ｓ
体力：５９８／６７１
魔力：１２７０５／１２７７１
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全員Ｓランクになっているようなので、経験値もおそらくバシリスクより優位だろう。それとレベルが４８という事は、ＳＳランクになるまでもう一息じゃないだろうか。
「全員経験値が着実に増えているだろうから、ランク的にもうＳランクになっていると思う。冒険者ギルドに行ってＳランクになっていたら、５０階層の許可をとろう」
「この階層で、こんだけ沢山の強敵を屠ってるんだから、そりゃ経験値も増えるわな」
一般的なパーティの進み方からすると、こんなに沢山の魔物を短時間で倒しているのは明らかに異常なのだ。
俺たちは宿泊所に戻り、それからギルドに向った。
「リリアンさん、こんにちは。ギルドカードの更新をお願いできますか？」
「はい分かりました。皆さんのカードをお預かりしてもいいですか？」
それぞれに「お願いします」と言いながら、皆カードを手渡した。
「それでは更新しますね。 ……えっ！？」
魔道具のスイッチを押した瞬間、リリアンさんが目を丸くして絶句してしまった。
「リリアンさーん、大丈夫ですか？」
「ちょっと……これ本当ですか？ ……ジムさんも？ え、皆さんＳランク……パーティランもＳランク？ Ａランクになられたのって１カ月ほど前でしたよねぇ」
リリアンさんからすれば、俺たちのランクの上がり方は尋常じゃないのだろう。
通常のパーティならば、最近倒している魔物１体はＳランクパーティでも数時間ほどかけてやっと打倒できるものだ。それを俺たちはほんの数秒で終わらせている。
だから、通常のパーティが１日に倒すことのできる適性魔物の数は、精々３体だというが、俺たちは遭遇する数だけ、走り回れば１日に１００体を超える魔物を倒しているのである。
そりゃ差が出てもおかしくないだろう。最大で通常の３０倍程のスピードでレベルアップをしているのだから。
「ギルド長に、迷宮を攻略して欲しいと頼まれているので、ご期待に添えるように頑張っています？」
「ハァー、皆さんのランクアップスピードは考えられないくらい異常ですし、何で疑問形なんですか。でも本当に無理はしてないんですよね？」
「武器がいいので無理はしてないんです。防具やローブの痛みが無いのが何よりの証拠ですから」
真顔で心配してくれているリリアンさんに、俺は真剣な目を向けて答えた。
早速次の日、ドアを設置したルナ迷宮４６階層に転移する。
「昨日パーティランクがＳランクに上がったことによって、５０階層のボス以降も攻略可能になった。このままこの調子で５１階層までは行けると思う」
「何か私たちって滅茶苦茶なスピードでランクが上がってるんだけど、本当にこれでいいのかなぁ？」
誰かに「ランクは上がったけど、技術が身に付いていない」と言われるのかもしれないが、ステータスを見ると体力や魔力がも確実に増えているので技能も経験値と共にアップしていると思いたいがどうだろう。
「経験値やレベルが上昇しているから、瞬発力や技能も上昇しているはず。でも、無理はしないで行こう。バシリスクが発する石化魔法への耐久力は十分確保しとかないと危ないからね」
「そうだな」
「アクアを召喚してみる」
「えっとミラ、それはどういう事？」
「アクアは石化魔法解除」
ミラは言葉足らずなので誰かの説明が必要だが、水の精霊獣であるアクアセレストを召喚すると、万一石化魔法で石化が始まったとしても召喚獣がそれを解除してくれるのらしい。
石化魔法の根本要素は化学変化である水魔法だ。
人体の組織や細胞を化学変化によって石のように固体に変えるものだから、ミラが言う水の精霊獣に石化魔法を解除する力があってとしても、それは理に適っている。
「分ったミラ、そのアクアセレストって言う精霊獣を召喚できる？」
「やってみる」
「透明なる波紋を、その身に宿す水の精霊アクアよ。我が呼び声に応じ、この地に蘇れ。サモンサーヴァント！」
３ｍほど先に大きな紫色の魔法陣が出現する。魔法陣から発する光が収まるとそこには、美しい鳥の姿をした水の精霊獣が立っていた。
「アクア！」
「ピィーーーッ」
ミラが名前を呼ぶと、透明な水を纏いながらも翼をはためかせて俺たちのすぐ上を旋回した。そして細かい水の粒子が俺たちに降り注ぐ。
「何か、体の疲れが無くなったわ」
「体がスッキリした感じだな」
この精霊獣は、身に纏う清らかな水でパーティ全員の傷や疲れを癒す事も出来るのだという。
魔物が発する石化魔法は万一のことを考えると心配だったが、これで１つ強力な保険を得た事になる。
水を纏ったアクアは上を何周か旋回したあと、ミラの肩に止まった。ミラはその鳥の形をした精霊獣を愛おしそうに撫でている。
（まとっている水は冷たくないのかな？）
「ミラ、ありがとう。これで魔物の石化魔法に対する心配が無くなったよ」
「じゃあ、５１階層行くわよー」
「「「おー！」」」
いつもの俺の掛け声を、エミーに取られてしまった。
