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第160話 ヤツの弱点を

「うぐっ……。ジム、これを……使って……攻撃してくれ」


 左手の激しい痛みに耐えながら、俺は懐から魔道ビームライフルを取り出した。

 血管も焦げて塞がっている為か出血が殆ど無いのは救いだ。


「よし、分かった!」

「みんなにも……」


 あと2つのライフルを取り出して、ミラとエミーにも差し出す。


「アル! その手を早く治療しようよ!」

「今度またあのブレスが来たら一巻の終わりだ! その前にアイツを何とかしないと! 治療はその後に頼む!」


 エミーは心配そうに俺を見ていたが、小さく頷いて魔道ビームライフルを受け取ってくれた。


「俺は、これかな。では、みんな撃ち方始め!」


 左手が使えない俺は、右手だけで扱える魔道ガンを持って構える。

 負傷したのが右手だったらこれも持てなかったところだ。


 しかし、俺たちが幾らビームを当て続けても、光沢のあるレッドドラゴンの赤い鱗には傷ひとつ付ける事が出来なかった。

 セージトータスの時の様に反射している訳でもなく、軍艦の様にビームを吸収してダメージを受けている様子もない。


「軍艦の装甲より強靭だっていうのか?」


 こいつは、迷宮の50階層に出てくるワイバーンとは全く格が違う。


「アル、鱗の魔法陣が防御」

「えっと、鱗が魔法を防御……してると?」

「だから、魔法が通らない」


 ミラは、鱗に防御魔法陣が刻まれているのが判るのか?


 魔道ビームはサンダーボルトの応用なので魔法と変わらない。しかし、ガンの出力はファイアボールを高速で撃ちだすので物理攻撃の要素もあると思っていた。

 しかし、俺が魔道ガンでいくら撃っても、スッと吸収されてしまって音も出ていない。


「魔道ガンのファイアボールでもダメだ」

「どうするの?」


 20mほど先のレッドドレゴンは、その巨体を鎮座させて動きもせずにこちらを睨みつけたままだ。恐らく、次のブレスで間違いなく俺たちを消す事が出来ると考えているのだろう。


「じゃあ、俺の魔道大剣の出番だな」


 そう言って、ジムは大剣を両手に持ち替えて構えた。


「ジム、無茶はするなよ」

「ああ、こいつが通用するかどうかも微妙だしな! いくぜ!」


 ジムは大剣を両手で持つと、相手の足元に向かって走り距離を詰めた。

 それをじっと見ていたドラゴンは、前の片足を引いたかと思えば鋭い爪で横からジムを薙ぎ払おうとした。


「ジム! 危ない!」


 しかし、そう叫んだ時には軽くジャンプした後であり、ドラゴンの前足での攻撃は宙を切っていた。

 そしてジムは着地すると同時に、魔道大剣を横に構えてダッシュする。


「せいっ!」


 ジムは前足の攻撃をうまく避けきって、もう片方の足に向かって大剣を横なぎに振るっていた。


「入ったか?」


 しかし、キーンというかん高い音とともに、魔道大剣はドラゴンの鱗に阻まれて動きを止められてしまっている。


「ダメだ! 刃が入らねえ!」


 あの魔道大剣でも、かすり傷しか付いていない。

 メタルゴーレムでさえバターを切るかのように両断できる魔道大剣が、レッドドラゴンの鱗を前にしてまったく効き目がないのだ。


「ジム! いったん戻れ!」


 ドラゴンは空振りした前足を、そのまま上に上げると再び鋭い爪先をジムに振り下ろしてきた。

 ジムはサイドステップで交わした後、すぐにバックステップに切り替えて距離をとった。


「ダメみてーだな」


 ドラゴンは、大剣で付けられた小さな傷をまるで蚊から刺されたかのように摩っている。


「何か考えないと! ドラゴンの弱点は何だ?」


 俺はセージトータスの時のことを思い返した。

 ドラゴンのブレスは口から出る時に熱せられる……もしかして、セージトータスの火炎もそうだったのか?


