第163話 未来を重ねて
小恥ずかしい即位の挨拶が済むと、宮殿に詰めかけていた全国の貴族から盛大な拍手が巻き起こった。
アルセリアだけではなく、グランデールからも見知った人たちを招待しているからその数は結構なものだ。
「あんな挨拶で本当に良かったかな?」
何しろ、アルフレッドとしてこんなに大勢の人たちの前で挨拶をすることはこれまで無かったし、月見里拓郎の記憶にも中学校の時の弁論大会で全校生徒に向けて喋ったくらいしか経験が無かったのである。
「堂々として、立派だったわよ! 今までのアルじゃない人みたいだった」
隣にいるエミー……いや、エミリー王妃に確認すると、そんな言葉が返ってきたから少しだけは安心できた。
「こんな衣装だから、少しはましに見えたかもね」
「アルは本当に凛々しくて格好いいわ」
俺とエミーは結婚の儀と戴冠の儀を一緒にするからどのような衣装で臨むのが良いかいろんな人に聞いた結果、俺が今着ている服は赤を基調とした正装だ。
コテコテに勲章を貼り付けるのが嫌だったので、勲章は付けないと駄々をこねたのだが、「全国に貴方様の姿が放映されるのですから、何も付けない訳にはいきませんよ」と宰相に言われたので最低限の勲章だけを付けている。
「エミーも奇麗だよ」
エミリーはというと、結婚の儀で着る真っ白なシルクの生地に刺繍が施してあるドレスを身に付けている。通常では戴冠式といえば国王だけ戴冠するものであるが、今回はエミーも一緒に戴冠の儀を受けている。
エミーの冠はというと、エミーの銀色の髪に合うような色とりどりの宝石が散りばめられた鮮やかに光り輝くティアラだ。
「国民に確りと王として認めてもらうためには、今後の行動次第かな」
「私も頑張るからね」
儀式が終わると、次に待っているのが祝宴だ。
これまでは何とか熟さないと、この国の新しい国王としての対面が保たれない。
アルセリアの王宮は立ち入り禁止になって長い時間が経っていた。かなりの埃が堆積していたが、人が入らなかったので内部の装飾や置物が当時のままの姿で保たれていた。
俺たちが地方を回っている時に、ロビンソン伯爵が改修工事を行ってくれて、本日の儀式に間に合わせてくれたのだ。
「私の両親も、ここで戴冠式と祝宴を行ったのかな」
「多分そうだろうね、年配の貴族に聞いたらきっと覚えているよ」
今日呼んである貴族の中には、エミーの父親が戴冠した時に居合わせた者もいるだろう。
「みんなが祝辞を言いに来るから、その時にでも色々聞けると思うよ」
予想した通り、昔からこの国でアルセリア国王に仕えてきた貴族は皆涙を浮かべて祝辞を述べていく。中には号泣する者まで出る始末だ。
22年前、まさにこの場所で第十一代国王とその王妃に祝辞を述べた。その場面とまったく同じに映っているのだという。
きっと彼らには、我々には計り知れぬ様々な思いが交錯しているに違いない。
ほとんどの貴族たちが祝辞を済ませたと思う頃、俺たち二人は宴会場から退席する事になった。
俺たちの護衛を務めるのは、このアルセリア王国の王宮騎士団長であるジムとその部下たちである。
また、ミラについては王宮魔術師団長として、この国の魔術師たちの頂点を務めてもらうことになった。
どちらもレベルや力量については申し分ないのだが、まだまだ若いが故に経験不足の感は拭えない。これまでの経験者に支えてもらいながらのスタートだ。
「ジェームス・キングストン団長、宜しく頼む」
「お……はい」
おまえ今、「おう!」って言いそうになってなかったか?
ジムとミラは、王宮騎士団長と王宮魔術師団長を務めてもらうにあたり、子爵という爵位を叙爵した。
いきなり子爵か? と言う輩もいるかもしれないが、この国の国王と王妃をここまで一緒に支えてきているのだ。誰にも文句は言わせないぞ。
「グランデール国王陛下と王妃様はこちらへどうぞ」
俺は応接の間にグランデールの国王陛下とスカーレット第一王妃殿下を招き入れて、お礼の言葉を述べようと思っていた。
「陛下、これまで色々とご教示を賜りまして誠に有り難うございました」
「全てが滞りなく終わって良かったですね、アルフレッド陛下……てもう、ここには誰もいないから畏まらなくていいんじゃないか?」
「ふふっ、そうですね」
部屋の外には、両国の騎士団長と宰相を務めてもらう事になったリュシアノス公爵が控えている。彼らなら、俺たちの砕けた喋りが外に漏れ出ても問題は無いだろう。
エミーはミラと共に、今頃は離宮の居間でくつろいでいる筈だ。
「ところでアル君」
「まあ、貴方ったらこの国の国王様に対してまるでお友達の様な口調をなさって……」
「いいんですよ王妃様。で、いったい何でしょう?」
サミュエル陛下とは、これまでも他人がいない時には散々砕けた会話をしてきたが、第一王妃様がその場にいた事は稀だった。それぞれの国王がこんな友達の様な話し方をするなんて思っていなかったのだろう。
「うちのメグを君の所に嫁がせたいのだが、いいよね?」
「へいっ?」
驚いて変な声が出てしまった。
「あなた! そんな急に……アルフレッド様がビックリしてらっしゃるじゃないですか」
「えーっと、何でなのかお聞きしても?」
「いきなりで悪かった。実はね、グランデール内ではアルセリア王国との関係性を心配する声もあるんだ。グランデールの王女が君と婚姻を結ぶ事でそれが払しょくできるし、何よりも、うちのメグは君にゾッコンらしいよ。ねえ?」
「ええ、私にも良く分かりますわ」
彼女が賊に攫われたときに俺が助けに行った事があった。王妃様の話を聞けば、その時から彼女の素行が変わったのだという。
「でも、彼女は王宮の通路でお会いした時なんか、下を向いて話もしてくれなかったんですよ?」
「あらまあ」
「それはあれだよ――」
「恋する乙女はね、愛しい人の前では息が出来なくなるほど鼓動が高鳴る事もありましてよ?」
王宮で俺を見かけると、下を向いたまま通り過ぎていたのがそんな訳だったと?
