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第144話 アルセリアの街

 エミーとオリビアさんは遠い親戚なのだろうとは思っていたが、まさか姉妹だったとは俺もさすがに驚いた。

 顔や髪の色が異なっているから、親戚だとしても遠縁だと思っていたのだ。


 エミーは母親似だし、オリビアさんも母親似のようなので、二人はさほど似てはいない。


「エミリー様はマリア様と瓜二つです。まるであの頃のマリア様を見ているようです」


 ソフィアさんは、最初にエミーを見た時に思わず彼女に抱きついた。

 祠の中にあった絵を見ても、俺たちでさえ見間違えそうなほど似ているのだ。


「私は母さんにそれほどまで似ていないわ」

「リビーは両方とっているわね」


 オリビアさんは、アレクサンド国王とソフィアさんの両方の特徴が混ざっているという事だろう。


「姉妹といっても、あまり似ていないのはそういう事なのな」

「でも色は一緒」

「ミラがその色? で気付いてくれたから私の大切な人たちが見つかったの。私の家族とも言える人たちが……有難うね、ミラ」

「これからも頑張る」


 サムズアップをしながら何を頑張るのか分からないけれど、本当にエミーの言うとおりだ。

 あの地下施設で、『彼女はエミーと親戚かもしれない』と突然言ってきたのにもビックリしたが、あれだけ沢山の人の中から親類を探し当てる能力というのは、とんでもない特異才能なのではないだろうか。


 もしかしてミラが頑張ると言っている意味は、エミーの親戚をもっと見つけると言っているのかもしれない。


「私はずっとこの年まで父親が誰だか分からなくて……ずっとモヤモヤを抱きながら生きてきたけど、エミーさんは両親ともが分からなかったのよね」


 エミーは孤児院に預けられて育ったから、両親が誰なのかこれまでずっとわからなかった。

 オリビアさんは、自分の事よりもエミーのほうがもっと大変だったのだろうと言っている。思いやりのあるいい子だ。


「あのっ! 姉妹だってことが分ったんだから、さん付けとかはもうよしましょう?」

「そ、そうですよね……そうよね、姉さん」

「うっ! ね、姉さんって呼ばれたよ、アル! 嬉しい!」


 エミーは生まれて初めて『姉さん』と呼ばれて感激している。とても嬉しそうだ。

 俺は言わなかったもんな。


「本当によかったね、エミー」

「あ、でも私だけだよね、ごめんなさい」

「姉さん……どういう事?」


 オリビアさんは俺たちが孤児院出身だという事を知らなかったのだから、エミーの一言に疑問を持ったようだ。


「俺たち4人は孤児院に預けられていたんだ」

「4人とも両親を知らずに育ったんだけれど、今はエミーの両親が判明したし、妹も見つかったって訳。それも両親はアルセリア国王様と王妃様っていう信じられない様なおまけ付きでね」


「そうだったんですね、私なんか母親がずっと一緒だったのに……モヤモヤして生きてきたなんて、そんなこと言ってたのが今更だけど恥ずかしいです」


「でもよう、今回エミーの両親が判明したわけだから、俺たちもいつか分かる気がするんだよな」

「きっと分かる」

「そうだよね、ミラがいれば分かる気がするよ」


(俺だけは少し特殊な気がするけど……)


「ねえ、母さん。それで、私の父親……ていうか、アルセリア国王だった人のお墓ってあるの?」

「ええ、有るわよ。二人の遺言だったと聞いたのだけれど、エルバにお墓があるのよ」

「そ、そこにはどのように行けばいいのですか?」


 エミーが両親のお墓があると聞いて少し興奮気味だ。


「はい、エルバの港から1キタールほど海岸線を南にを行くと、小高い丘がございます。そこに、陛下とマリア様のお墓がございます。エミリー様がお墓に行かれるのでしたら、そこの墓守を尋ねられたら宜しゅうございます」


