第58話 卒業そして冒険者へ
魔道学園へ戻ったのも束の間、早速ミレーナ魔道科長と共に騎士団長に呼び出された。正確には、王宮騎士団に設置してある魔道レーダー装置のある部屋に呼び出されて、国王様と対面している。
「今回の獣人の森においてのセージトータス討伐は皆、まことに大儀であった。特にアルフレッド君、君は私が期待した通りの働きをしてくれたようだな」
騎士団の中だからか、畏まっているのか砕けているのか良く分からない物言いだ。俺もどう対応していいのか分からないでいると。
「サミュエル、ここは王宮じゃないんだから砕けていいんじゃないのか」
「ハハ、騎士団のみんなには威厳を保たないといけないだろうと思ってな」
「何をいまさら……」
「ゴホン。で陛下、今日はアルフレッド君への報酬の話だったのでは?」
ミレーナ魔道科長の陛下に対する物言いは、誰も咎めることが出来ないようだし、宰相閣下としては話を元に戻すしか方法が無いようだ。
「ああそうだ、今回は騎士団にあのスクロールという魔道具を持たせたので、セージトータスという硬い魔物にもいくらかのダメージを通すことができたし、君が持って行った魔道ビームライフルが無かったら獣人の村のみならずエイヴォンの町にも重大な被害が出ていた可能性がある。そこで、君には王国名誉勲章を贈ることになった。これは昨日までに宰相とも話し合って私が決めたものだ」
(名誉勲章と言われても、いまいち俺にはピンとこないのだが……)
「そんな大そうなものを、こんな学生の分際で戴いてもよろしいのでしょうか?」
「良いのだ。君は王国にとってそれだけの貢献をしてくれた。それを国王が認めたという証を示したいのだ」
「そういう事でしたら、有難く頂戴したいと思います」
「うむ、それであれば良かった。3週間後には魔道学園の卒業式がある予定であろう? その時に一緒に授与式を予定するから楽しみにしておくように」
うわー、卒業式の壇上で授与式なんて嫌だなーなんて考えていると。
「それとだな、毎年主席卒業者は卒業式で表彰されている。今回魔術科の主席はマーガレット王女だが、魔道科の主席はお前だ。ダブル受賞だなハハハハ」
ミレーナ先生、そんな大事なことを本人にしれっと言わないでください。胃が痛くなるじゃないですか。
「俺、卒業式休んでもいいですか?」
「「ダメだ!」」
ミレーナ先生と国王様がハモった。
(気が重いなー)
生徒の数は全学年でも60名足らずだが、王国の重要な行事なので各所からの貴族が出席することになる。
その貴族たちの前で、限りなく目立つ主席表彰と勲章授与が行われるとなると、面倒な未来しか見えてこない。俺は自由に生きていきたいのだ。
「そんな目立つ形でこの国の貴族の方たちに見られると、後々面倒なことになりませんか?」
「ああ、そこを心配しているんだね。今回の名誉勲章はただの名誉勲章ではなくて、王国名誉勲章だ。前に“王国”と付いていることで国王が後ろ盾という意味になる。そんな君を取り込もうと考える貴族がいたら、王国に対する反逆罪だ。安心しなさい」
(ああー、そういう事ですか。安心した~)
……でもそれって、既に俺は国王に取り込まれた、という事にならないのか?