「でも、彼女は王女として他国への政略結婚もあり得る……アルフレッドさん以外の人と結婚しなければならないかも知れない、ずっと自分の気持ちを押し留めて暮らしてきたのですわ」
「最近はメグも痩せちゃってね。そんな彼女を見ていたら親として居た堪れないんだ。君もメグのことは嫌いじゃないだろ?」
「勿論嫌いじゃないですけど、私は今日、エミーと結婚したわけで……」
メグのことはあれからずっと気になってはいたけれど、俺は今日エミーと正式に結婚して国民に祝福してもらい、そして国王にもなった。そう、国王になった……?
「君も国王になったのだから、第2夫人や妾を持つことに誰も咎める者はいない。それらの子も出来るだろうが、そこはエミリーの子だけが王位継承権を持つと継承法に記載すればアルセリア派の面々は文句を言わないと宰相殿にも確認しているよ」
「いやいや、エミーは絶対いやだって言いますよ」
周りの人がそれを許したとしても、エミーはそれを嫌悪する筈だ。
「ああ、勿論エミリー君も承知しているさ。うちのメグとは仲がいいからね。メグが第2夫人として嫁いできてくれれば自分が知らない王室の決まり事や貴族との付き合い方を教えてもらえるって喜んでいるらしいじゃないか」
なんと! 外堀はもう埋まってるじゃないか! 今まで俺は、本丸で何をしていたんだ……
「勿論すぐにと言っている訳じゃない。君たちに子供ができてからでいいと思っているんだ。君が国王になったらこの話をして、メグを早く安心させてあげたかったんだよ」
最後に会って話したのは船の進水式の時だったか? あの時はふっくらしていたと思うけど、それが痩せるほどに思い悩んでいたとは……。
「分かりました。エミーと相談して返事を致します」
「有難う、助かったよ」
◇◆◇
グランデールの国王様ときたら、通常は他国の王宮に呼ばれたら宿泊するものであるが、メグに早く話してあげたいからと魔道ドアを通って自分たちの王宮に帰って行った。
まだ、返事をしていないのに……。魔道ドアも良し悪しだな。
「エミー、今日はお疲れ様」
「沢山の貴族の皆さんと話をして、やっぱり王妃になるのって大変だなって思ったわ」
「俺も。全ての貴族の名前と顔が一致しないよね」
「やっぱり、メグにも早く来てもらった方がいいかも」
「うっ!」
エミーのいきなりの発言に、一瞬息が止まってしまう。
「どうしたの? グランデールの陛下からは話があったんでしょ? 私は賛成だよ?」
「そ、そうなのか? ……でも……俺は暫くの間はエミーと二人で頑張っていきたいんだ」
「アル……ありがとう。 私も頑張ってみるね」
「暫くはエミーと一緒に考えていきたいから」
「分かったわ。でも、私に子供が出来たら……その時は、メグを娶ってあげてね」
「分かった」
俺たちにできる事を、この国の人々が豊かに安心して暮らせるような未来を創るために、俺たちに何ができるかを、じっくりと考えてみよう。
俺はエミーの肩を抱き寄せながら、窓から覗く三日月にこの国の未来の様子を重ねていた。
第一部 あとがき
これでこの物語は第一部完結です。
これまでの流れからお気づきだと思うのですが、この物語は魔道具や魔法を自由奔放に作り出していくのと同時に、幼馴染4人の絆を大切にしながらそれぞれのルーツを探し求めていくという物語でもあります。
この第一部で、エミリーのルーツだけは明らかになりましたが、未だ他の3人は明らかになっておりません。第二部ではこの3人のルーツを探し求める旅が始まります。
しかしながら、第二部については十分な原稿をストックする為に暫く時間を頂きたいと思っています。そこで一旦は完結という事に致します。
第二部が書きあがった際には、何らかの形でまた投稿を開始したいと思っています。もし、評価やブックマークなどを頂けたならば作者の気力が上昇し、投稿が早まるかもしれませんので、どうか宜しくお願致します。
最後に、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。




