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第141話 無血入城

 騎士団長と共に地下施設を制圧したことを陛下に報告すると、陛下はすぐに戦略会議を招集した。魔道ドアがあるので、各地からメンバーが集まるのはあっという間だ。


 会議の結果、カルトール公国の首都ハルスの近郊に魔道ドアを複数設置し、騎士や兵隊を秘密裏に転移させることになった。


 各地の領主との調整にて、エルミンスターから歩兵千名、マルチャールからも歩兵千名、エイヴォンから騎士五百と歩兵千名、ルノザールから騎士二百と歩兵五百、ブリストルからは歩兵五百の出陣となる。


 総勢で、騎士が七百名に兵四千名の合計四千七百名が招集される。

 これらは皆、出身地の領主館から魔道ドアでの直接転移だ。


 首都ハルスから地下施設に続く北西の道には、エイヴォン侯爵率いる千五百の騎士隊と兵隊が布陣する。


 ハルスからテルミナ港に続く南西側には、エルミンスター辺境伯率いる兵隊千名。

 ハルスからアルセリア方面に続く道沿いに、マルチャール伯爵率いる千名の兵隊。

 ハルスから南東のナイアドへ続く沿道にはルノザール伯爵とブリストル辺境伯率いる千二百名の騎士と兵士がそれぞれハルスを取り囲む形で移動を開始した。


 総隊長はエルミンスター辺境伯であり、指示を受ける各領主はそれぞれの現場で指揮を執るが、各種魔道具を使いながらの連携作戦となる。


◇◆◇


 兵の布陣が完了するまでには3日がかかる為、俺たちは再度地下施設に戻る。


 魔力充填要員をしていた魔術師の素養がある者たちには今後の選択肢を示し、よく考えてから返事をするように促した。するとミラが突然、エミーの親戚ではないかと思う女性がいると言ってきた。


「エミーと色が同じ女の娘がいる」


 何かしらの色が見えるミラは、エミーの色にとてもよく似た特色の娘がいる事を見つけ、俺たちに相談してきた。


「同じ色の人ってたくさんいるんじゃないの?」

「色だけじゃない。明るさが瞬きする感じがエミーと同じ」


 明るさの瞬きって言われても意味が良く分からないが、ミラは自信を持っているようなので、彼女を連れてくるように言った。


 しかし、王家に関連する情報は得られなかった。お父さんの名前を聞いたのだが、教えてもらってないと言うのだ。

 お母さんは? と聞くと、ここから300km程離れたアルセリアの街の近くフラウという町に住んでいるらしい。


 馬車で1週間かかる距離だったからか、暫くは帰っていないという。

 エスカの村からさほど離れていないようだから、そっちから行った方が早いだろうか。


 しかしその前に、このカルトール公国を何とかするのが先だ。


 俺たち4人とルビオンは、誰にも見つからない場所に魔道ドアを4カ所設置する任務が与えられている。

 騎士隊や兵隊が集合すれば一気にこのドアを使って転移し、1時間ほどで首都ハルスの包囲網が完了することになる。


◇◆◇


 地下施設を制圧して3日後、ハルスの宮殿には切羽詰まった声が響き渡っていた。


「陛下! この街の四方にグランデール王国の者と思われし兵隊が押し寄せておりまする! その数およそ4千以上!」

「何だと? 今のグランデールはゴーレムの襲来でそれどころではない筈であろう?」

「それが、製造所からは1000体のゴーレムが確かにグランデール側に出て行ったとの報告はあったのですが、その後の報告が全く無いのです」


 (報告が無いとはいったいどいう事だ?)


「こちらから聞けに行けばよかろうが!」

「それが、地下製造所の入り口には内側からカギが閉まっていて、入れない状態であるとの事です」

「内側からだと?」


(何故そんなことをしているのだ?)


「押し寄せているという兵隊は本当にグランデール王国のものなのか? その様な兵隊の移動はどこにも確認されていなかったであろうが?」


 我が国の兵力といえばハルス内に500名の騎士がいるのみで、国外からの襲撃に備えるために兵士は港町テルミナ近郊に2000人ほどを配備しているに過ぎない。

 


「それが……信じられない話ですが、ハルスに入る4つの街道上にいきなり降って湧いたように、4か所同時に1000人以上の兵士が突如現れたとの事です」

「突如現れた……だと?」


(1000人以上の兵隊がそこに突然現れたとは、いったい? まさか!)


