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第162話 アルセリア王国再建

 ドラゴンの幼女フィンリアンは、なかなか人化の魔法が成功せずにお前は落ちこぼれだと一族に言われ、居たたまれなくなって家出をしたのだという。


「それじゃあ、私がかけたエクストラヒールの魔法を利用して人化を成功させたって事なのね?」

「そうなのじゃ! エクストラヒールをかけてもらうと人化が容易になるのじゃ」


 それで、エミーが俺にエクストラヒールをかけたところを見て、自分にもやって欲しいと懇願してきた訳か。


「それだったら、次もまたかけてもらう必要があるんじゃないか?」

「それはもう、大丈夫なのじゃ。一度できると、次からは簡単に出来るようになるのじゃ」


 一度成功すると魔法回路が身体のどこかに完成するって事だろうか? それはドラゴンの特質なのか? そもそも人化って何で?

 いろんな疑問が頭をよぎってゆく。


「ところでお主らは何でここに来たのじゃ?」

「何でって……この山にドラゴンが住みついているらしいから調査してきてくれって頼まれたんだよ、ふもとの町の代官に……? いやいや、実は別の目的があって来たんだが……」


 ドラゴンのブレスが強力過ぎて死にそうな経験をしたせいか、アンテナを建てる本来の目的を忘れていたじゃないか。


「うむ、わらわは人化が出来るようになったから家に帰る。調査の件はそれで良いとして、別の目的って何なのだ?」

「……アンテナをここに建てるんだ」


 このドラゴンに話してもいいのか少し躊躇したが、まだ子供のようだからいいだろう。俺がこの国の国王になる時の映像を広く国民に見せたいのだと話した。


「何と、そなたが国王になると言うのか?」

「まあ、そんな感じだな」

「どおりで強いはずなのじゃ」


 何やら勘違いをしているようだが、面倒なので訂正はしないでおこう。恐らくだが、ドラゴン族の頭の中では(いちばん強い=王)なのだろう。


「それじゃあ、わらわは家に帰ろっかの! あ、そうじゃ。おぬしらの名前は会話の中に出てきたから分かっとるが、わらわの名前を言うとらんかったのじゃ」

「名前は、フィンリアンだろ?」

「そなたたちの呼んでおった名前は愛称じゃろ? わらわも愛称で『リアン』と呼んで欲しいぞ」

「分かった、……リアン」

「やったー! わらわは嬉しいのじゃアルよ!」


 パッと花が咲いたような笑顔を見せる幼女。でも何か、少し面倒くさいドラゴンだな。

 人化して、それも小さな幼女姿になっているせいか、ついさっきまで命のやり取りをしていた相手だとはとても感じられない。


「人化の手助けしてくれたお礼は、また改めて行うのじゃ」


 そう言うと彼女は、人化を解いて元のレッドドラゴンの姿に戻り、東の空へと飛び立った。


『ドラゴンは約束を守るぞ。ではまたな!』


 そして、空中で振り返り、気になる念話を残していった。


「まったく、人騒がせなドラゴンだったな」

「私たち、死にかけた」

「アルの手も、良かったよね! 元通りになったから」


 エミー達がエクストラヒールを覚えていなかったら、俺の手は元には戻らなかっただろう。服の袖は焼けて無くなったが、きれいに再生できた腕を見てエミーに感謝した。


「ああ、ありがとうエミー。助かったよ」



 俺たちも魔力波アンテナを頂上に建てると、キプリア山から早々に引き上げてノレンスの町に戻った。



「それで……ドラゴンが住みついていたと言うのは本当だったのでしょうか?」

「ああ、本当だったよ」

「そうでしたか……それでは、私たちはどうしたら良いのでしょうか?」

「何もしなくていいぞ、あいつはもう東の大陸の方角に飛んで行ったから」

「おお! 左様でございましたか。それは良かった!」


 さすがに、あのドラゴンが家出娘だったとは言えないから、攻撃したら逃げて行ったと説明しておいた。


◇◆◇


 その後の1カ月間は、隠形の魔道具を元に開発した魔道スクリーンを多数生産した。主要な都市や町に設置するだけでもかなりの量を作らなければならなかったのだ。

 町の広場に台を作って設置すると、旧式のLED巨大スクリーンと言った感じだろうか、遠くからでも映像がよく見える。


 各所への設置は、各領主にリュシアノス公爵が掛け合って設置をしてもらった。出来るだけ沢山の人々に集まってもらわなければならないので、その方が人を集めやすいと判断されたのだ。



