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第153話 砂漠のワーム退治

 音声を録音する為のメモリー回路は、膨大な記憶魔法陣を亜空間に収納して実現できたものである。


「はい、お前たちの会話はこれに全部記録しているから。言い逃れなんて出来ないよ」


 ここで俺はエミーとミラの手枷を外した。


「なっ、何をする!」


 ウルバナス侯爵は慌てて首輪を操るスイッチを押しているが、当然何も起こらない。


「何故だ!」

「あー、もうこの人、何か……モヤモヤするわ! 固めていい?」

「ああ、いいよ」

「スタン!」


 硬直閣下の出来上がりだ。エミーはよほど気持ちが悪かったらしい。


「燃やしていい?」

「もちろん、いいぞ!」

「ううっ!」


 体が硬直して横倒しになったウルバナス硬直閣下は、丸く見開いた目を血走らせて俺に命乞いをしてきた。


「ミラ、それはダメ。ジムも腹いせに許可しない」


 そこにタイミングよく、ルビオンに連れられてエイヴォン侯爵が入って来た。彼には魔道レーダーを持たせているので、俺たちが居るこの場所を容易に特定できたはずだ。


「ノーマウント伯爵を奴隷にするなど、さすが豪胆の持ち主だなウルバナス侯爵」

「あー、今この人スタンにかかってるから話せませんよ。その代わり、その直前までの音声を録音してますから、それをお聞かせしますね」


 俺は魔道ボイスレコーダーを操作し、奴隷商人とウルバナス侯爵との会話を最初から再生させてエイヴォン侯爵に聞かせてやった。


◇◆◇


 俺が作った魔道ボイスレコーダーは重要な証拠品としてエイヴォン侯爵が預かり、ウルバナス侯爵およびノクターナで俺たちに睡眠薬を飲ませてくれたクラリコン子爵は貴族から平民に落とされた後、重罪人として処刑されることが決まった。

 知らなかったとはいえ、貴族を奴隷にした所業は重罪なのである。


 ノクターナにしても、テルミナにしても、この地方一帯はエイヴォン侯爵が領主を任されているので、エイヴォン侯爵の配下にてこれらの町も管理することになった。


「もう、お茶を出されたときには先に相手が飲んでから、こっちも飲むようにしような」

「それ、貴族の常識だったね」


 俺たちがグランデール王国で貴族から出されたお茶は、全くの疑いもなく飲めていた。しかし、この地方では違うのだ。


「茶菓子もね」


 貴族のお茶会でも、茶や菓子類などは提供者が先に口にする必要がある。


「今度からは気を付けよう。さて、次はこのリーディアス地方唯一の砂漠地帯、その周縁部にあるナイアドの町に行くよ」


 ナイアドという町は、ザファーン男爵が町の代官を務めている。

 この町の南側には広い砂漠があって、南の海まで続いている。町から南西に行くと、砂漠のほぼ真ん中に“デザル迷宮”というダンジョンがある、いわゆる冒険者の町だ。




「ようこそいらっしゃいました、ノーマウント伯爵殿」


 代官所を訪ねるにあたり、俺は身分を明かした。


「突然におしかけてすみませんね、ザファーン男爵殿」


 今回は、紅茶を出されても男爵がカップの紅茶を飲んで見せるまで誰も飲まなかった。

 学習能力である。


「エイヴォン侯爵の話を聞きますと、大きな悩み事があられるとか?」

「ええ、この町はデザル迷宮に向かう冒険者が拠点にしているの町ですが、最近ではめっきり冒険者の数が減ってしまったのです」


 決して人気の無い迷宮ではないのだが、いかんせん……そこに行くまで約60kmの砂漠地帯を横断しなければならないのだという。

 そして、砂漠にはサンドワームがいる。


「その砂漠で命を落としてしまう冒険者が後を絶たず、今ではデザル迷宮に行く必要があっても二の足を踏む冒険者が多いのです」


 砂の中に潜むワームは、砂漠を歩いて渡る冒険者を下から待ち伏せてひと飲みすると言う。

 まるで蟻地獄のように動かずに潜んで、動物などが通るのを待っているのだ。


 古い映画に出てくるような、砂の中を泳ぐように動き回れる生物などいない。砂の中を泳ぐなんて芸当は摩擦が大きくて無理なのだ。

 だから、ちょっとだけ位置を変える程度しか彼らは動けないのである。


「サンドワームを退治すればいいのですか?」

「いや、それが簡単にはいかないのです。彼らは砂の中に身を隠したまま、獲物が自分の口の上に来るのをじっと待っております。砂の上を歩いていても、簡単には見つけられないのです」