 元国王陛下の墓には、墓守がいるらしい。


「墓守の方がいらっしゃるんですね?」

「ええ、アルセリア王国時代に国王様の配下だった方なのです。その方にお会いになられたら、もっと色んなことが判るのではないかしら」


 ソフィアさんはそう言って、フィリップさんと言う墓守の方の住所を教えてくれた。

 アルセリア国王の墓のすぐ近くに住み、カルトール公爵勢力の者たちから悪さをされないようにと自ら願い出て、一人で墓を守っているのだという。


「ありがとう、ソフィアさん」

「いえ、エミリー様がきっと……」

「ねえ母さん、わたしも一緒に行きたい!」

「リビーは私と一緒に行きましょう。墓守のフィリップさんとは積もる話もあるし」

「うーん、分かった」


 ソフィアさんが言いかけた後の言葉を妙に聞きたかったが、ソフィアさんは言葉を切ってしまった。


◇◆◇


 俺たち4人はその足で、エルバの港町を訪ねることにした。

 実は1カ月後にグランデール王国全土の貴族に招集がかかっているのだが、俺たちにはエルバを訪ねる時間は十分にある。


 まだ魔道ドアを利用できない一般の貴族たちは、長い時間をかけて王都へ向かわなければならない。

 しかし、俺たちは魔道ドアが使えるから余裕綽綽(しゃくしゃく)なのである。


「フラウからエルバまでは途中アルセリアを通らないといけないから、そこで1泊するね」

「うん」

「分かったぞ」

「……私の両親が暮らしていた街……だよね」


 エミーの本来の名前は、エミリー・アルセリア。今はアルセリア王国が滅んでしまっているから貴族でもないただのエミリーだ。

 しかし、アルセリアという都市の名前はそのまま残されている。


 フラウを朝早く出てきた俺たち4人は、全員に身体強化魔法をかけてアルセリアまでの60kmの距離を6時間で駆け抜けた。

 俺たち4人は高レベルの冒険者なのだ。


 いや、時速10kmというと速めのジョギング程度のスピードだが、それを6時間も続けるというのはちょっと無謀だった。


「あー、時間に余裕が無いってんなら仕方ないけどよ、馬車で移動しても良かったんじゃね?」

「私も途中でそう思ったわ」

「定期馬車の御者さん、変な顔してたもんね」


 定期馬車のスピードが時速8km位だから、途中で俺たちが馬車を追い越した訳である。


「私は大丈夫」

「ミラ! お前な、途中でジムにおんぶしてもらって寝てたじゃねえか!」

「ミラは軽いから俺は大丈夫だぞ」


 ジムは『乗せて?』というミラの要求を断れなかったのである。


「いや、そんな問題じゃないって」

「ジムはミラをちょっと甘やかしすぎだよ」


 魔力切れでジムにおんぶされてからというもの、ミラはジムの背中が大そうお気に入りだ。


◇◆◇


「ここがアルセリア……」


 街並みは、地球の欧州の建築様式を思い起こさせる。

 しかし、昔栄えていたであろう市場や市街の雰囲気は、気のせいかもしれないが今少し活気を感じられなかった。


「先ずは宿を探そうか」


 けっこう広い街だから宿を探すのには苦労しそうだと思ったが、意外とすぐに見つかった。


 この街はアルセリア国王時代に国の交通の要となった場所だ。

 北に行けばグランデール王国にも行けるし、南西はハルス、南東に行けばベルモントと言う大きな港街に行くための拠点になる。


「商人もここを拠点にする訳だから、宿も多いんだろうな」

「ねえ、アル」

「何?」

「王宮ってまだあるのかな?」


(そうだよね、気になるよね)


「どうなんだろうね? 宿の受付で聞いてみようか?」

「うん!」


 ざっと見回した程度では王宮らしき建物は見当たらなかったが、先ずは王宮が残されていないかどうかを聞いてみようという事で俺たちは宿の受付へ向かった。

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