「ねえ、エミー。ドラゴンのブレスは口から出る時に熱せられるんだよね」

「そう聞いたわ」

「じゃあ、喉を通ってくる息は、温度は高くないんだよね」

「多分……」


 ドラゴンの弱点も喉しか無さそうだ。口を開けた一瞬の可能性に賭けるしかない。


「みんな聞いてくれ……ドラゴンに弱点が有るとすれば恐らく喉だと思う。次のブレスを吐く直前に口を開くはずだから、その時に皆で喉に集中してビームを打ち込むぞ」

「「「分かった」」」


 俺の左手がズキズキと痛むのが辛いが、治療するのはこの方法が上手くいった時……暫しの我慢だ。


 お互い微動ともせず暫くの間にらみ合いが続いたが、やっとドラゴンの動きに変化が現れた。

 ドラゴンの高温のブレスは、恐らくかなりの魔力を消費している。

 1回のブレスを吐き終えると、次にブレスを吐くまでに魔力の充填が必要だったのだ。


「次がそろそろ来るかも、みんな用意して」

「おう」

「分かってる」

「用意してる」


 思った通り、息を吸い始めたドラゴンの腹は次第に大きくなっていった。

 口は開いていないので、鼻の孔から息を吸っているのだろう。


「吸うのが終わりそうね」

「そろそろか?」

「口を開けてから、ブレスを吐くまでの一瞬が勝負だから、確実に狙うよ」


 お腹のふくらみ方が止まった。


「口が開く!」

「今だ!」


 俺たち4人は、一斉にレッドドラゴンの口の中に向けて魔道ビームを発射した。


「ぐおぉぉぉぉぉ!」


 ブレスを吐こうとして口を開けたところに喉を集中攻撃されたドラゴンは、叫び声にも似た低い唸り声を発している。

 ドラゴンが口を閉じようとしても、吐き出そうとした息が出口を求めて肺から押し寄せるためどうにも閉じる事が叶わない。

 ドラゴンは、初めてぐぐもった声を出しながら悶えだした。


『参った! 参ったからやめてたも!』


 ん? 突然、頭の中に変な声が聞こえる。

 誰だ? そう思って他のみんなを見ると、みんなも同じように目だけをキョロキョロとさせている。


『もうブレスは吐かないから! 約束するからやめてたもー!』


 少女のような可愛らしい声だ。


「誰?」


 頭の中に聞こえてくる声の主が誰かと聞いてみる。


『わらわじゃよ、ドラゴン! 目の前のレッドドラゴンがわらわなのじゃ』


 やはり、このドラゴンが人間の言葉を喋っているようだ。

 そして、それも念話で。


「もう、俺たちに危害は加えないのか?」


『加えない! 誓うから、はよやめてたもれー!』


 このドラゴンの切羽詰まった念話を聞いていると、俺たちを騙しているようには感じられない。

 それに、俺たちの攻撃をこのまま続けたとしても、このドラゴンを倒す事は出来ないだろう。言う事を聞いてみようか……


「分かった、みんな攻撃中止」

「いいのか?」

「大丈夫」


 ミラの同意もあって、俺たち4人は攻撃をやめて様子を見る事にした。


『のどがいだいよー』


 レッドドラゴンは、喉に前足を当てて上を向いているが、念話で察するに俺たちの攻撃は確実にこいつの喉を傷めつけていたようだ。


「お前は何でいきなり攻撃してきたんだ?」

『だって、いきなり目の前に飛んで来たのじゃ、誰だって敵だと思うじゃろ?』


 このドラゴン、少女のような声だし、変な言葉も使ってくる。


『いきなりブレス吐いたのは悪かったのじゃ……しかし、ドラゴンのブレスに堪えぬいた人間族は初めて見たのう』


 そりゃそうだろう。俺が作った魔道具の盾が無かったら、俺たち全員が一瞬のうちに消し炭さえ残らなかったぞ。


『わらわも初めてじゃ、人間に攻撃されて痛いと感じたのは』

「ねえ、あなた……その喉の痛みは自分で治せないの?」

『治せないのじゃ……わらわは落ちこぼれだから。みんなと違っての……』

「じゃあ、私が治してあげるわ」


 エミー?

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