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第145話 二人の誓い

 宿屋で部屋をとる前に、受付でアルセリア王国時代の王宮が今はどうなっているのかを聞いてみた。


「王宮はちゃんと残っているわよ。ここの領主様が管理されているから荒らされたりはしていないわね」


 宿屋のおかみさんに聞いてみたところ、王宮は20年前の姿をそのまま残しているそうだ。

 しかし、今は誰も住んではおらず、当時の内戦で傷んだ外壁や門などは少し朽ちかけているようだと言う。


「明日の朝に行ってみようか。いいよねジム」

「おう、いいぞ。なあミラ」

「うん大丈夫」


 内戦から20年も経っているのに、ちゃんと昔のまま残してあったのは僥倖だった。


「みんな有難う」

「エミーが生まれた所ってのを見てみたいしな」


 20年前にエミーは王宮の中の離宮ってところで生まれたはずだ。

 そう考えると、俺も早く行ってみたいなと気がはやる。

 エミーにとってはなお更だろう。しかし、彼女はそれを口には出さずに皆に合わせているのだ。


(やっぱり、エミーはいい子だな)


 宿はもちろん2部屋借りた。

 昔は男2人、女2人での2部屋だったのが、今は当然のようにそれとは違う2部屋だ。


 後々の事を考えて俺たちの1部屋だけは長期契約をした。


「アル、消音の魔道具貸して」

「貸してってミラ……おまえ、少しは恥じらいってもんを持てよ!」

「なんで?」


 この子は昔から何かがズレている。追及したらこちらの負けだ。

 しかし、ミラのおかげで俺たちも消音の魔道具を起動させておいてよかったと地味に思ったその日の夜だった。


(予備も含め、2台入れててよかったな)



 次の日は宿の人に地図を描いてもらって旧アルセリア王宮へと足を伸ばした。

 王宮の場所は街の中心から少し離れた小高い丘の上で、昨日見た所からは死角になっていて見えない様になっていた。


「入れないのか?」

「今は誰も入れません」

「実は、こっちのエミーは……」

「ジム……諦めよう」


 中に入れるかもと思っていたが、俺たちは門番に阻まれた。


「だってよう、折角ここまで来たんだぜ?」

「今はまだ……ね?」


 エミーの懇願に、ジムは何も言えなくなった。

 エミーも俺が思っているのと同じで、今ここで自分の昔の身分を明かすのは良くないと思ったようだ。


「おう、分かった」


 中には誰も通さないと言われた。でもそれが逆に俺たちを安心させる材料でもあったのも間違いない。


「しっかり管理されていて、中には誰も入ることを許されていないってことは、中は当時のままである可能性が高いって事だよね」

「そうだろうね」


 仕方がないので、俺たちは外から外観を眺めるだけにした。


「いつか、エミーが中に入れる日が来るよ」

「うん。アルと一緒にね」


 エミーは俺の肩にもたれ掛かって、少し朽ちかけた王宮を暫く眺めていた。


◇◆◇


 エルバの港町までは馬を借りて移動した。

 Sランク冒険者でもさすがに、ずっと走り続けるのは辛いのである。


 アルセリアからエルバまでは距離にして80km程の距離がある。

 1日でこの距離を移動するには、馬だったら乗り継ぎをしなければならないが、それが出来る所も無いから間に野営を1日挟む。


 2日目の昼頃にエルバの港町に着くと、俺たちはソフィアさんに書いてもらったメモを頼りに、墓守をしているフィリップさんの家を探した。


 フィリップさんの家は、エルバの中心部から海岸沿いに暫く南下していけば見えてくるという小高い丘に差し掛かったところで見つけた。

 ポツンと1軒だけの小さな家があるだけだったので、フィリップさんの家だとすぐに判断できた。


「こちらはフィリップさんのお宅ですか?」

「おう、そうだが、どの様な用向きかな?」


 フィリップさんという人は70をとうに過ぎているようで、人は良さそうだが鋭い目が印象的なおじいさんだった。

 天頂はツルツルだが、耳の上だけは白髪がある。足が悪いのか、杖をついた状態で玄関のドアを開けてくれた。


「あの、私たちはグランデール王国から参りました冒険者の4人です。ここにアルセリア王国時代の国王様のお墓があると聞いてきたのですが、ご冥福をお祈りさせていただきたいと思って来ました」


 フィリップさんは怪訝そうな表情で次のように訪ねてきた。後ろに立つエミーたち魔術師の顔がフードで隠れている事もそうさせた一因だろう。


「それは殊勝な事じゃが、ここにアルセリア国王様の墓がある事を誰にお聞きになられたのかな?」

「フラウの街に住まわれているソフィアさんという方からお聞きしました」

「ソフィアか…‥まあ、いいじゃろう。彼女が勧めた者なら問題ないじゃろうて」


「誰もがお祈りをささげられるという訳では無いのですか?」

「誰でも良いという訳では無い。今ではカルトール公爵は失墜したと聞くが、まだまだあ奴の息のかかった連中は沢山いるのだ。そんな奴らを陛下の御前に連れて行く事などできるものか!」


 話しぶりからしても、生粋のアルセリア国王派だ。


「ご安心ください、私たちはその様な者ではありません」

「グランデール王国には感謝しておるよ。カルトールを滅ぼしてくれたからのう。では早速行こうか、陛下の御前に」


 彼の歩調はゆっくりだったが、誰も何も言わずに付いて行った。

 暫くすると丘に登る道が平坦になり、大きな石で作られた2つの墓碑が見えてきた。

 眼下には広大で真っ青な海が広がっており、この場所を遺言で指定した気持ちが納得できる。


 俺たち4人は、膝をついて墓碑の前で暫く手を組んだ。

 墓碑には、【アルセリア王国 第11代国王 アレクサンド・アルセリア ここに眠る】と書いてある。

 もう一つの墓碑には、【王妃 マリア・アルセリア】とも。


 俺とエミーは、この場で誓いの言葉をささげる事を申し合わせていた。


「お父さま、お母さま」

「んむ?」


「わたくしエミリーは、お二人の前でこのアルフレッド・ノーマウント様を伴侶として、一生を共にすることをお誓い申し上げます」


「……?」


「わたくし、アルフレッド・ノーマウントは、あなた方の御前でエミリーを一生涯幸せにすると、ここに誓います」


「お、……お前たちはいったい何なんじゃ! 陛下の御前で勝手に誓いなどしおって!」


 ここで、俺たちは立ち上がって向かい合う。

 そして、エミーは魔術師のフードを外してその顔と髪を露わにした。


「まっ、マリア様!!」

「おっと、ちょっと待ってくれな、今いいところなんだから」


 エミーを見て駆け寄ろうとしてるフィリップさんの肩を、ジムが抑えてくれた。


「ご両親への誓いは立てた」

「うん、そうだね」

「エミー、俺と結婚してほしい」

「……はい、喜んで」


 チラッとフィリップさんを見ると、まだ困惑した表情をしている。


「なぜ? ……マリア様がここにいるんじゃ?」

「フィリップさん、この人はマリア様によく似ていますが、マリア様ではありませんよ」


「し……しかし、わしの記憶にあるマリア様によく似て……ご両親? もしかして……」

「はい、私はマリア・アルセリアの娘、エミリーと申します」


 そう言って、エミーはフィリップさんにペンダントを外してそっと差し出した。


「この紋章は……間違いなく王家の……そうか! やはりそうだったのか! 王女様は生きておられたのか!」


 フィリップさんは、感極まってその場に突っ伏してしまった。

 肩が小刻みに震えている。その背中は泣いているように見えた。

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