「全てのスクリーンの設置が終わりました」

「いよいよあと一週間だね」

「考えるだけでドキドキするようになってきました」


 戴冠式の後には、国王としての演説が待っている。これを考えるだけで、心臓の鼓動が早くなってしまうのだ。


「大丈夫、大丈夫。君ならうまくやれるよ」

「そう言われるのが一番のプレッシャーなんですよ!」

「悪い悪い、一週間後というのは逃げずに必ずやってくる。だから一週間後には全てが終わっているよ。そう考えると楽になるだろう?」

「何ですかそれ!」


 俺は即位演説の内容について教えを乞うために、グランデール国王が即位した時の事を聞きに来ていた。

 どこかの政治家の施政演説の様に長々と話すのかと思っていたら、演説は簡単でいいらしい。

 確かに一週間後には全てが終わっているだろう。泣いても笑ってもあと6日間なのだ。


「こんなところでいいでしょうか?」

「いいんじゃないかな」


 この王様、他人事だと思っていい加減に読んでるんじゃないか? もっとこう、赤ペン添削などをして欲しかったのだが。


「大事なのは、君が堂々としている事だよ」


 何を言うかなんてよっぽど変な事を言わない限りどうでもいい。大切なのはその国の王として堂々とした態度で臨む事なのだと。


「もう既に、君の武勇伝は独り歩きしているからね」


 もしかしたら巷を賑わしている噂話、この人が流しているのではないだろうか? ある事も無い事も。


◇◆◇


 そして一週間はあっという間に過ぎ去り、エミーとの結婚式と我々の戴冠式の合同式典が始まってしまった。

 その模様は一斉に街頭の魔道スクリーンに映し出されている。


「親愛なるアルセリアの国民の皆よ。我、サミュエル・ブラッドフォード・グランデールは、ここにおられるアルフレッド・ノーマウント侯爵が、第十一代アルセリア国王であられたアレクサンド・アルセリアが娘、エミリー・リュシアノスを伴侶として迎え入れ、アルセリアの新しい国王として戴冠されることに同意した。我がグランデール王国と同盟を結んだアルセリア王国の再興ができる事は、我にとっても大慶の至りである」


 アルセリア王国の継承法では世襲王制をとっていたため、直系の子孫が途絶えたアルセリア王国は20年前に謀反によって滅んだとされていたが、子孫が生き延びていた事で再興ができる運びとなった。


 グランデール国王からの挨拶が終わると、結婚式と戴冠式の模様が厳かにスクリーンに映し出される。


 旧アルセリア王国から続いてきた教会の大司教によって結婚の儀と戴冠の儀が厳かに執り行われ、アルセリア国全土に発信された。


 国王になったとは言うが人口は約16万人。記憶にある月見里やまなしが住んでいた世界では小さな田舎都市の人口ほどしかない小さな国なのだ。

 しかし、小さな国ではあるがその頂点に立つのだからプレッシャーで足も震えるし額に汗も掻く。


「親愛なるアルセリアの皆さん、私は、アルフレッド・ヤマナシ・アルセリアと名前を改め、あなたがたの新しい国王として戴冠することができたことを誇りに思う。そして私はこの責任を受け入れるにあたり、今ここで全国民に対して心からの誓いを立てようと思う」


 国王になるにあたり、俺は名前を改めた。グランデール王国で上位の貴族にだけ許されるミドルネームに月見里やまなしを入れたのだ。

 不思議なことに、ヤマナシの名前を口にした途端に意識もスッキリし、足の震えも収まってきた。


「この国はこれまで困難の中にあり、試練を乗り越えてきた。しかし、今日は新たな始まりである。私は、エミリー王妃と共に、アルセリアの繁栄と平和を守るために全力を尽くすことをここに誓う」


 この国の何割の人が今、俺の言葉を聞いているのかは分からない。

 しかし、決して上からの目線ではなく、国民と向き合ってこの国をもっと良くしていきたい。そんな俺の気持ちが、民へとちゃんと伝わっていればいいのだが。


「私たちの使命は、この美しい国をより良い場所にすることであり、その為に、私はあなたがたの声を聞き、あなたがたの希望を実現するために努力しよう。私たちは共に歩み、共に成長し、共に未来を築きたい。私たちの力を結集し、一緒に前進しようではないか!」


 22歳の春、俺はアルセリア王国の第十二代国王になった。

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