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第158話 キプリア山

 覚悟を決めてからの時の流れは速かった。

 渦中の人なんて言葉は生ぬるい。俺とエミーは、周りも含めた大きな奔流の中心を流されていった。


 今では旧アルセリア王国内の主要都市の領主館にもルビオンが設置してくれた魔道ドアがあるし、魔道宅配便も設置されているので人や情報の流れが速い。


 ベルモントから発せられたリュシアノス伯爵からの文書は、全土に散らばったアルセリア王派のメンバーへと瞬く間に伝えられ、すべての賛同が得られたのである。

 そしてそれは血判状の様な重みのある文書に纏められてリュシアノス伯爵に返されてきた。


「私は今からこれを持ってグランデール国王に掛け合ってくる」


 そう言って伯爵が、魔道ドアからグランデール王宮に飛んでいったのは今朝の事だった。


「アルフレッド君、君を連れてきて欲しいとの事だ」


 そう言って帰って来たリュシアノス伯爵は、午後からまた一緒に行こうと言う。

 暗い顔ではなかったから少し安堵はしているのだが、どうしてこんなに速い展開で事が進んで行くのかが分からない。



「久しぶりだね、アル君」

「えーっと、お久しぶりです」

「君もだいぶ彼方此方あちこちをまわったんだってねえ」

「ええ、まあ」


 グレンデール国王の口調は、以前と変わっていない。


「リュシアノス伯爵から、旧アルセリア領を独立させて、君をその国王に推薦したいという話を聞いたよ」

「は、はい」


 やはり、単刀直入に切り込んでくる。


「もともと私はそのつもりだったんだ」

「えっ?」

「君がカルトール公国を無血降伏させたときから、私はそう決めていたんだ」


 何故その時に決めたのか。


「国を取るって事はね、少なくない血が流れるのが常なんだ。それは多かれ少なかれどこかに禍根を残すことにつながる。でも、君はそうしなかった。選択肢はいくつもあっただろうにあの方法を選んだという事は、君があの国の国民を大切に思っていることの表れだと感じたんだ」


 間違いじゃないだろう? と陛下は俺を見て微笑んだ。


 確かに、エミリーの母親が愛した国民だから無駄な争いは避けたいという気持ちはあった。しかし、単に人の血が流れるのを忌み嫌うという自分がいたのも有ったかも知れない。


「だから、君をアルセリア領の領主に任命した。ロビンソン伯爵をそのまま置いて君を領主にしたのも、君にもっとあの国のことを知って欲しかったからなんだ」


 そこまで考えて任命したとは知らなかった。すべてはグランデール陛下の手のひらの上で踊らされていたという訳か。


「しかし、お膳立てはここまでにするから、これから先は君の手腕だけであの国を盛り立てていってくれないか。まあ、あまり心配しなくとも、ここにいるリュシアノス伯爵のように優秀な家臣が何人も揃っているから、君が何もやらなくても回っていくだろうさ」

「はあ……」


 リュシアノス伯爵やロビンソン伯爵は、おそらく協力を惜しまないと思うが、他の貴族たちはどうだろう? ハルス地方は?


「ハルスのエイヴォン侯爵はどうなるのでしょうか?」

「引き上げるよ。かつてあの領地を治めていたのは、フェリックス・ハミルトンというアルセリア王派の貴族だったはずだ。ねえ、リュシアノス卿」

「ええ。彼は今、人魚島でくすぶっていますが、アルフレッド君がエミリー王妃とともに国を再建してくれると聞いて大いに歓喜した一人ですよ」


 テルミナやノクターナの町についても、アルセリア王派の貴族が没落させられて島に引きこもって暮らしている。今まで燻ってきたこれらの貴族に火をつけてやれば、激しく燃え盛ってくれることに間違いないとリュシアノス伯爵は言う。