「信じられない事ですが、グランデール王国は空間転移の技術を確立しているのではないでしょうか?」

「空間転移か……にわかには信じられないが、それしか説明ができそうにないな」


「最近グランデール王国内で新しい魔道具がいくつも開発されております。魔道バッグなる物を商人から購入しましたが、あれは確かに空間魔法を駆使した魔道具でございました」

「その延長線上が、空間転移魔法か……」


 私は頭を抱えた。


(もしそうだったら? 我々が勝てる見込みなど微塵も無いではないか)



「陛下、敵陣から使者が送られてきました」

「グランデールからの使者か?」

「敵陣総隊長のエイヴォン侯爵の使者との事でございます」

「ふむ、……会議室へ通してくれ」


(兵の移動もゴーレムの移動も簡単ではない以上、何とか交渉を先延ばしせねばならんな)



「私はアルフレッド・ノーマウントと申します。グランデール王国では子爵の任を授かっております。本日は、総隊長エイボン侯爵の名代としてまかり越しました」

「よく来られた、ノーマウント子爵殿」


 まだ若いのに子爵の地位を得ているというこの御仁は、アルフレッド・ノーマウントと名乗った。

 最近グランデール王国内で魔道具の開発が進んでいる。その立役者がノーマウント男爵ではないかという情報が報告されていた。

 現在は功績を認められ子爵になっているのだろう。恐らく彼が魔道具開発の張本人でであろうな。


「先に聞いておきたいことが2つあるのだが、宜しいか?」

「はい、何でしょう?」


「グランデールの湿地帯に1000体のゴーレムを出現済みだが、これらはどうなったのだ?」

「その日のうちに、現場近くにてすべて無力化しております」


(その日のうちにだと?)


「そうか……では、もう1つ、4千以上の兵力をもって一瞬でここを包囲した方法は、やはり空間魔法を使ったのであろうか?」

「そうですね、空間魔法で人が瞬時に移動できる魔道具と言った方がいいでしょう」


(そうか……はは……完全に我らの上を行っておるな)


「それでは、総隊長エイヴォン侯爵の要求をお伝えしてもよろしいか?」

「ああ、聞こう」


 エイボン侯爵の要求はこの国の降伏、その後、グランデール王国による統治であった。


「貴族や高官の処遇はどうなる?」

「貴国はグランデール王国に対して、殺傷能力のあるゴーレム1000体を送り込んだ。その事は我が国にとっては貴国からの宣戦布告と受取ります。その戦争責任は誰かに取ってもらう必要がありますね」


 このノーマウントという御仁、大隊長の名代としては若く、言葉も丁寧でもの腰も低い。こちらの有利な条件へ持っていかねばなるまいな。


「今更媚びを売っても仕方がないが、私の命を聞かざるを得なかった家臣や貴族にはどうか温情をお願いしたいのだ」

「それは私が決める事ではないですが、良きよう陛下に進言すると致しましょう」

「ああ、そうたのむ。では、私の処遇も良きように進言してもらえるのだろうな?」


 私がそう言うと、彼の身体からは尋常ではない殺気が放たれた。


「アルセリア国王だけではなく、その王女エミリーまでもお前は殺そうとしたのだ! 生かしておけるわけが無かろうが!」

「ひっ!」


 私は恐怖のあまり全身の力が抜け、股間が温かくなってしまったのにも気づくことが出来なかった。



 カルトール公国側は、一気に押し寄せた4千人をこえる軍隊に無駄な血を流さないで降伏するという選択を行った。

 歴史書にはそう書かれるが、エイヴォン侯爵の名代による降伏の勧めに、カルトール公国の君主は震える手でサインをしている。


 かくしてカルトール公爵は、無血裏による降伏と宮殿の即時解放、グランデール王国による統治を受け入れた。

 沢山の人の血が流れる争いは、避けるに越したことは無いのである。

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