「まあ、そういう事だ」
(どういう事なんですか! ミレーナ先生)
卒業式の前日、魔術科と魔道科の卒業時の成績順位が1位から3位までが講堂入り口の通路の壁に貼りだされた。
魔道科の1位は俺、2位はリンデ、3位はトーリンという男子生徒だ。
魔術科の1位はマーガレット王女、2位はエドワード、3位は何とミラだった。
「アル君おめでとう! やっぱりすごい人だったのね」
「すごいのです!」
近くにいたマリーとアンがおめでとうと言ってくれている。
「ありがとう。でもたまたまだよ」
「私もいい所までいったと思ったんだけどね、上には上が居るもんだわ」
「卒業したら君たちどうするの?」
「私は王宮魔術院に就職が決まったわ」
「私はもっと召喚魔法を極めたくて、召喚術士協会に行くことになったです」
「あ、アルはどうするのよ?」
「俺はずっと冒険者に憧れていたから、冒険者としていろんな場所を回ってみたいと思ってるよ」
「そうなのね、お互い頑張りましょうね」
「君たちも元気でね」
研究室の片付けは、卒業式が終わった後でも可能だが、出来るだけ早いうちに整理をしておきたいから俺は研究室で魔道具の部材の整理を行っていた。
そこへ「コンコンコン」と控えめなノックが響く。
(誰だろう)
「はい、どうぞ!」
「あの、アル君ごめんね、忙しいんでしょ?」
「大丈夫だよ、入りなよ」
「うん、ありがと」
(なんか今日のエミーはしおらしいな)
「アル君、魔道科の主席だね」
「まあ、たまたまね。座学はそこそこだったけど、魔道具の発明がいくつかあってそれで点数を稼いでいるんだと思うよ。エリーは3位までに入れず残念だったけど、結構いい順位じゃないのかなあ」
多分、終業旅行のポイントは高かったと思うんだ。
「私はね、座学がいまいちだったんだ。でもね、この3年間で出来るようになった魔法がいくつも増えたし後悔はしてないんだよ」
「エリーは魔法の方を一生懸命頑張ってたもんね」
「うん」
「……あの、アル君は卒業したら冒険者を続けるんでしょ?」
「そうだな、 ……冒険者を続けるつもりだよ」
「あのさ、 ……私も連れて行ってくれないかな」
「俺もエミーと一緒に冒険者をやれればいいなって思ってた」
「よかった!」
エミーと一緒に冒険者が出来れば嬉しいなって思ってたんだよね。よかった。
「わたしね、孤児院にいる時にはずっと姉弟だって思ってた」
「うん、そうだね」
「でもね、ルノザールの領主館に行って、アル君と離れて暮らすようになってから、アル君がずっと気になるようになってきて」
「うん」
「そしたら、魔道学園でまたばったりと逢って、あの時はとても嬉しかったんだ」
「そうだね、俺もだよ」
「その後はずっとアル君の事ばかり考えるようになってた。これって好きって事だよね」
エミーの気持ちも、ある程度は気付いていた。俺だって全くの鈍感ではないのだ。
「俺も最近遠くに行くことがあったけど、何かあったらエミーの事を思い出していて、いつもそばにいて守りたいって思うようになったんだ」
「そうなんだ」
「そして俺も気付いたんだ。エミーの事が好きなんだって」
「うん……」
「だから、エミーと一緒に冒険者がやれたらどんなにいいかなって、でも、ルノザールの領主様には魔術師として仕えなくてもいいの?」
「それはね、3年間だけルノザールの領地を拠点にして活動すればいいんだって」
「じゃあ」
「ずっと一緒にいたいね」
俺は、エミーの肩に手を掛けて引き寄せた。エミーも腰の上に手を回してくる。
「離れたくない」
「わたしも」
エミーの小さい肩を包み込むようにして俺は更に抱きしめた。いつの間にか自分の肩幅の方がはるかに大きくなっている事に気付いて、余計に愛しさが増してきた。
「ずっと一緒にいようね」
「うん」
「あたしも」
「「うわっ!」」
「あたしも一緒に行く」
横から声がしたので、俺たちは咄嗟に離れた。ミラがいつの間にか部屋に入って来ていたのだ。
「み、ミラっていつからそこにいたの?!」
「えーっと……『好きって事だよね』ってあたりから?」
「えっと、黙って見てたの?」
「話しかけづらかったし、話がまとまるのを待ってた」
(ずっと見られてたのか! 全然気付かなかったぞ)
「恥ずかしいじゃないの、もっと早く声かけてよ」
「エミーたちがお互いに好きなのは知ってたし、別におかしい事じゃない」
「ふぅーーー」
ミラの言葉に、俺たち二人は気が抜けていった。ミラはいつでも平常運転だ。
「ミラも一緒に行くか?」
「そうする」
「エミーもいいか?」
「もちろん!」
嬉し恥ずかしのハプニングがあったが、3人はルノザールの街を拠点にして冒険者を行う事に決めたのだった。
本話で第四章が終わりです。
あっという間だった魔道学園での3年間、色んな人たちに出会う事ができました。
第五章では、冒険者になろうと決めた3人が、ルノザールを拠点に冒険者を始めます。
今後も作るであろう、新しい魔道具はどんな魔術を発するのか。
やっぱりあれは必要ですよね……。どうぞご期待ください。
ここまでお読みくださって本当に有難うございます。
次も読んでみようと思われましたら、ブックマークやいいね、そして評価ポイントが頂けるととても嬉しいです。