 俺たちには魔道レーダーがあるのでどこにいるかは判断できるだろうが、問題はその広い砂漠地帯の中の移動方法である。


 ナイアドからデザル迷宮までは約60km、まともに歩いても2日間はかかる。

 砂漠を移動するサンドモービルみたいなものを作るか? そして空も飛べるような。



 高所恐怖症のジムが、「空を飛ぶのだけは嫌だ」というもんだから、砂漠の移動はサンドモービルにすることに決めた。

 とは言っても、そりを付けて滑るのではなくて、車体を少し風魔法で浮かせたまま自由に移動できるという乗り物である。


 そして、サンドワームを見つけた時には、そのまま10mほどの上空に上がり、魔道ライフルで狙い撃ちすれば危険が無い。



「ここの男爵も、エミーのことに気付かなかったよな」

「え? お母さんに似てるってこと?」

「そうそう」


 もう20年の歳月が過ぎ去っているのだ。

 世代が代わることによって、エミーのお母さんを知る人が領主や代官をしていることが少なくなったのは当然だろう。

 彼は30歳くらいの若い貴族だ。小さいころに見た事があるかもしれないが、マリア王妃の顔は覚えてはいないのかもしれない。



 サンドモービルの開発には、自宅の執務室とここナイアドの宿を何度か往復して作り上げた。使用した魔法陣は殆どが風魔法だ


 風魔法は気圧の変化をもたらす。

 筐体のいたるところに風魔法の魔法陣を隠し入れて、車体下側の空気圧と、上側の空気圧のバランスを変化させることで浮上が始まった。


 あとは、人が乗った時に気圧を補正する事や、偏ってひっくり返りそうになったらそれを自動で元に戻す動作、そして前方の気圧を下げることによって推進力を得るなどの魔法陣を追加してゆくと、魔道サンドモービルはついに完成した。


 サクッと試運転したあと、俺たちはナイアドの宿泊所の窓からデザル迷宮を目指して飛び出した。


「俺が運転するから、エミーは魔道レーダーを見てワームのいる方向を教えてね」

「分かったわ。結構いっぱいいるけど、これを全部やっつけるの?」


 この砂漠全体のワームを倒さないといけないかといえば、それは否である。

 ナイアドからデザル迷宮までは冒険者たちが直線的に進んで行くから、せいぜい幅1km程の安全地帯を作ってやればいいのだ。

 ワームはその場所からさほど動けないのだから。


「いや、冒険者が通れる道を作ってやれればいい。幅が1キタールの安全地帯を、デザル迷宮までの距離約50キタールまでの安全な道を作ればいいんだ」


「ジムとミラは、魔道ライフルでワームを攻撃して欲しい」

「うん」「おう」


「一匹目に近づいてきた」

「やっぱり、どこに隠れているか分からないよなあ」

「止めて! ここだと思う」

「空気穴か」


 横から見ても見えないくらいの小さな穴が、上空からはくっきりと見える。


「ジムたちはそこから狙える?」

「問題無い」

「まかせとけ」


 銃口を真下に向けて、その穴に撃ち出したファイヤーボール弾は、直径2mもあろうかというサンドワームの口を直撃し、内臓物を上空まで飛び散らせた。


「うおっ!」

「うわーーーー!」

「あ、ごめん」


 急な動きにサンドモービルが傾いて、危うく落とされるところだった。


「落ちそうだったじゃねえかー!」

「だって、中身が飛んできたんだよ?」

「次からは、もっと上な」


 高所恐怖症のジムが、もっと上に上がってもいいと言っている。


「いいのか?」

「あの中に振り落とされるよりもマシだ!」


 直線にて50kmの区間で幅が約1kmの範囲にいたワームは全部で46匹。

 蔵物にはいろいろな物が含まれていた。恐らくは人が食べられて消化できなかった物なのだろう。

 ワームの髭を証拠品として切り取るとき、否応にもそれらが目に入るのである。


(思い出しただけで気持ちが悪い)


 しかし、デザル迷宮まで来たらみんなの冒険者魂に火が付いてしまった。

 俺たちは到着してから数日間、迷宮に入り浸ってしまったのである。


 デザル迷宮の一部を堪能したあと、俺たちはナイアドまで戻りワームの討伐が終了した事をザファーン男爵に報告した。


「1週間で46匹も……」


 いつもながらであるが、その討伐スピードに驚かれた。

 本当は、行き帰りの2日間で46匹なのであるが……。

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