表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/163

第155話 友人の願い

 俺は大急ぎで靴を脱ぎ捨て、海に飛び込もうとした。エミーが何者かによって海の中に連れ去られてしまったためだ。すると、その時!


「マリア! マリア! マリアー!」

「うわっぷ! うわっぷ!」


 水面から何とか頭を出したエミーに頬ずりしているのは、薄い青色の髪をした同年代の女性だった。

 泳げないエミーは、手をバタバタとさせて必死に息をしようとしている。


「マリア! どうしたの? 泳げなくなったの?」


 どうやら、エミーのことを母親のマリアさんと間違えているようだ。


「その人はエミリー、泳げないから!」

「え? マリアじゃないの?」

「マリアさんの娘さんだよ! 泳げないから抱えてあげて!」

「ええーっ! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 人違いだと分かったら、その女性はエミーを優しく抱き上げて元の椅子に戻してくれた。


「ふーっ、ふーっ」

「ごめんなさい。マリアじゃなかったのね? 大丈夫?」


 何と! その女性には足が無かった。いや、足ではなかった、が正しい。

 びしょ濡れになったエミーはまだ動揺が冷めやらぬようで、息が荒い。


「だ、大丈夫だけど……あなた……人魚族ね?」

「うん、そうだよ。あなたに良く似たマリアっていう娘といつもここで遊んでいたわ。あなたがそのマリアにそっくりだったから間違えちゃったの」


 マリアさんが小さいころからここで一緒に遊んでいたと、その人魚族の女性は言った。若く見えるのに、いったい何歳なのだろうか。


(多分、女性だよな?)


「私はエミリー」

「マリアはあなたのお母さん? そうか、マリアはお母さんになったのね?」

「そう……だね」


 永いこと、この人魚族の女性はマリアさんに会っていないようだ。

 それもその筈、彼女はアルセリア王宮へと嫁いでいったのだから。

 エミーを見てマリアさんの子供だと分かるのはやはり、容姿がとても良く似ているからなのだろう。


「私の名前はソラナ。ねえ、マリアは? あなたのお母さんは今どこに…… えっ?!」

「えっと……」


 返答に困ったエミーは、俺に助けを求めてきた。


「マリアはもうこの世界にはいないのね?」

「……はい。マリアさんはもうこの世にいません……でもなぜそれが?」


 なぜ、マリアが亡くなっていることに気づいたのだろうか。


「私は、人の心を読む力にけてるの」

「人の心を?」

「ええ、何時いつもできる訳ではないけど。さっきの様にエミリーさんが困った顔をしたときとかは気持ちが分かるのよ。でも、何でマリアは死んじゃったの?」


 詳しいことは知らないいようだ。


「マリアさんはアルセリア王国の王太子妃としてこのベルモントから嫁いだのですが、内戦によってアルセリア王国が滅んだんです。その時にマリアさんは……」

「マリアともう逢えないなんて……」


 人魚族の生活は海の中だから、マリアさんが亡くなっていることをこの人はずっと知らなかったのだろうか。


「マリアは言ったのよ。お嫁さんになって遠くへ行くけれど、またきっといつか逢えるよって」


 マリアさんは、ちょうどエミーが座っている岩の椅子に座って、ソラナさんと一緒によく海を眺めて話をしていたのだという。

 彼女が嫁いで行ってからは、20年間毎日ここに来てマリアさんが来るのを待っていたのだそうだ。


 そしてやっと今日になってマリアさんの姿が見えた。嬉しさの余りに抱きついたところ、勢い余って海の中に引きずり込んでしまったということらしい。


「……マリア……」


 ソラナさんは、そのまま暫く泣いていた。


「でも、マリアは自分にそっくりな娘さんを残してくれた! エミリー? あなたも魔法が使えるのでしょう?」

「ええ、一応は何とか」

「じゃあ、私の足もやしてくれる?」

「えっ、足?」


 魔法で人魚の足を生やすことが出来るのだろうか?


「マリアは私の足を生やしてくれたわ」

「足を生やした?」


 やっぱりそうだ。

 治癒魔法は、細胞の分裂を活性化させる魔法。水魔法は化学変化で水の生成が可能。そして人体の組織はすべて細胞と水分で出来ている。


「エミー、お母さんも治癒魔法の使い手だったんだろう? 治癒魔法をうまく制御出来れば、尾びれを足に変化させることが可能なんじゃないか?」

「ええっ? 無理無理! そんなこと絶対に無理!」

「欠損箇所も完全に元に戻せる魔法もあるじゃないか?」


 欠損部位を元に戻すという魔法は、DNAの設計図通りに細胞分裂をさせて再現をさせているのだと俺は理解している。

 人間のDNA設計図を元に、人魚族の尾びれに完全なエクストラヒールをかければ足が生えるという事が可能なのではないだろうか?