「さて、アル君をどの様にして国王に担ぎ上げるか……だな」

「グランデール王国の侯爵になってもらって、独立してもらうというのはどうでしょう?」

「それだけだと、エミリー君の立場が難しいのだ」

「では、我がリュシアノス家で養女として迎えた形でアルフレッド国王に嫁いで頂く様にしたが良いでしょうな」

「ではその前に、貴殿を公爵に戻すとしよう」

「有難き幸せ」


 何だか、勝手に俺の周りで事が決まって行ってしまうが、この二人の会話に俺が入れる隙間がない。


「あとは……どうやって国民に広報するかだが……」

「彼の戴冠式や、エミリー君がお妃であって元アルセリア王の娘であることを広報し、アルセリア王国を復活させることを全国土に知らしめなければなりませんからな」

「うーん、何か良い手立てはないものか……」


 これまでは新聞のようなもので広報していたのだが、今では通信の魔道具があるから……


(ちょっと提案してみようか。俺だって話に加わりたいし)


「それだったら、各主要都市の広場に大きなスクリーンを設置して、戴冠式の様子や国民への呼びかけなどをリアルタイムに放送してはどうでしょう?」

「大きなスクリーン……とは?」

「放送?」

「このような物です」


 旅の間に使っていた、隠形の魔道具を取り出して『これに映し出す映像を戴冠式などの映像にすればいいのです』と説明した。


「こんなものまで作っていたのか!」

「これは……」


 いちいち驚いていただけるのは嬉しいが、無視して先に進もう。


「旧アルセリア王国は国土の真ん中にキプリア山がそびえていて、そこからの見晴らしはとてもよいはずです。ここに魔力波のアンテナを建てれば、全国への映像配信が可能だと思うのです」


 あの国のどこからでも、キプリア山の頂上が見えた。という事は、頂上にアンテナを建てれば全国土に向けて放送が可能なはずだ。


「うーむ、良く分からんが何となく分かった、其方そちらはアル君に任せるとしよう」

「我々は、それぞれの領地で根回しだな」


◇◆◇


 地球では昔テレビ放送というものがあって、それには電波というものを使っていた。そして、この世界には電波と同じような動きをしてくれる魔力波というものがある。

 魔力波も電波同様に、アンテナを使って送受信ができる事は既に分かっているのだ。



「キプリア山には、ノレンスという町から登る事にするよ」

「ノクターナから登るのより早いの?」

「サンドモービルでノクターナから登るほうが早いんだろうけど、登山道が無いので山頂の情報が得られないと思うんだ。でも、ノレンスには登山道があるんだよね」


 キプリア山の西側にはノクターナの町があるが、途中には樹海の森があって登山は出来ない。それに対し、キプリア山の東側にはノレンスという町があって、こちらには登山道があるから山の情報も多いはずだ。


「魔道ドアはルビオンに設置してもらっているから、すぐにでも行けるしね」


 山にはサンドモービルで登る。さすがに歩いたら3日はかかるだろう。

 ノレンスの町はグレゴリ男爵というアルセリア派寄りの貴族が代官を務めている。


 先ずは、グレゴリ男爵に挨拶に行って山の情報を仕入れる事にした。

 アンテナや魔石充電用の太陽電池が設置できるスペースがあるのかどうかや、風が強いならばそれなりの機材をそろえて登る準備をする必要がある。



「アルセリア地方の領主となりました、アルフレッド・ノーマウントと申します」

「はは、ようこそお越しくださいました」


 俺とエミーの二人で訪ねたノレンス代官所では、職員全員で出迎えてくれたかと思えば、グレゴリ男爵を含む全員が俺に跪いた。


「グレゴリ男爵、どうか頭をお上げください。リュシアノス公爵に私たちのことを何かお聞きなのですか?」

「ははっ、次期アルセリア国王と王妃様になられるお方が訪問されると聞き及んでおりまする」


 やってくれたな、リュシアノス公爵。


「まだ国王ではないのだから、そのように畏まらないでください」

「いえ、そのような訳には参りませぬ」


 やりにくくなったな。国王になったらどこに行ってもこうなるのか? いっそ、お忍びという事にすればどうだろう?


「今日はお忍びですから」

「ははっ」


 そう言って、職員や使用人たちを退席させた。本人はまだ跪いたままだ。


(しょうがないな)


「私たちはこれからキプリア山に登りたいのですが、山の情報を聞きたいのです」

「おお! さすがにお耳が早い! もうお聞きになられたのですね!」

「ええーっと、なにを?」

「えっ? もちろんドラゴンの事でございますが……」


 えっと、山の情報を聞きたいのにドラゴンがどうしたんだって?

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