 俺がそんなことを考えていると、ソラナさんはじっと俺のことを見ていた。


「あなたの考えている通りよ。マリアはエクストラヒールの魔法を私の足にかけて足を生やしたんだよ」


 心を読まれるのって、何だか恥ずかしいものだ。しかし、俺の考えが正解だという事を彼女の口から聞き出すことが出来て嬉しくもあった。


「エクストラヒール……」

「そう。あなたのお母さんはできたのよ? きっとあなたにもできるわ。だって、リュシアノス家は代々ヒーラーの家系だもの」

「私にはできないわ……」


 自分にはハイヒールやエリアヒールが精いっぱいだったとエミーは言う。

 エクストラヒールという魔法があるのは知っているが、自分の周りにその魔法を行使できる人はいないし、魔道学園のライアナ先生ですらエクストラヒールは出来なかったようだ。


「マリアの娘さんだったら出来るはずよ?」

「エミー、叔父さんはどうかな?」

「叔父さんって、マリアの弟さんのジェラールのことよね?」

「そう、ジェラール・リュシアノス伯爵だね」

「ジェラールも出来るわ……また逢いたいな……」



 やはり、マリアさんの弟さんである現領主様もエクストラヒールを使える魔術師だった。


(しかし、何か訳あり風だな)


「領主館に戻って、エクストラヒールの魔法について聞いてみよう」


◇◆◇


 俺とエミーは魔道転移ドアを島の公会堂という所に設置して、設置済みのベルモント領主館に移動した。


「リュシアノス伯爵も、エクストラヒールが出来るのですよね?」

「ああ、当家は代々治癒魔法師の家系だからね」

「エミーが出来ないのは才能が無いからなのですか?」

「そんなことは無いさ。使える人が周囲にいなかっただけだと思うよ」


 やはり、エクストラヒールができるかできないかは環境の違いによるものだ。


「では、私にも出来るのでしょうか?」

「エミリー、君は小さいころから痛いところに手を当てただけで痛みが引いたという経験はないかい?」

「あ……あります。よくやっていました」


 俺がケガをした時にも、よくやってくれたね。


「それなら出来るさ!」


 エクストラヒールというのは治癒魔法の最上位の魔法であり、たとえ手足の欠損があっても遺伝子情報を基にした細胞分裂によって欠損前の状態に再生するというものだ。


 そして、遺伝子情報での再生によってなぜ人魚族に足を生やせるのかというと、人魚族の遺伝子には昔足があったときと尾びれを有した時の二つの情報が体に共存しており、足のある方の記憶を優位にしてエクストラヒールをかけると足になるらしい。


「そうさな、エミリーなら2~3日ほどで習得できるやもしれん」


 さすがのエミーも、エクストラヒールを短時間で習得という訳にはいかない。


「治癒魔法に長けた魔術師でも、通常は1年以上はかかる。その点、エミリーはうちの家系を継いでいるからね」


 エミーは叔父さんから治癒魔法の特訓を受けることになり、暫くこの領主館にお世話になることが決まった。


 その間にも、俺はリュシアノス伯爵から母親のマリアさんのことを詳しく聞くことが出来た。


 病気になっている人がいればそこに行って病を治し、ケガをしている人を見かければ駆け寄ってケガを治す。

 リュシアノス家の血を引くマリアさんはそんな気概で領民に分け隔てなく治癒魔法を施していたし、王太子妃になってからもいろんな場所で国民に寄り添ってきた。


「マリア姉さんが国民に慕われていたのはね、彼女の持つその慈悲深さを広く国民に向けられていたからなのだ」

「エミーもその血を、確実に受け継いでいますね」


「どうだい? エミリー君は。アルセリア王国を引き継ぐ決心は出来たかな?」

「いや、……難しいでしょう。彼女は意外とかたくななところがありますからね」

「そうか……」


 俺はエミーのエクストラヒール魔法の習得に2~3日はかかることを人魚族のソラナさんに伝えようと思い、一人で再度島に渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